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オケとオレときみ。
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寝坊した。
朝食もろくにとらず、二時限目の講義室に駆け込む眞人。空いている座席を見つけて身を滑り込ませる。なんとか間に合った、と一息ついてふと隣を見やると、見知った顔で驚いた。
「あ、どうも……」
最近顔を出しているオーケストラ部で見たことのある青年だった。先日の酒の席でも隣り合っていたので覚えている。ただ、ほとんど会話らしい会話を交えておらず、その上先方のほうではどこか眞人を疎ましく見ていたような印象があって、一瞬気後れした。裕次と紹介された隣の青年は、こちらを一瞥して「どうも」とだけ応じる。全く無視されるかとも思った眞人は、返事があったことに安堵して表情が緩んだ。
「同じ講義、取ってたんだ」
「そうらしいね」
裕次は決して目を合わせず、淡々と応じた。あからさまな敵意があるわけではないが、どうも捉えても友好的でない。これから長い付き合いになるかもしれない仲間に、眞人はできるだけ親しげに話しかけた。
「確か、楽器は、……ファゴット、だっけ?いつから、やってんの?」
音楽の話を持ちかけたせいか、裕次がちらりと眞人を視界に入れる。しかしその目は気力を感じられず、彼のほうでは別段眞人と親しくなる気もないようだった。聞いてはいけない質問をしたのだろうか、と勘ぐったが、無表情の裕次から情報を得ることはできない。
「大学から」
あまりに短い答えに、眞人は一瞬何のことかわからず、え、と聞き返した。ややあって、楽器を大学から始めたのだと答えたことを理解した。
「ああ、あの楽器は特に扱いが難しくて手がかかるって話だけど、大学から始めてファゴットを選んだ理由って、あんの?」
裕次の目つきが変わる。明らかに眉をひそめて不快を示した。眞人としては世間話程度に話をふったのだが、早々に地雷を踏んだらしかった。楽器を始めるきっかけを訊かれることがそんなに嫌なのか、眞人には理解できない。
「や、変なこと訊いたんだったら、ごめん」
とにかく素直に謝った眞人だが、相手が何らかのリアクションをとる前に講師がやってきて、講義が始まった。盗み見るように隣を伺うと、裕次はため息をついて顔を背けた。
朝食もろくにとらず、二時限目の講義室に駆け込む眞人。空いている座席を見つけて身を滑り込ませる。なんとか間に合った、と一息ついてふと隣を見やると、見知った顔で驚いた。
「あ、どうも……」
最近顔を出しているオーケストラ部で見たことのある青年だった。先日の酒の席でも隣り合っていたので覚えている。ただ、ほとんど会話らしい会話を交えておらず、その上先方のほうではどこか眞人を疎ましく見ていたような印象があって、一瞬気後れした。裕次と紹介された隣の青年は、こちらを一瞥して「どうも」とだけ応じる。全く無視されるかとも思った眞人は、返事があったことに安堵して表情が緩んだ。
「同じ講義、取ってたんだ」
「そうらしいね」
裕次は決して目を合わせず、淡々と応じた。あからさまな敵意があるわけではないが、どうも捉えても友好的でない。これから長い付き合いになるかもしれない仲間に、眞人はできるだけ親しげに話しかけた。
「確か、楽器は、……ファゴット、だっけ?いつから、やってんの?」
音楽の話を持ちかけたせいか、裕次がちらりと眞人を視界に入れる。しかしその目は気力を感じられず、彼のほうでは別段眞人と親しくなる気もないようだった。聞いてはいけない質問をしたのだろうか、と勘ぐったが、無表情の裕次から情報を得ることはできない。
「大学から」
あまりに短い答えに、眞人は一瞬何のことかわからず、え、と聞き返した。ややあって、楽器を大学から始めたのだと答えたことを理解した。
「ああ、あの楽器は特に扱いが難しくて手がかかるって話だけど、大学から始めてファゴットを選んだ理由って、あんの?」
裕次の目つきが変わる。明らかに眉をひそめて不快を示した。眞人としては世間話程度に話をふったのだが、早々に地雷を踏んだらしかった。楽器を始めるきっかけを訊かれることがそんなに嫌なのか、眞人には理解できない。
「や、変なこと訊いたんだったら、ごめん」
とにかく素直に謝った眞人だが、相手が何らかのリアクションをとる前に講師がやってきて、講義が始まった。盗み見るように隣を伺うと、裕次はため息をついて顔を背けた。
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