相思相愛がこんなに奇跡的なことなんて。

穂篠 志歩

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二人で旅に出よう。

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 サイードと並んで町外れの宿に向かいながら、エルレグは赤面して視線を泳がせる。
「あぁ、オレ、情けないなぁ……恥ずかしいヤツだよなぁ、街中で、……ごめんな」
 どうしたことだか、普段年下をこれでもかと甘やかしているエルレグなのに、サイードに対してはどこか甘えてしまっていた。以前からもそれは薄々感じていたのだけれど、どうしようもなく気持ちが落ち込んでいる今、いつも以上に彼に頼っている。それが自分でもわかっているのに、抑制するには少し弱気になりすぎていた。
「おれはかまわない。あんたは、今はあんまり細かいこと気にしないほうがいいよ。あんまりいろいろ考えないで、ゆっくり休みなよ」
 そのための休養だろ。
 サイードはぽん、と肩を叩いて微笑んだ。エルレグは、本当に泣いてしまいそうだった。なんて優しいんだろう。普段なら、構うことのほうが多いし、そのほうが気が楽なエルレグだった。構われるのは落ち着かない。だからなのか、サイードがいいやつだということは知っていたけれども、こんなにも優しいことには気づかなかった。
「おまえ、……本当に、優しいな……」
 エルレグが弱い笑みを向けると、サイードは赤くなって顔を背ける。
「そんなことない。そんなことも考えなくていい」
 いつもなら、照れちゃってかわいいな、なんてからかったりするのだけれど、エルレグはほほえましくそれを見つめるだけに留めた。


 サイードは休養中、大半の冒険者が使う大宿ではなく、街外れの小さな宿を使っていたようだ。エルレグもそこへ転がり込むことにした。
「あいにく、空き部屋はもうないんだよ」
 宿の女将がすまなさそうに言う。
「二人部屋なら空いてるから、ぼっちゃんも一緒に移ったらどう?」
 ぼっちゃん、とサイードのほうを見る女将。そう持ちかける顔は愛想のいい笑みを浮かべている。サイードとエルレグは顔を見合わせた。
「あんた、かまわないか?」
「オレはぜんぜん構わないよ。おまえは、いいか?」
「あんたがいいなら、おれだってかまわない」
 助かるよ、と女将に言われた二人はそそくさと部屋に通される。サイードが自分の荷物を移すのもそんなに時間はかからなかった。手伝おうか、と申し出たエルレグはやんわりと断られていた。ベッドに横になると、疲れがどっと出た。思いのほか参っていたのかな、と苦笑しながら、エルレグはいつしか夢の中に落ちていた。
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