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【宝石少年と言葉の国】
一難去ってまた一難
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しかし地面に降り立とうと姿勢を整えようとしたルルの足首を、宝石像のゴツゴツした手が逃すまいと掴んだ。
「ルル!」
ジェイドは自分よりもひと回り大きな像へ、咄嗟に体をぶつけた。すると、バランスを崩した宝石像が放ったルルを受け止める。
「無事か……!」
『うん、ありがとう。ジェイドも平気?』
「ああ、助かったよ。しかし妙だな、私たちへ確実に攻撃をするようになっている」
『そうだね。さっきまでは……邪魔をするだけ、だったのに』
前面に広がった光景には思わず苦笑いが出る。槍や剣などを持った緑の像がこちらに向かって来ているのだ。まるで戦場の兵士の様に足並みが揃っている。
『あ……さっき、ジャスパーが……外に居るボクが、2人を、邪魔するって』
「ふむ。宝石を壊しても、心臓部……国宝自体をどうにかしなければ、意味が無いようだな」
『ん……状況が、変わってしまったね』
「はっはっは、一難去ってまた一難とはこの事だ」
『早く、国宝の所に行こう。次が来てしまう前に』
何故か考え込み始めたジェイドを急かし、腕を引っ張る。しかし彼は、スカイスキーに乗り込もうとしない。兵たちは行進を続けて迫って来ている。
『ジェイド、何してるの?』
「先に行きたまえ。ここでどうにかしなければ、またどちらも身動きが取れなくなるだろう」
『え……駄目だよ、1人でなんて。なら、僕も』
「聞きなさい。ここで食い止める役は誰でも負える。だが、国宝をどうにか出来るのは、君だけだ」
ジェイドはルルの頭にポンと手を乗せて微笑む。
「私の子を助けておくれ、ルル」
それまで腕を引っ張ろうとしていた手が、渋々と言ったように離される。
ずるい。そんな事を言われれば、それ以外の言葉が安くなってしまうではないか。彼は信じてくれている。それなら自分も信じて応えなければいけない。
『……何か、手立ては、あるんだよね?』
「もちろんだとも。私は最高の師匠から錬金術を伝授されたんだ。その力を見くびってくれるな」
『分かった、信じる。気を付けてね』
「ああ、そっちも」
ジェイドはスカイスキーに埋め込んだパネルを手慣れた様子で操作する。機体は彼に従って空高くへ浮上した。ルルは落ちない程度に地上に顔を出す。
『あとでね?』
「分かっている。頼んだぞ」
スカイスキーは、まだ何か言いたげだったルルを無視して発進する。あっという間に彼方へ飛んで行った。
無事見送った直後、今まで大人しかったリンクスが意地悪そうに笑った。
『随分格好つけたな?』
「からかうな。全て思い出したと言っただろう。アレを頼む」
『おうよ』
ジェイドは荷物を背負ったまま、その中に手を入れる。兵はもう彼を仕留められるだろうと、槍を突き出していた。鋭い刃先が心臓を貫こうとしたその時、彼のリュックの中に入れていた手が何かを握って取り出される。
その瞬間、小さな物が破裂するのによく似た音が響き、今にもジェイドを殺そうとしていた宝石像が倒れた。
「残った私が、本当に丸腰だと思ったのかね?」
その両手に収まっているのは、腕ほどの長さをした2丁の銃だった。黒い体に血管の様な赤い線が浮かんで、定期的に点滅している。
これは彼が幼い頃、自分で最初に作った愛用の銃だった。しかしこの存在も忘れていたから、握るのは10年ぶりだ。
ジェイドは久々に感じる銃の重さに満足そうにしている。
『鈍ってるんじゃないか?』
「なめるな相棒。一発で命中だ』
見れば、その弾は宝石像の腹部を貫いていた。弾が鉄を焼く音を立てると、みるみるうちに兵の体がバラバラになっていった。
この弾は特殊なもので、マグマ石よりも遥かに高い熱を凝縮させて作っている。
「ふむ、悪くない」
『何だ、随分あっさり死ぬじゃねえか』
「人間で言えば心臓を狙ったからな。こいつらは体の中心、つまり腹部に動くための核があるのだよ。それさえ撃ってしまえばお終いだ」
怯む様子も無くこちらへ進む兵たちの腹を次々撃ち抜いてやると、彼らは同じ様に崩れていった。
放たれる弾は迷いなく真っ直ぐ彼らを葬り続ける。銃を持ち兵たちと向かい合う姿は、とても楽しそうだ。
「さて、遠慮せずに掛かって来たまえ」
ジェイドは一斉に刃と殺意を向ける彼らへ、2つの銃口を向けると引き金に指を置いた。
~ ** ~ ** ~
ルルは一直線に元大図書館へ飛び続けていた。彼は振り返ろうとしない。あの場はジェイドに委ねたのもそうだが、すぐに現れた新しく迫る音に、前を向く以外の選択を奪われたのだ。
追って来ているのは兵士ではなく、肉食獣の様な歯を持った巨大な花。腹を空かせた花は徐々に距離を縮ませているが、ルルにはスカイスキーのスピードに頼る以外殆ど何も出来なかった。
(捕まったら、本当に食べられそう)
時折小さな抵抗として、花の前に宝石の壁を作るのだが、それすら力強く突き破って来る。
何度目かの壁を突き破った肉食花は、自ら砕いたルルの宝石を食べてより体を巨大化させていった。
(核を壊さないと。やっぱり、剣が欲しい)
核を直接、それも正確に壊すのは、少し繊細な作業だ。慣れない力よりも馴染んだ剣の方が、無駄に力を消耗させずに確実に倒せる。
おそらくあの炎によって、剣を覆っていた宝石も崩れた筈だ。
(どこだろう? 宝石が多過ぎて……地上に降りないと、分からないかも)
はやる気持ちを煽る様に、それまで安定していた足元がグラリと大きく揺れた。何事かと後ろを見てみれば、充分に栄養を補給した肉食の宝石花の大口から、新しい花がいくつも伸びてきている。
それは小さいながらに主体と全く同じ姿で、機体に真っ先にかぶり付いていた。機械なんて苦にはせず美味しそうに喰らい続け、足場は小さくなり、代わりに揺れは大きくなっていく。
ルルは無数の気配が機械を蝕む事をなんとなく理解した。しかしそれ以上に不味い状況を、宝石の耳が察知する。機械からバチバチと、小さく爆ぜる音が聞こえているのだ。
(あ、まずいかも)
ルルは嫌な予感に背中を押され、一か八かで自ら飛び降りる。直後、スカイスキーは予想通りにそれなりの音を立て、小さな花を巻き込み爆発した。
無事に受け身を取れ、宝石の床へ着地には成功した。空からコツコツと、地面にスカイスキーだった破片が、あられの様に降ってくる。
(あぁ……あとでジェイドに、謝らないと)
今はとりあえず、無事だった事に感謝しよう。偶然でも地上に降りられたのだから、無事剣を探せる。巨大な花は、爆発の煙のせいでルルの姿を見失っていた。
しかし数えきれない宝石の香りが誘うため、どれが剣なのか判断するのに少し時間が必要だ。それに、別の攻撃がいつ来るかも油断出来ない。
悩ましそうに周囲を見渡し、剣を求めて歩き始めた時、頭に突然小さな雑音が訪れた。
しばらく放って置いたが、全く治らない音にルルは不愉快そうに眉根を寄せる。しかしふとその顔は元の表情に戻る。雑音だと思っていたそれが少しずつ大きさを増し、別の音になってきたのだ。
その音は、多くの宝石の中から主張する様に目立つ宝石の音だった。
まるで生きているかの様に、自分を呼ぶ音。普段聴く甲高い音ではなく、心地良く低い、体に染みる音だ。足が無意識にその音の方へ向かっていた。
(この音……どこかで、聞いた事ある)
思い出した。クーゥカラットの声と同じ音程なのだ。
ぷつりと音が止んだ時、靴先が何かを蹴った。それは探し求めていた剣。ルルは目を丸くしながら、グリップを探るように握る。剣に埋め込まれた石が僅かに瞬いた。
偶然か必然か、あの不思議と懐かしい音がここへ導いてくれた。もしかすれば気のせいかもしれない。しかしどちらだろうと不安を吹き飛ばすには充分だった。孤独でないと分かるだけでこんなに心が満たされる。早くジャスパーをそこから引き上げなければ。
『……うん、大丈夫。独りぼっちじゃ、ない』
ようやくルルを見つけた肉食の花が歓喜に叫ぶ。しかし地面に亀裂が入るほどの轟きに彼は驚く素振りを見せず、平然と振り返って剣を構えた。
独りではなくなった今、不安は無い。
太い茎から細長い葉が生まれ、振り落とされる。ルルはまるで大剣の様な葉を避けず、剣の腹で受け流した。地面に突き刺さった葉は根深く、すぐには抜けないだろう。次の葉が生み出されるのだって数秒の時間はかかる。
ルルは橋のようになった葉の上を、切っ先を根元へ向けながら一直線に駆けた。
先程からいくつも宝石の核の脈動が聞こえてきている。新しく生まれた葉の核は、花とは別で根元の茎にあるらしい。試しに力一杯にそこへ剣を突き刺すと、今まで丈夫だった葉がたちまち、ガラスの様に粉々に崩れ始めた。
ルルは不安定な足元から、新しく襲い掛かる葉に軽々と跳び移る。時折り邪魔する蔓は、宝石を纏わせて氷の様に固め、動きを鈍らせた。
それでも新しい葉や蔓など、獲物を捉えようとする物たちはまたすぐに現れる。だが彼はそれに対して、軽く防ぎ続けるだけで攻撃を仕掛けなかった。
まだだ。本体である花の核を壊すまでに、少しの間だけ時間を稼げればいい。
花の吠える声が近くに聞こえてきた。ルルは固めた蔓を足場にして更に高く、花よりも上に跳んだ。花は無数の歯を持った大口を開いて構える。すると大きな口を目の前に、彼の目が丸くなり「あ」と呟かれる。そして、そのまま食べられるように包まれた。
「ルル!」
ジェイドは自分よりもひと回り大きな像へ、咄嗟に体をぶつけた。すると、バランスを崩した宝石像が放ったルルを受け止める。
「無事か……!」
『うん、ありがとう。ジェイドも平気?』
「ああ、助かったよ。しかし妙だな、私たちへ確実に攻撃をするようになっている」
『そうだね。さっきまでは……邪魔をするだけ、だったのに』
前面に広がった光景には思わず苦笑いが出る。槍や剣などを持った緑の像がこちらに向かって来ているのだ。まるで戦場の兵士の様に足並みが揃っている。
『あ……さっき、ジャスパーが……外に居るボクが、2人を、邪魔するって』
「ふむ。宝石を壊しても、心臓部……国宝自体をどうにかしなければ、意味が無いようだな」
『ん……状況が、変わってしまったね』
「はっはっは、一難去ってまた一難とはこの事だ」
『早く、国宝の所に行こう。次が来てしまう前に』
何故か考え込み始めたジェイドを急かし、腕を引っ張る。しかし彼は、スカイスキーに乗り込もうとしない。兵たちは行進を続けて迫って来ている。
『ジェイド、何してるの?』
「先に行きたまえ。ここでどうにかしなければ、またどちらも身動きが取れなくなるだろう」
『え……駄目だよ、1人でなんて。なら、僕も』
「聞きなさい。ここで食い止める役は誰でも負える。だが、国宝をどうにか出来るのは、君だけだ」
ジェイドはルルの頭にポンと手を乗せて微笑む。
「私の子を助けておくれ、ルル」
それまで腕を引っ張ろうとしていた手が、渋々と言ったように離される。
ずるい。そんな事を言われれば、それ以外の言葉が安くなってしまうではないか。彼は信じてくれている。それなら自分も信じて応えなければいけない。
『……何か、手立ては、あるんだよね?』
「もちろんだとも。私は最高の師匠から錬金術を伝授されたんだ。その力を見くびってくれるな」
『分かった、信じる。気を付けてね』
「ああ、そっちも」
ジェイドはスカイスキーに埋め込んだパネルを手慣れた様子で操作する。機体は彼に従って空高くへ浮上した。ルルは落ちない程度に地上に顔を出す。
『あとでね?』
「分かっている。頼んだぞ」
スカイスキーは、まだ何か言いたげだったルルを無視して発進する。あっという間に彼方へ飛んで行った。
無事見送った直後、今まで大人しかったリンクスが意地悪そうに笑った。
『随分格好つけたな?』
「からかうな。全て思い出したと言っただろう。アレを頼む」
『おうよ』
ジェイドは荷物を背負ったまま、その中に手を入れる。兵はもう彼を仕留められるだろうと、槍を突き出していた。鋭い刃先が心臓を貫こうとしたその時、彼のリュックの中に入れていた手が何かを握って取り出される。
その瞬間、小さな物が破裂するのによく似た音が響き、今にもジェイドを殺そうとしていた宝石像が倒れた。
「残った私が、本当に丸腰だと思ったのかね?」
その両手に収まっているのは、腕ほどの長さをした2丁の銃だった。黒い体に血管の様な赤い線が浮かんで、定期的に点滅している。
これは彼が幼い頃、自分で最初に作った愛用の銃だった。しかしこの存在も忘れていたから、握るのは10年ぶりだ。
ジェイドは久々に感じる銃の重さに満足そうにしている。
『鈍ってるんじゃないか?』
「なめるな相棒。一発で命中だ』
見れば、その弾は宝石像の腹部を貫いていた。弾が鉄を焼く音を立てると、みるみるうちに兵の体がバラバラになっていった。
この弾は特殊なもので、マグマ石よりも遥かに高い熱を凝縮させて作っている。
「ふむ、悪くない」
『何だ、随分あっさり死ぬじゃねえか』
「人間で言えば心臓を狙ったからな。こいつらは体の中心、つまり腹部に動くための核があるのだよ。それさえ撃ってしまえばお終いだ」
怯む様子も無くこちらへ進む兵たちの腹を次々撃ち抜いてやると、彼らは同じ様に崩れていった。
放たれる弾は迷いなく真っ直ぐ彼らを葬り続ける。銃を持ち兵たちと向かい合う姿は、とても楽しそうだ。
「さて、遠慮せずに掛かって来たまえ」
ジェイドは一斉に刃と殺意を向ける彼らへ、2つの銃口を向けると引き金に指を置いた。
~ ** ~ ** ~
ルルは一直線に元大図書館へ飛び続けていた。彼は振り返ろうとしない。あの場はジェイドに委ねたのもそうだが、すぐに現れた新しく迫る音に、前を向く以外の選択を奪われたのだ。
追って来ているのは兵士ではなく、肉食獣の様な歯を持った巨大な花。腹を空かせた花は徐々に距離を縮ませているが、ルルにはスカイスキーのスピードに頼る以外殆ど何も出来なかった。
(捕まったら、本当に食べられそう)
時折小さな抵抗として、花の前に宝石の壁を作るのだが、それすら力強く突き破って来る。
何度目かの壁を突き破った肉食花は、自ら砕いたルルの宝石を食べてより体を巨大化させていった。
(核を壊さないと。やっぱり、剣が欲しい)
核を直接、それも正確に壊すのは、少し繊細な作業だ。慣れない力よりも馴染んだ剣の方が、無駄に力を消耗させずに確実に倒せる。
おそらくあの炎によって、剣を覆っていた宝石も崩れた筈だ。
(どこだろう? 宝石が多過ぎて……地上に降りないと、分からないかも)
はやる気持ちを煽る様に、それまで安定していた足元がグラリと大きく揺れた。何事かと後ろを見てみれば、充分に栄養を補給した肉食の宝石花の大口から、新しい花がいくつも伸びてきている。
それは小さいながらに主体と全く同じ姿で、機体に真っ先にかぶり付いていた。機械なんて苦にはせず美味しそうに喰らい続け、足場は小さくなり、代わりに揺れは大きくなっていく。
ルルは無数の気配が機械を蝕む事をなんとなく理解した。しかしそれ以上に不味い状況を、宝石の耳が察知する。機械からバチバチと、小さく爆ぜる音が聞こえているのだ。
(あ、まずいかも)
ルルは嫌な予感に背中を押され、一か八かで自ら飛び降りる。直後、スカイスキーは予想通りにそれなりの音を立て、小さな花を巻き込み爆発した。
無事に受け身を取れ、宝石の床へ着地には成功した。空からコツコツと、地面にスカイスキーだった破片が、あられの様に降ってくる。
(あぁ……あとでジェイドに、謝らないと)
今はとりあえず、無事だった事に感謝しよう。偶然でも地上に降りられたのだから、無事剣を探せる。巨大な花は、爆発の煙のせいでルルの姿を見失っていた。
しかし数えきれない宝石の香りが誘うため、どれが剣なのか判断するのに少し時間が必要だ。それに、別の攻撃がいつ来るかも油断出来ない。
悩ましそうに周囲を見渡し、剣を求めて歩き始めた時、頭に突然小さな雑音が訪れた。
しばらく放って置いたが、全く治らない音にルルは不愉快そうに眉根を寄せる。しかしふとその顔は元の表情に戻る。雑音だと思っていたそれが少しずつ大きさを増し、別の音になってきたのだ。
その音は、多くの宝石の中から主張する様に目立つ宝石の音だった。
まるで生きているかの様に、自分を呼ぶ音。普段聴く甲高い音ではなく、心地良く低い、体に染みる音だ。足が無意識にその音の方へ向かっていた。
(この音……どこかで、聞いた事ある)
思い出した。クーゥカラットの声と同じ音程なのだ。
ぷつりと音が止んだ時、靴先が何かを蹴った。それは探し求めていた剣。ルルは目を丸くしながら、グリップを探るように握る。剣に埋め込まれた石が僅かに瞬いた。
偶然か必然か、あの不思議と懐かしい音がここへ導いてくれた。もしかすれば気のせいかもしれない。しかしどちらだろうと不安を吹き飛ばすには充分だった。孤独でないと分かるだけでこんなに心が満たされる。早くジャスパーをそこから引き上げなければ。
『……うん、大丈夫。独りぼっちじゃ、ない』
ようやくルルを見つけた肉食の花が歓喜に叫ぶ。しかし地面に亀裂が入るほどの轟きに彼は驚く素振りを見せず、平然と振り返って剣を構えた。
独りではなくなった今、不安は無い。
太い茎から細長い葉が生まれ、振り落とされる。ルルはまるで大剣の様な葉を避けず、剣の腹で受け流した。地面に突き刺さった葉は根深く、すぐには抜けないだろう。次の葉が生み出されるのだって数秒の時間はかかる。
ルルは橋のようになった葉の上を、切っ先を根元へ向けながら一直線に駆けた。
先程からいくつも宝石の核の脈動が聞こえてきている。新しく生まれた葉の核は、花とは別で根元の茎にあるらしい。試しに力一杯にそこへ剣を突き刺すと、今まで丈夫だった葉がたちまち、ガラスの様に粉々に崩れ始めた。
ルルは不安定な足元から、新しく襲い掛かる葉に軽々と跳び移る。時折り邪魔する蔓は、宝石を纏わせて氷の様に固め、動きを鈍らせた。
それでも新しい葉や蔓など、獲物を捉えようとする物たちはまたすぐに現れる。だが彼はそれに対して、軽く防ぎ続けるだけで攻撃を仕掛けなかった。
まだだ。本体である花の核を壊すまでに、少しの間だけ時間を稼げればいい。
花の吠える声が近くに聞こえてきた。ルルは固めた蔓を足場にして更に高く、花よりも上に跳んだ。花は無数の歯を持った大口を開いて構える。すると大きな口を目の前に、彼の目が丸くなり「あ」と呟かれる。そして、そのまま食べられるように包まれた。
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