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ユミル様は、とにかく優しい。
私にいい物を食べさせようとしたり、欲しい物を買ってくれたり。
とにかく甘やかされている気分。
「おい、他には欲しい物はないのか? あるなら言え。俺が買える物ならばなんでも買い与えてやろう」
「い、いえ……そんな頻繁に買ってもらわなくても……」
食事をしながら、こちらが欲しい物がないか尋ねてくるユミル様。
私は彼の好意に戸惑うばかり。
コニーさんは私の後ろに位置しており、ポツリと私にだけ聞こえる声で言う。
「愛情表現が下手くそな方ですから。あなたに振り向いてほしくて必死なのです」
「あ、愛情表現?」
コニーさんはそう言った後舌打ちをした。
先日まではユミル様が怖かったが、今はコニーさんが怖い。
こんなに嫌われるなんて、私なにかしたのかな?
しかし愛情表現だなんて……
私を見つめながらほんのりと頬を染めているユミル様。
私はそんな彼が大変可愛らしく思え、またキュンキュンしていた。
「今日は外に出かけるとするか」
「はい」
ユミル様の誘いに、私は快く頷く。
この間とは違う。
清々しい気分で出かけることができる。
一緒に屋敷を出て、町の中を練り歩く。
私の隣で歩くユミル様はとても綺麗で、そして可愛らしかった。
「寒くはないか? 寒かったらか、肩ぐらいは抱いてやってもいいんだぞ」
そんなことを言うユミル様は頬を赤くしている。
私はクスクス笑いながら、彼の顔を見つめた。
この間までア―ロイのことで悩んでいたのが嘘みたい。
と言うか、ユミル様の事を怖がっていたのも嘘みたいだ。
こんな人となら、ずっと一緒にいても楽しいかも。
ずっと一緒にいても……幸せかもしれない。
だけど、必要以上に貢ぐ癖は治してもらわないと。
このままではいつか破産してしまう可能性だってないわけではない。
「ユミル様、こんにちわ!」
「ユミル様、いつもありがとうございます」
町を歩いていると、ユミル様に笑顔で挨拶をする人ばかり。
本当に慕われているお方なんだな。
「どうした、俺の顔になにか付いているか?」
「いいえ。ただ、優しいなと思いまして」
「……ふ、ふん! 俺は優しく何てない! 勘違いするな!」
顔を真っ赤にして先に進んで行くユミル様。
本当にお可愛いお方。
笑いを殺しながら私は彼の後ろをついて行く。
楽しい時間。
優しい時間。
幸せな時間。
本当にかけがえのない時間だった。
だが、その最高の時間は、一瞬で最悪な物に変化しようとしていた。
「リーン……見つけたぞ」
「……お、お義兄様」
ア―ロイが数人の従者を引き連れ、ユミル様の町へとやって来たようだ。
私は彼を見て真っ青になる。
まさか……ア―ロイに見つかってしまうとは……
私にいい物を食べさせようとしたり、欲しい物を買ってくれたり。
とにかく甘やかされている気分。
「おい、他には欲しい物はないのか? あるなら言え。俺が買える物ならばなんでも買い与えてやろう」
「い、いえ……そんな頻繁に買ってもらわなくても……」
食事をしながら、こちらが欲しい物がないか尋ねてくるユミル様。
私は彼の好意に戸惑うばかり。
コニーさんは私の後ろに位置しており、ポツリと私にだけ聞こえる声で言う。
「愛情表現が下手くそな方ですから。あなたに振り向いてほしくて必死なのです」
「あ、愛情表現?」
コニーさんはそう言った後舌打ちをした。
先日まではユミル様が怖かったが、今はコニーさんが怖い。
こんなに嫌われるなんて、私なにかしたのかな?
しかし愛情表現だなんて……
私を見つめながらほんのりと頬を染めているユミル様。
私はそんな彼が大変可愛らしく思え、またキュンキュンしていた。
「今日は外に出かけるとするか」
「はい」
ユミル様の誘いに、私は快く頷く。
この間とは違う。
清々しい気分で出かけることができる。
一緒に屋敷を出て、町の中を練り歩く。
私の隣で歩くユミル様はとても綺麗で、そして可愛らしかった。
「寒くはないか? 寒かったらか、肩ぐらいは抱いてやってもいいんだぞ」
そんなことを言うユミル様は頬を赤くしている。
私はクスクス笑いながら、彼の顔を見つめた。
この間までア―ロイのことで悩んでいたのが嘘みたい。
と言うか、ユミル様の事を怖がっていたのも嘘みたいだ。
こんな人となら、ずっと一緒にいても楽しいかも。
ずっと一緒にいても……幸せかもしれない。
だけど、必要以上に貢ぐ癖は治してもらわないと。
このままではいつか破産してしまう可能性だってないわけではない。
「ユミル様、こんにちわ!」
「ユミル様、いつもありがとうございます」
町を歩いていると、ユミル様に笑顔で挨拶をする人ばかり。
本当に慕われているお方なんだな。
「どうした、俺の顔になにか付いているか?」
「いいえ。ただ、優しいなと思いまして」
「……ふ、ふん! 俺は優しく何てない! 勘違いするな!」
顔を真っ赤にして先に進んで行くユミル様。
本当にお可愛いお方。
笑いを殺しながら私は彼の後ろをついて行く。
楽しい時間。
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幸せな時間。
本当にかけがえのない時間だった。
だが、その最高の時間は、一瞬で最悪な物に変化しようとしていた。
「リーン……見つけたぞ」
「……お、お義兄様」
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私は彼を見て真っ青になる。
まさか……ア―ロイに見つかってしまうとは……
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