相思相愛がこんなに奇跡的なことなんて。

穂篠 志歩

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彼は治療士。

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 「ふえぇ、…」
 ふと唐突に、ヒナの声が聞こえてくる。
 すぐに俺は、顔を振り向いた。
 すると彼女は、表情をくしゃくしゃにしながら、声を殺して泣いているようだ。目の前で起きた事に、ショックを受けてしまっているようだ。
 「くっ。…」
 と俺は苦々しげに呟くと、歯をギリリと強く食い縛った。なんとか呼吸を整えて冷静さを保つ様に努めながら、ゆっくりと語りかけだす。
 「ヒナ。」
 「な、何?」
 「すまない。…俺も油断していた。だから、大変な事に。…」
 「う、ううん。」
 対してヒナも嗚咽を漏らしつつも、弱々しく返事をしており、次第に話に耳を傾けていた。
 「…今、ダフネが蛇達と戦っている。…このまま俺達は森の奥に向かえば、安全な場所に逃げ切れるだろうし。…あの女の強さなら、キリエも助けてくれるかもしれない。…」
 「……ぐすっ、…。」
 「でも、…その場合、全てが終わるまで、ただ黙って何もしないままだ。…これは俺の我が儘かもしれないけど、…黙って待っているなんて出来ない。」
 と、俺は最後に伝えると話を締めくくった。さらに再び彼女の様子を伺う。
 やがて一拍の間の後に、ーー
 「…あたし。…………あたしも、リエちゃんと、……また皆と、アイス食べたい。…」
 と、ヒナは小さな声で呟く。ついでに袖で涙を拭いだしたら、此方に顔を向けてきた。
 そうして互いに視線を交わらせると、頷いていた。同じ意思を感じている。
 俺は意を決すると自ずと立ち上り、思考を巡らせて考えを纏める。
 ほぼ同時に、ヒナも姿勢を変えながら此方の首に腕を回してしっかりと抱きつく。所謂は、おんぶする状態となる。
 そのまま俺達は小声で話をしていき、互いに作戦を伝えて擦り合わせた。ようやくして話が終わるや否や、遺跡の方に向かって走りだして行った。
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