『悪魔』と呼ばれる侯爵様に拾われたが、溺愛されすぎて戸惑っています。

亜綺羅もも

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「……ふん」

 ユミル様は気絶しそうになっているア―ロイから手を放す。
 ア―ロイは地面に落ち、ゲホゲホとせき込む。
 彼の従者が三人、心配そうにア―ロイに駆け寄る。

「俺は……俺は本気でリーンのことを愛している! お前が飛び出して行ったあの日のことは謝る。しかし、どうしてもお前と一緒になりたかった……それだけは信じてくれ!」
「信じます。だから帰って下さい」
「し、信じてくれるなら帰って来てくれ!」

 ア―ロイ様は、必死にそう泣き叫んだ。
 しかし私は呆れるばかりで嘆息する。
 なんであんな酷いことをしてきた人の元に帰らなければいけないのか。
 バカなのかしら、この人。
 怒りを通り越して、本気で呆れるわ。

「お前、本気で死ぬか?」
「う……」

 悪魔的表面を持つユミル様に見下ろされ、ア―ロイはたじろぐばかり。
 このままでは本気で殺しかねない。
 そうなれば色々と問題になってしまう……
 私は少し焦りながら、ユミル様をなだめようとした。
 すると、私の背後から女性の声がする。

「ユミル様。その輩、私に任せていただけませんか?」
「コニーか……」

 コニーさんが涼しい顔でこちらに歩いて来る。
 私は彼女のことを警戒し、ゴクリと息を呑み込む。
 この人は私を何故か敵視しているような毛がある。
 一体どのようなつもりでここに来たのだろうか?

 コニーさんはチラリと私を見るが、そのままア―ロイの目の前まで移動する。

「ア―ロイ様……でしょうか?」
「あ、ああ。そうだが……それが何か?」
「なるほど」

 コニーさんは腕を組み、そして鋭い視線でア―ロイを睨む。
 その冷たさに、ア―ロイは顔を青くしている。

「リーン様からお話は聞いております。あなた、リーン様を襲おうとしたらしいですね?」
「ななな……なんだと?」
 
 ユミル様の額にいくつもの青筋が浮かび上がる。
 元々人相がよくなく、悪魔なんて呼ばれているのに……それ以上の凶悪面になるユミル様。
 もう悪魔王と魔神とかそんな風に呼ばれそうな、本当に怖い顔だった。
 
 ア―ロイは身の毛がよだつような恐ろしい二人から睨まれ、ガタガタ震えるばかり。
 コニーさんはそんなア―ロイの肩を掴み、そして言う。

「女性に酷いことをする男は許せない たちでして――」
「んふっ!?」

 グシャッ! という音が青空に響き渡る。
 なんとコニーさんは――ア―ロイの股間に膝蹴りを入れていた。
 それも容赦なく、手加減なく、全力で。
 
 ただでさえ男性は股間に刺激を受けると痛いと聞いているのに……
 ア―ロイは泡を吹き気絶し、その場に倒れてしまった。
 
 ユミル様は自分の股間を押さえて、青い顔でコニーさんを見ている。

「これで許してあげますので、さっさと消えろくださいませ」

 そう言うコニーさんは、ユミル様以上の悪魔に見えた。
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