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「あ、え……えええっ!? エリック様ですの? ええ! こんな素敵なお顔をしていたなんて……私、正直あなたにときめいておりますわ!」

 以前自分がしでかしたことを勢いで誤魔化そうとしているのだろう。
 カリーナは真っ青な顔のままでエリック様へと好意を口にする。

「もう! それだけ綺麗なお顔をしていたのだったら早く言ってくれたら良かったのに……」
「そんなことより、さっさと帰ってくれないか? 僕はこれからエリーゼと……」
「エリーゼ。エリック様と親密になっているかどうか知らないけれど、私に返してもらうわよ」
「は?」

 カリーナはニヤニヤしながら私を見る。

「エリック様には華が無いと思っていたけれど、素顔がこれだけカッコイイならもう言うことは無いわ。セシル様は自分が想像していたよりつまらない人間だったし、うん。エリック様は返してもらえば全て解決」
「何が解決? あなたがこのまま帰ってくれた方が全部解決するのだけれど」

 カリーナはにこやかな表情でエリック様と腕を組む。
 その行為に私は苛立ちを覚える。

「ちょっと、あなた。離れなさい」
「離れないわよ。私はエリック様の婚約者なのだから」

 頭に血が上る。
 視界が狭まる。
 黒い感情が腹の中で暴れ出す。
 
 私はカリーナに近づき、彼女の頬をぶとうとした。
 だがその前に、エリック様はが彼女の腕を振りほどき、私の肩を抱き寄せる。

「触らないでくれ。君は僕の元婚約者で、僕の現在の婚約者はエリーゼなのだから」
「は……はぁ!? こここ、婚約者ってどういうことですの!?」
 
 大きくため息をつくエリック様。
 彼は冷たい目でカリーナを見ながら話を続ける。

「さっき彼女にプロポーズをしてね。いい返事をもらうことができたんだよ」
「……この、泥棒猫!」

 カリーナは怒りの表情で私に掴みかかろうとする。
 だがエリック様が前に立ち、私を守ってくれた。

「この……この! ちょっと目を放した隙に人の婚約者を奪って!」
「目を放した隙というか、完全に手放してたでしょ、あなた」
「オモチャを手放したとしても、それは私の物であるのに変わりはないわよね? 私があなたにあげると言った時点オモチャはあなたの物になるの! あんたにエリック様をあげた覚えはないのだから、エリック様は私の物よ!」
「人をオモチャだと揶揄するような女性と一緒にいたくはないけどね」
「い、いえ……今のは言葉の綾で」
「とにかく、僕はこれからエリーゼと生きていくと決めているし、彼女のいない人生はもう考えられない。君は婚約者の下へ帰るといい」


 カリーナは怒りに満ちた表情で私たちを睨み付ける。
 この子我儘だと思っていたけれど、こんなに自分勝手な人間だったとは。
 私は呆れるばかりで、逆にその清々しいまでの勝手さに笑みをこぼしていた。
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