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【宝石少年と言葉の国】
燃える孔雀石
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何本もの複雑なコードを相手にしているジェイドは、黙々とスカイスキーの修理に勤しんでいた。ルルの眠りを妨げないよう、出来るだけ慎重に機械を操るには、それなりに集中力が要る。
耳元でリンクスが通信機を通して尋ねる。
『どうするんだ?』
「何をだね?」
『分かってるだろ、あのジャスパーって子の事だ。何はともあれ、お前の記憶を弄ってた事には変わりないんだろ?』
「そのようだ」
『……恨むか?』
ジェイドはそんな言葉が彼から出るのが意外で、吹き出すと可笑しそうに笑った。少し大きく笑ったせいでルルが起きないかと焦ったが、変わらずスヤスヤと寝息を立てている。
「お前にしては、随分しおらしい事を聞くなぁ。やはり歳には敵わんかね?」
『俺を何だと思ってやがる』
「すまんすまん。しかし恨みはせんよ。まず、そんな気すらないがね。あの子は、本当に幼いんだ。一緒に過ごした時間は偽物ではない。私も楽しかった。それに……気持ちも無視出来るものではない」
ジャスパーがくれたマラカイトを手の平で転がしながら、思い出を振り返るように目を細める。彼が自分に触れた人物を繋ぎとめたいという想いを、無下に否定したくない。
思い出される記憶は、今まで忘れていた本物の記憶と同等に大切なものだ。
「独りを怖がる事に、罰が必要だと思うのかね?」
『まぁ……そうだな』
「だからもうしばらく協力を頼むぞ」
『おう、必要な物は送るぜ』
「ああ」
最後の線を繋ぎ終え、機体の蓋を閉めた。スカイスキーをそっと隣に置いた時、同時に寝息が消えた。
「起きたか。気分はどうだね」
ルルはどこか幼く見える目蓋を擦りながら、背中を支えられて起き上がる。少しの間ボーッとしてから、夢の中での事を思い返した。
『あのね……ジャスパーに、会ったの。まだ、僕よりも、小さかったよ。ごめんなさいって……とても哀しそうに、泣いていた。でも、止められないって』
「そうか……。あの子は、何を望んだ?」
『外へ、出たい。ここから、出してって。だから、傍に行きたい』
「ああ、そうだな。あの子は、独りの朝は不機嫌になってしまう。2人で起こしてやらねば」
『うん。それでね、お願いがあるんだ』
「何だ?」
『それが欲しいの』
青い指が示したのは、ジェイドの手の中にある、グリードの国石とされていたマラカイト。
『1つで、いいんだけど』
「構わんが、一体何に使うんだね?」
ジェイドは細い紐に5つ連なったマラカイトのうち、真ん中の最も大きい物を引き抜いて渡す。ルルは細長いそれを指で挟み、目の前に掲げてじっと見つめた。
『これは、ジャスパーが作った、国宝の一部なんだよ』
「やはりあの子も、オリクトの民だというわけか。けれど何故魔法が使える? 彼らは使えない筈だが」
『多分……人間と、オリクトの民との間で、産まれたんじゃ、ないかな。そういう人、いる?』
「ああ、存在は聞いた事があるが……」
時折り感じていた宝石の香りは、あの緑の瞳からだった。しかし自分には無い人の匂いも確かにしていたのだ。
ジェイドは少し驚いていた。オリクトの民と人間の混血は、存在はする。だが五体満足だったり、普通の生活が出来る健全な体を持って生まれてくる者は少ない。
彼らが結ばれるのにはまず、体を作り替えるため、オリクトの民が人間の血を飲み、自身の血と混ぜる必要があると云われている。すると不純物が体に溜まり、それが子供に影響してしまうのだそうだ。
無事に生まれたとしても、あまりいい人生とも言えないだろう。人間にも認められず、汚れた物として、オリクトの民にも受け入れられないだろうから。
「そうか……だから、あの子は」
『どうして、納得するの? そんな事、許されていい筈、無いよ。ジャスパーも、笑って生きる事が、当たり前の筈だ。誰かによって、汚されてはいけない』
ルルはマラカイトを高く持ち上げ、口を開いて落とした。噛まずに飲み込むと、彼の虹に深い緑が溶けて現れる。
『外の石は、僕を、受け入れない。でも、これは違う。本物の一部。ちゃんと、導いてくれる』
胸元に熱が灯るのを感じる。空になっていた力が徐々に満たされていくのが分かった。迷いは断ち切られ、深い眠りの中を必死に掻き分けて道を示してくれている。
『……行こう。ジャスパーが待ってる』
そう言って立ち上がるのを合図に、2人を包んでいた宝石の蕾が静かに崩れていく。ジェイドは慌てて立ち、まだ残っている壁に手をついて揺れに耐えた。
少しして強い振動が来ると、花が咲く様に宝石が四方へ開く。数時間ぶりに見るマラカイトの世界は、大きな棘で目の前を塞いでいた。
ジェイドが覗いた望遠鏡越しに、リンクスが分析結果に驚愕を含ませながら笑って言う。
『お~こりゃ相当暴れたな。この先、ずぅっと針の山だぞ』
「ルル、この先は長く針の山だそうだ。道は一切無いらしい」
『そっか……。じゃあ、空から行く?』
「いや、このままの場合だと、またすぐ落とされるだろうな。だから、一旦宝石には退いてもらおう」
『どうやって?』
「任せたまえ」
ジェイドは背中の荷物を下ろすと、黒く丸い石と液体の入った灰色の瓶を取り出した。細かな柄の入った瓶のコルクを取り、まだ宝石が侵入していない周りに、円を描くように撒く。
ルルは嗅いだ事の無い匂いに首をかしげる。あまり好ましい香りには感じない。
『なぁに、それ?』
「これは石油さ」
『……独特な、臭い』
「あぁ、強過ぎるかね? 鼻を摘んでるといい」
ジェイドはまんべんなく撒き終えると瓶の蓋を閉め、今度は丸い何かを手にする。ガス臭さに新しい石の香りが混ざった。
『それは、宝石?』
「ああ、人工石だがね。人間が作った鉱石だ。マグマ石と呼ばれるな」
マグマ石は2つに分かれていて、中心に行くに連れ、色が溶け出そうな赤に変わっている。
「マラカイトはあまり硬くない石なのだよ。更には熱に弱い。マグマ石の中心をこすり合わせると、火が出るんだ。それを石油に引火させ、大きな炎を作り、マラカイトに移れば」
『熱に負けて、壊れる?』
「その通り。この針たちは一箇所から全部繋がっているようだからな。1回だけで核まで行ってくれるだろう」
『僕がやっちゃ、駄目?』
「駄目だ。離れていなさい」
興味津々にマグマ石を持つ手元を覗き込むルルに注意すると、少し残念そうに身を引いた。これが終わったら、好奇心は猫をも殺すという言葉を教えなければ。
「行くぞ」
ジェイドはマグマ石を両手に持ってゆっくりと、熱を更に溜めるように擦り合わせる。すると小さな火花が散り、石同士が離れると中央から火が生まれた。炎が踊る平らな面を、石油が染み込んだ地面へ伏せる。途端、瞬きが終わるよりも早く全体に熱が走り、人の背を超える炎の柱が2人を囲んだ。
ルルは炎の呼吸する音に目を丸くする。しかしすぐ、想像を超える熱さで顔を背けた。彼の瞳は宝石だ。そのため、熱を直視する事は耐えられないだろう。
「ルル、おいで」
「……っ?」
ジェイドは声に彷徨った手を捕まえて引き寄せると、着ているコートの中に彼をしまう様に包んだ。不思議とコートは全く熱を通さない。
「安心したまえ、これは火にも対応している。熱かっただろう? だから駄目だと言ったのだよ」
『そっか……残念』
「まだ言うか」
『……見ちゃ駄目?』
「あ、コラ」
ルルは注意を無視し、胸元から顔を出す。ジェイドは仕方なさそうな溜息を吐くだけでもう止めようとしなかった。
「熱くないかね?」
『ん、あっつい。でも、見たい』
「辛くなったら服の中に来なさい」
パキパキ、バキバキと針の中心からヒビ割れて崩れていく音がする。人間が聞けば無機質な音でしかないが、ルルには静かな悲鳴が聞こえた。
マラカイトが持つ孔雀の様な模様に、炎の揺らめきが重なり、まるで本物の羽の様になっている。紅蓮が深緑を抱き、絡み合って青い炎へと変わった。
しばらくして炎の音は小さくなり、宝石たちの悲鳴も、パラパラと細かな物になってきた。石はそれぞれ、小石程度の大きさとなり、先程までの大きな壁が嘘の様に道が拓ける。
「しかし、ジャスパーに痛みは無いだろうか。これだけ派手にやってしまって」
『大丈夫だよ。だって、ジャスパーの意思で、僕らを呼んでいるから』
ルルはジェイドの服を潜って外に出ると、道を進みながら振り返って言った。頭の中で彼の石がこちらを呼ぶ音が絶えず聞こえているのだ。
足裏が踏む砂利の様な宝石からは生きている脈動を感じない。もうこれらが再び形を作る事は出来なさそうだ。
『今のうちに、行こう』
「ああ、そうだな。念のために空から行こう」
地面に置いたスカイスキーの電源をつけると、機体は小さな唸り声を上げながら地面から離れた。
唯一の機械的な音は、この静けさの中ではよく目立って聞こえる。しかしルルの耳はそれに潜む様に現れた別の音を聞いた。それは自分たち以外の別の足音。足音と共に、ジェイドの後ろから新しい宝石が香った。
しかしあまりに静かで素早い忍び足に、ジェイドはすぐには気付かなかった。やっと振り返った真後ろに立っていたのは、新たに生を受けたマラカイトの人形。それは手に持ったナイフを、彼の頭目掛けて振り落とす。
『動かないで』
ルルはスカイスキーへ乗りかけた片足に力を入れて踏み込むと、機体の浮遊力を利用して飛躍する。その勢いのまま体を捻り、相手の手元のナイフを遠くへ蹴り飛ばした。
耳元でリンクスが通信機を通して尋ねる。
『どうするんだ?』
「何をだね?」
『分かってるだろ、あのジャスパーって子の事だ。何はともあれ、お前の記憶を弄ってた事には変わりないんだろ?』
「そのようだ」
『……恨むか?』
ジェイドはそんな言葉が彼から出るのが意外で、吹き出すと可笑しそうに笑った。少し大きく笑ったせいでルルが起きないかと焦ったが、変わらずスヤスヤと寝息を立てている。
「お前にしては、随分しおらしい事を聞くなぁ。やはり歳には敵わんかね?」
『俺を何だと思ってやがる』
「すまんすまん。しかし恨みはせんよ。まず、そんな気すらないがね。あの子は、本当に幼いんだ。一緒に過ごした時間は偽物ではない。私も楽しかった。それに……気持ちも無視出来るものではない」
ジャスパーがくれたマラカイトを手の平で転がしながら、思い出を振り返るように目を細める。彼が自分に触れた人物を繋ぎとめたいという想いを、無下に否定したくない。
思い出される記憶は、今まで忘れていた本物の記憶と同等に大切なものだ。
「独りを怖がる事に、罰が必要だと思うのかね?」
『まぁ……そうだな』
「だからもうしばらく協力を頼むぞ」
『おう、必要な物は送るぜ』
「ああ」
最後の線を繋ぎ終え、機体の蓋を閉めた。スカイスキーをそっと隣に置いた時、同時に寝息が消えた。
「起きたか。気分はどうだね」
ルルはどこか幼く見える目蓋を擦りながら、背中を支えられて起き上がる。少しの間ボーッとしてから、夢の中での事を思い返した。
『あのね……ジャスパーに、会ったの。まだ、僕よりも、小さかったよ。ごめんなさいって……とても哀しそうに、泣いていた。でも、止められないって』
「そうか……。あの子は、何を望んだ?」
『外へ、出たい。ここから、出してって。だから、傍に行きたい』
「ああ、そうだな。あの子は、独りの朝は不機嫌になってしまう。2人で起こしてやらねば」
『うん。それでね、お願いがあるんだ』
「何だ?」
『それが欲しいの』
青い指が示したのは、ジェイドの手の中にある、グリードの国石とされていたマラカイト。
『1つで、いいんだけど』
「構わんが、一体何に使うんだね?」
ジェイドは細い紐に5つ連なったマラカイトのうち、真ん中の最も大きい物を引き抜いて渡す。ルルは細長いそれを指で挟み、目の前に掲げてじっと見つめた。
『これは、ジャスパーが作った、国宝の一部なんだよ』
「やはりあの子も、オリクトの民だというわけか。けれど何故魔法が使える? 彼らは使えない筈だが」
『多分……人間と、オリクトの民との間で、産まれたんじゃ、ないかな。そういう人、いる?』
「ああ、存在は聞いた事があるが……」
時折り感じていた宝石の香りは、あの緑の瞳からだった。しかし自分には無い人の匂いも確かにしていたのだ。
ジェイドは少し驚いていた。オリクトの民と人間の混血は、存在はする。だが五体満足だったり、普通の生活が出来る健全な体を持って生まれてくる者は少ない。
彼らが結ばれるのにはまず、体を作り替えるため、オリクトの民が人間の血を飲み、自身の血と混ぜる必要があると云われている。すると不純物が体に溜まり、それが子供に影響してしまうのだそうだ。
無事に生まれたとしても、あまりいい人生とも言えないだろう。人間にも認められず、汚れた物として、オリクトの民にも受け入れられないだろうから。
「そうか……だから、あの子は」
『どうして、納得するの? そんな事、許されていい筈、無いよ。ジャスパーも、笑って生きる事が、当たり前の筈だ。誰かによって、汚されてはいけない』
ルルはマラカイトを高く持ち上げ、口を開いて落とした。噛まずに飲み込むと、彼の虹に深い緑が溶けて現れる。
『外の石は、僕を、受け入れない。でも、これは違う。本物の一部。ちゃんと、導いてくれる』
胸元に熱が灯るのを感じる。空になっていた力が徐々に満たされていくのが分かった。迷いは断ち切られ、深い眠りの中を必死に掻き分けて道を示してくれている。
『……行こう。ジャスパーが待ってる』
そう言って立ち上がるのを合図に、2人を包んでいた宝石の蕾が静かに崩れていく。ジェイドは慌てて立ち、まだ残っている壁に手をついて揺れに耐えた。
少しして強い振動が来ると、花が咲く様に宝石が四方へ開く。数時間ぶりに見るマラカイトの世界は、大きな棘で目の前を塞いでいた。
ジェイドが覗いた望遠鏡越しに、リンクスが分析結果に驚愕を含ませながら笑って言う。
『お~こりゃ相当暴れたな。この先、ずぅっと針の山だぞ』
「ルル、この先は長く針の山だそうだ。道は一切無いらしい」
『そっか……。じゃあ、空から行く?』
「いや、このままの場合だと、またすぐ落とされるだろうな。だから、一旦宝石には退いてもらおう」
『どうやって?』
「任せたまえ」
ジェイドは背中の荷物を下ろすと、黒く丸い石と液体の入った灰色の瓶を取り出した。細かな柄の入った瓶のコルクを取り、まだ宝石が侵入していない周りに、円を描くように撒く。
ルルは嗅いだ事の無い匂いに首をかしげる。あまり好ましい香りには感じない。
『なぁに、それ?』
「これは石油さ」
『……独特な、臭い』
「あぁ、強過ぎるかね? 鼻を摘んでるといい」
ジェイドはまんべんなく撒き終えると瓶の蓋を閉め、今度は丸い何かを手にする。ガス臭さに新しい石の香りが混ざった。
『それは、宝石?』
「ああ、人工石だがね。人間が作った鉱石だ。マグマ石と呼ばれるな」
マグマ石は2つに分かれていて、中心に行くに連れ、色が溶け出そうな赤に変わっている。
「マラカイトはあまり硬くない石なのだよ。更には熱に弱い。マグマ石の中心をこすり合わせると、火が出るんだ。それを石油に引火させ、大きな炎を作り、マラカイトに移れば」
『熱に負けて、壊れる?』
「その通り。この針たちは一箇所から全部繋がっているようだからな。1回だけで核まで行ってくれるだろう」
『僕がやっちゃ、駄目?』
「駄目だ。離れていなさい」
興味津々にマグマ石を持つ手元を覗き込むルルに注意すると、少し残念そうに身を引いた。これが終わったら、好奇心は猫をも殺すという言葉を教えなければ。
「行くぞ」
ジェイドはマグマ石を両手に持ってゆっくりと、熱を更に溜めるように擦り合わせる。すると小さな火花が散り、石同士が離れると中央から火が生まれた。炎が踊る平らな面を、石油が染み込んだ地面へ伏せる。途端、瞬きが終わるよりも早く全体に熱が走り、人の背を超える炎の柱が2人を囲んだ。
ルルは炎の呼吸する音に目を丸くする。しかしすぐ、想像を超える熱さで顔を背けた。彼の瞳は宝石だ。そのため、熱を直視する事は耐えられないだろう。
「ルル、おいで」
「……っ?」
ジェイドは声に彷徨った手を捕まえて引き寄せると、着ているコートの中に彼をしまう様に包んだ。不思議とコートは全く熱を通さない。
「安心したまえ、これは火にも対応している。熱かっただろう? だから駄目だと言ったのだよ」
『そっか……残念』
「まだ言うか」
『……見ちゃ駄目?』
「あ、コラ」
ルルは注意を無視し、胸元から顔を出す。ジェイドは仕方なさそうな溜息を吐くだけでもう止めようとしなかった。
「熱くないかね?」
『ん、あっつい。でも、見たい』
「辛くなったら服の中に来なさい」
パキパキ、バキバキと針の中心からヒビ割れて崩れていく音がする。人間が聞けば無機質な音でしかないが、ルルには静かな悲鳴が聞こえた。
マラカイトが持つ孔雀の様な模様に、炎の揺らめきが重なり、まるで本物の羽の様になっている。紅蓮が深緑を抱き、絡み合って青い炎へと変わった。
しばらくして炎の音は小さくなり、宝石たちの悲鳴も、パラパラと細かな物になってきた。石はそれぞれ、小石程度の大きさとなり、先程までの大きな壁が嘘の様に道が拓ける。
「しかし、ジャスパーに痛みは無いだろうか。これだけ派手にやってしまって」
『大丈夫だよ。だって、ジャスパーの意思で、僕らを呼んでいるから』
ルルはジェイドの服を潜って外に出ると、道を進みながら振り返って言った。頭の中で彼の石がこちらを呼ぶ音が絶えず聞こえているのだ。
足裏が踏む砂利の様な宝石からは生きている脈動を感じない。もうこれらが再び形を作る事は出来なさそうだ。
『今のうちに、行こう』
「ああ、そうだな。念のために空から行こう」
地面に置いたスカイスキーの電源をつけると、機体は小さな唸り声を上げながら地面から離れた。
唯一の機械的な音は、この静けさの中ではよく目立って聞こえる。しかしルルの耳はそれに潜む様に現れた別の音を聞いた。それは自分たち以外の別の足音。足音と共に、ジェイドの後ろから新しい宝石が香った。
しかしあまりに静かで素早い忍び足に、ジェイドはすぐには気付かなかった。やっと振り返った真後ろに立っていたのは、新たに生を受けたマラカイトの人形。それは手に持ったナイフを、彼の頭目掛けて振り落とす。
『動かないで』
ルルはスカイスキーへ乗りかけた片足に力を入れて踏み込むと、機体の浮遊力を利用して飛躍する。その勢いのまま体を捻り、相手の手元のナイフを遠くへ蹴り飛ばした。
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