相思相愛がこんなに奇跡的なことなんて。

穂篠 志歩

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二人で旅に出よう。

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 目の前は真っ暗だった。その中で、ぎらりと光る翡翠と、金のビロード。首にまとわりつく。視線を縫いとめる。
『おまえが悪い。おまえが、オレに構うから。オレを受け入れないなら、おまえを殺してやる』
 触手のように伸びる金髪が全身をじわじわと拘束し始める。首元に両手が宛がわれる。ぐっと体重を乗せられる。骨ごと押しつぶさんとするような強い力。制止の声も出せない。四肢の抵抗もできない。息苦しさに焦りを覚える。やがて視界は闇に侵食される。意識が手を離れていく。


「エルレグ!」
 強い声に呼ばれてはっと目覚めた。夢だというのに、感覚がやけにリアルだ。まだ四肢に何かまとわりついているような気がする。のど元に手をやって、何もないことを確かめる。覗き込んでいるのは、灰色の心配そうな瞳。
「大丈夫か……?」
 サイード。
 エルレグは彼の名を呼びたかったけれど、声はかすれて音をなさなかった。額を伝う汗を腕で拭う。
「呪術師でも雇ったのかな、あいつはまったく」
 冗談のつもりで、なんとか笑ってそういったエルレグだが、本当にそうなのかもしれない、と怪しみはじめると恐ろしくなった。
「エルレグ……」
 すぐそばで呼ぶはずのサイードの声が、思いのほか小さく聞こえて、エルレグは腕を下ろして彼を見上げる。その目に浮かぶ色を見て、エルレグは驚く。
「おれが呪いを解ける巫術師だったら、あんたを安心させられたのにな……ごめん、なにも、できない……」
 そんな。なんで、そんな顔をして、そんなこと、言うんだよ……。
「何、言ってるんだよ!おまえが、いてくれるだけで、オレは救われてるよ」
 思わずがばりと起き上がって、驚くほど消沈しているサイードを窺う。それでも、弱い眼差しで「ほんとに?」と問うサイードに、エルレグは堪らなくなって抱きついた。
「本当だよ、おまえがいてくれて、本当によかった。巫術なんかよりよっぽど、オレには効果があるよ」
「……そっか……なら、よかった……」


 改めて眠りについても、またテックの夢を見た。
 オレを受け入れないなら、何故優しくなんかした、
 責任はおまえにある、
 贖え、
 思わせぶりの偽善者、
 おまえのは優しさじゃない、ただの自己満足だろ、
 まるで呪詛のように、テックの言葉が繰り返される。延々と、終わりのない迷路。絶望感。誰か、光を――
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