上 下
9 / 14

9

しおりを挟む
 カリーナはセシルと婚約をし、数か月が過ぎようとしていた。
 素敵で家柄もよく、結婚相手の条件としては十分のはずなのだが……
 カリーナから見れば粗が目立つ。
 いや、粗探しをする彼女だからこそ気になるといった方が正しいのかもしれない。

 セシルは少し傲慢なところがあるようで、そこが鼻につく。
 それにナルシストだし、命令に近い口調で話してくる。

 そして何より問題なのは、自分の母親を大事にしすぎるところだ。
 別にマザコンという程ではなかったが、カリーナはそこが気に入らなかった。
 自分を一番大事にしなければいけないのに、何故母親を大事にする?

 母に気を使うセシルに腹を立てるカリーナ。

「どうしたんだ、カリーナ」
「…………」
「何か言ってくれないと私には分からない。ハッキリ言ってくれ」
「なんでもありませんわ」

 何故自分が腹を立てているのか。
 それに気づかないセシルにまた腹を立てるカリーナ。
 
 セシルの自宅で食事をしていたのだが……そんなことは気にしないカリーナ。
 空気がどれだけ悪くなろうとも自分の気分、自分の感情が一番なのだ。

「どうかしたのかしら、カリーナさん」
「本当になんでもありませんわ。お気になさらず」

 セシルの母親はカリーナのことをずっと気にしているが、カリーナはそんな彼女を見て心の中で嘲わらう。

 ずっとそうやって私の機嫌をうかがっていればいいわ。
 あんたがいる所為でセシル様は私に百%愛情を注げないのだから。

 その日の食事は、とことんまで空気が悪い中終わりを告げる。

 食事が終わるや否や、カリーナはセシルの屋敷を飛び出し帰路に着く。
 馬車の中で憤慨し、大暴れする。

「ああ、もう! なんなのよあの男は! マザコン、気持ち悪いわ! あんな男だとは思ってもみなかった!」

 一つ気にいらない部分が見当たると、男の何もかもが嫌になる。
 カリーナはそんな性格の女である。

 一通り暴れて気が済んだのか落ち着きを取り戻すも、湧き上がる不平不満は抑えきれない。
 こんな時話を聞いてくれる友人がいればいいのだが……友人たちはカリーナを嫌がり彼女を避ける者ばかり。

 そこでカリーナは考える。

「……エリーゼに話を聞いてもらおう。ああは言っていたけれどなんだかんだ言って私たちは友達だしね」

 面倒見の良いエリーゼ。
 彼女の態度はいつしかカリーナを甘えさせる結果となっていた。
 そしてカリーナは今回もいつものように許してくれると考えていたのだ。

 こうしてまたエリーゼの元に向かうカリーナ。
 しかしまさかエリーゼの家でエリックに好意を寄せることになるとは、この時のカリーナは夢にも思っていなかった。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

婚約を解消してくれないと、毒を飲んで死ぬ? どうぞご自由に

柚木ゆず
恋愛
 ※7月25日、本編完結いたしました。後日、補完編と番外編の投稿を予定しております。  伯爵令嬢ソフィアの幼馴染である、ソフィアの婚約者イーサンと伯爵令嬢アヴリーヌ。二人はソフィアに内緒で恋仲となっており、最愛の人と結婚できるように今の関係を解消したいと考えていました。  ですがこの婚約は少々特殊な意味を持つものとなっており、解消するにはソフィアの協力が必要不可欠。ソフィアが関係の解消を快諾し、幼馴染三人で両家の当主に訴えなければ実現できないものでした。  そしてそんなソフィアは『家の都合』を優先するため、素直に力を貸してくれはしないと考えていました。  そこで二人は毒を用意し、一緒になれないなら飲んで死ぬとソフィアに宣言。大切な幼馴染が死ぬのは嫌だから、必ず言うことを聞く――。と二人はほくそ笑んでいましたが、そんなイーサンとアヴリーヌに返ってきたのは予想外の言葉でした。 「そう。どうぞご自由に」

平凡な伯爵令嬢は平凡な結婚がしたいだけ……それすら贅沢なのですか!?

Hibah
恋愛
姉のソフィアは幼い頃から優秀で、両親から溺愛されていた。 一方で私エミリーは健康が取り柄なくらいで、伯爵令嬢なのに贅沢知らず……。 優秀な姉みたいになりたいと思ったこともあったけど、ならなくて正解だった。 姉の本性を知っているのは私だけ……。ある日、姉は王子様に婚約破棄された。 平凡な私は平凡な結婚をしてつつましく暮らしますよ……それすら贅沢なのですか!?

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました

八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」 子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。 失意のどん底に突き落とされたソフィ。 しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに! 一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。 エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。 なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。 焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

次に貴方は、こう言うのでしょう?~婚約破棄を告げられた令嬢は、全て想定済みだった~

キョウキョウ
恋愛
「おまえとの婚約は破棄だ。俺は、彼女と一緒に生きていく」  アンセルム王子から婚約破棄を告げられたが、公爵令嬢のミレイユは微笑んだ。  睨むような視線を向けてくる婚約相手、彼の腕の中で震える子爵令嬢のディアヌ。怒りと軽蔑の視線を向けてくる王子の取り巻き達。  婚約者の座を奪われ、冤罪をかけられようとしているミレイユ。だけど彼女は、全く慌てていなかった。  なぜなら、かつて愛していたアンセルム王子の考えを正しく理解して、こうなることを予測していたから。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

両親から溺愛されている妹に婚約者を奪われました。えっと、その婚約者には隠し事があるようなのですが、大丈夫でしょうか?

水上
恋愛
「悪いけど、君との婚約は破棄する。そして私は、君の妹であるキティと新たに婚約を結ぶことにした」 「え……」  子爵令嬢であるマリア・ブリガムは、子爵令息である婚約者のハンク・ワーナーに婚約破棄を言い渡された。  しかし、私たちは政略結婚のために婚約していたので、特に問題はなかった。  昔から私のものを何でも奪う妹が、まさか婚約者まで奪うとは思っていなかったので、多少驚いたという程度のことだった。 「残念だったわね、お姉さま。婚約者を奪われて悔しいでしょうけれど、これが現実よ」  いえいえ、べつに悔しくなんてありませんよ。  むしろ、政略結婚のために嫌々婚約していたので、お礼を言いたいくらいです。  そしてその後、私には新たな縁談の話が舞い込んできた。  妹は既に婚約しているので、私から新たに婚約者を奪うこともできない。  私は家族から解放され、新たな人生を歩みだそうとしていた。  一方で、私から婚約者を奪った妹は後に、婚約者には『とある隠し事』があることを知るのだった……。

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

元婚約者がマウント取ってきますが、私は王子殿下と婚約しています

マルローネ
恋愛
「私は侯爵令嬢のメリナと婚約することにした! 伯爵令嬢のお前はもう必要ない!」 「そ、そんな……!」 伯爵令嬢のリディア・フォルスタは婚約者のディノス・カンブリア侯爵令息に婚約破棄されてしまった。 リディアは突然の婚約破棄に悲しむが、それを救ったのは幼馴染の王子殿下であった。 その後、ディノスとメリナの二人は、惨めに悲しんでいるリディアにマウントを取る為に接触してくるが……。

婚約者が毒を使って私を消そうとするけど、聖女だから効きません

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私シルフは聖女になっていたけど、家族以外には伝えていない。  婚約者のズドラは侯爵令嬢のロゼスが好きで、私を切り捨てようと考えていたからだ。    婚約破棄を言い渡されると考えていたけど、ズドラは毒で私を消そうとしてくる。  聖女の力で無力化できたけど――我慢の限界を迎えた私は、やり返そうと思います。

処理中です...