9 / 14
9
しおりを挟む
「花は気に入ったか?」
「は、はぁ……」
「そうか。それは良かったな」
いつもと変わらず悪人面でニヤリと笑うユミル様。
まさか……これは好意的な笑顔だとでもいうの?
私がビクビクしていると、彼は私との距離を詰めてくる。
「お前に見せたいものがある」
「み、見せたいものですか……?」
「ああ。ついて来い」
私はユミル様に従い、彼の後をついて行く。
連れて行かれたのは裏庭で……そこには新しく植えられた花々たちが咲き乱れており、まるで私を出迎えてくれているようにも見えた。
「どうだ? 嬉しいか? 泣いて喜んでもいいんだぞ?」
「う、嬉しいですけど……ちょっとやり過ぎなのでは?」
昨日と比べて、花壇が増えているような気がする。
いや、完全に増えている。
もしかして、急ピッチでこれらを作らせたのだろうか?
と言うか……この方は本当に優しいお方なのか?
ちょっとやり過ぎな感じはあるが、私のためにこれだけの物を用意してくれた?
もう一度ユミル様のお顔をマジマジと見る。
何度見ても彼の笑顔は怖い。
怖いけど……優しいんだ。
彼に対する恐怖心が、ふっと自分の内から消えていく。
私はこれまでユミル様に取っていた態度が恥ずかしくなり、彼に頭を下げた。
「申し訳ありません……ずっとユミル様が怖い怖いと思っておりました」
「ふん。もう慣れたものだ。俺は気にしていない」
「それに、助けていただいたお礼などもまだでした……本当にありがとうございます」
「なるほど……お前の助けになれたとわけだな?」
「はい」
ユミル様が私を睨み付ける。
いや、これは見つめているのだろうか。
そう考えると、少し体温が上がる気がした。
「あ、あの」
「……もしまだ気にしているのなら、お前の笑顔を見せてくれ」
「え、笑顔でございますか?」
「ああ……まだお前の笑顔を見たことがないからな」
私は首を傾げながら思案する。
ああ、ずっと怖がってばかりで笑っていなかった。
しかし私の笑顔が見たいだなんて、奇特なお方。
私は大きく息を吐き、そして出来る限りの笑顔をユミル様に向ける。
彼の優しさに応えるべく、彼の外面ではなく彼の心に届くように。
「これまで本当にありがとうございました」
「…………」
ユミル様は私の顔を呆然と見つめていた。
見つめていると思ったら、今度はパッと顔を逸らし私に背中を向ける。
「そ、そろそろ中に入るぞ。ここはもういいだろう」
そう言うユミル様の耳は真っ赤であった。
なんだか、可愛いと感じてしまう私がいる。
胸がキュンキュンする。
本当にこの人は、外見が怖いだけなんだ。
私はそんな彼の背中を見つめて、笑みをこぼしていた。
しかし、遠くからコニーさんが、こちらを憤怒の形相で睨んでいる姿が目に入る。
ゾクリと背筋に寒気が走る……あの人は私を恨んでいるのだろうか?
凍り付くような視線を感じながら、私はユミル様の後ろを歩いて行く。
「は、はぁ……」
「そうか。それは良かったな」
いつもと変わらず悪人面でニヤリと笑うユミル様。
まさか……これは好意的な笑顔だとでもいうの?
私がビクビクしていると、彼は私との距離を詰めてくる。
「お前に見せたいものがある」
「み、見せたいものですか……?」
「ああ。ついて来い」
私はユミル様に従い、彼の後をついて行く。
連れて行かれたのは裏庭で……そこには新しく植えられた花々たちが咲き乱れており、まるで私を出迎えてくれているようにも見えた。
「どうだ? 嬉しいか? 泣いて喜んでもいいんだぞ?」
「う、嬉しいですけど……ちょっとやり過ぎなのでは?」
昨日と比べて、花壇が増えているような気がする。
いや、完全に増えている。
もしかして、急ピッチでこれらを作らせたのだろうか?
と言うか……この方は本当に優しいお方なのか?
ちょっとやり過ぎな感じはあるが、私のためにこれだけの物を用意してくれた?
もう一度ユミル様のお顔をマジマジと見る。
何度見ても彼の笑顔は怖い。
怖いけど……優しいんだ。
彼に対する恐怖心が、ふっと自分の内から消えていく。
私はこれまでユミル様に取っていた態度が恥ずかしくなり、彼に頭を下げた。
「申し訳ありません……ずっとユミル様が怖い怖いと思っておりました」
「ふん。もう慣れたものだ。俺は気にしていない」
「それに、助けていただいたお礼などもまだでした……本当にありがとうございます」
「なるほど……お前の助けになれたとわけだな?」
「はい」
ユミル様が私を睨み付ける。
いや、これは見つめているのだろうか。
そう考えると、少し体温が上がる気がした。
「あ、あの」
「……もしまだ気にしているのなら、お前の笑顔を見せてくれ」
「え、笑顔でございますか?」
「ああ……まだお前の笑顔を見たことがないからな」
私は首を傾げながら思案する。
ああ、ずっと怖がってばかりで笑っていなかった。
しかし私の笑顔が見たいだなんて、奇特なお方。
私は大きく息を吐き、そして出来る限りの笑顔をユミル様に向ける。
彼の優しさに応えるべく、彼の外面ではなく彼の心に届くように。
「これまで本当にありがとうございました」
「…………」
ユミル様は私の顔を呆然と見つめていた。
見つめていると思ったら、今度はパッと顔を逸らし私に背中を向ける。
「そ、そろそろ中に入るぞ。ここはもういいだろう」
そう言うユミル様の耳は真っ赤であった。
なんだか、可愛いと感じてしまう私がいる。
胸がキュンキュンする。
本当にこの人は、外見が怖いだけなんだ。
私はそんな彼の背中を見つめて、笑みをこぼしていた。
しかし、遠くからコニーさんが、こちらを憤怒の形相で睨んでいる姿が目に入る。
ゾクリと背筋に寒気が走る……あの人は私を恨んでいるのだろうか?
凍り付くような視線を感じながら、私はユミル様の後ろを歩いて行く。
1
お気に入りに追加
1,028
あなたにおすすめの小説

ある日突然、醜いと有名な次期公爵様と結婚させられることになりました
八代奏多
恋愛
クライシス伯爵令嬢のアレシアはアルバラン公爵令息のクラウスに嫁ぐことが決まった。
両家の友好のための婚姻と言えば聞こえはいいが、実際は義母や義妹そして実の父から追い出されただけだった。
おまけに、クラウスは性格までもが醜いと噂されている。
でもいいんです。義母や義妹たちからいじめられる地獄のような日々から解放されるのだから!
そう思っていたけれど、噂は事実ではなくて……

[完結]悪役令嬢様。ヒロインなんかしたくないので暗躍します
紅月
恋愛
突然の事故死の後、なんでこんなアニメか乙女ゲームのヒロインの様な子に転生してるの?しかもコイツ(自分だけど)事故物件。
家とか周りに迷惑かけない様にしようとしたら……。
可愛い悪役令嬢様とも出会い、ヒロインなんてしたくないので、私、暗躍します。


呪いを受けたせいで婚約破棄された令息が好きな私は、呪いを解いて告白します
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私キャシーは、夜会で友人の侯爵令息サダムが婚約破棄された場面を目撃する。
サダムの元婚約者クノレラは、サダムが何者かの呪いを受けたと説明をしていた。
顔に模様が浮き出たことを醜いと言い、呪いを受けた人とは婚約者でいたくないようだ。
サダムは魔法に秀でていて、同じ実力を持つ私と意気投合していた。
呪いを解けば何も問題はないのに、それだけで婚約破棄したクノレラが理解できない。
私はサダムの呪いを必ず解き、告白しようと決意していた。

私の大好きな彼氏はみんなに優しい
hayama_25
恋愛
柊先輩は私の自慢の彼氏だ。
柊先輩の好きなところは、誰にでも優しく出来るところ。
そして…
柊先輩の嫌いなところは、誰にでも優しくするところ。

少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。
ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。
なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。
妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。
しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。
この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。
*小説家になろう様からの転載です。

モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。

【完結】婚約破棄されたので田舎に引きこもったら、冷酷宰相に執着されました
21時完結
恋愛
王太子の婚約者だった侯爵令嬢エリシアは、突然婚約破棄を言い渡された。
理由は「平凡すぎて、未来の王妃には相応しくない」から。
(……ええ、そうでしょうね。私もそう思います)
王太子は社交的な女性が好みで、私はひたすら目立たないように生きてきた。
当然、愛されるはずもなく――むしろ、やっと自由になれたとホッとするくらい。
「王都なんてもう嫌。田舎に引きこもります!」
貴族社会とも縁を切り、静かに暮らそうと田舎の領地へ向かった。
だけど――
「こんなところに隠れるとは、随分と手こずらせてくれたな」
突然、冷酷無慈悲と噂される宰相レオンハルト公爵が目の前に現れた!?
彼は王国の実質的な支配者とも言われる、権力者中の権力者。
そんな人が、なぜか私に執着し、どこまでも追いかけてくる。
「……あの、何かご用でしょうか?」
「決まっている。お前を迎えに来た」
――え? どういうこと?
「王太子は無能だな。手放すべきではないものを、手放した」
「……?」
「だから、その代わりに 私がもらう ことにした」
(いや、意味がわかりません!!)
婚約破棄されて平穏に暮らすはずが、
なぜか 冷酷宰相に執着されて逃げられません!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる