『悪魔』と呼ばれる侯爵様に拾われたが、溺愛されすぎて戸惑っています。

亜綺羅もも

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「花は気に入ったか?」
「は、はぁ……」
「そうか。それは良かったな」

 いつもと変わらず悪人面でニヤリと笑うユミル様。
 まさか……これは好意的な笑顔だとでもいうの?

 私がビクビクしていると、彼は私との距離を詰めてくる。

「お前に見せたいものがある」
「み、見せたいものですか……?」
「ああ。ついて来い」

 私はユミル様に従い、彼の後をついて行く。
 連れて行かれたのは裏庭で……そこには新しく植えられた花々たちが咲き乱れており、まるで私を出迎えてくれているようにも見えた。

「どうだ? 嬉しいか? 泣いて喜んでもいいんだぞ?」
「う、嬉しいですけど……ちょっとやり過ぎなのでは?」

 昨日と比べて、花壇が増えているような気がする。
 いや、完全に増えている。

 もしかして、急ピッチでこれらを作らせたのだろうか?
 と言うか……この方は本当に優しいお方なのか?
 ちょっとやり過ぎな感じはあるが、私のためにこれだけの物を用意してくれた?

 もう一度ユミル様のお顔をマジマジと見る。
 何度見ても彼の笑顔は怖い。
 怖いけど……優しいんだ。

 彼に対する恐怖心が、ふっと自分の内から消えていく。
 私はこれまでユミル様に取っていた態度が恥ずかしくなり、彼に頭を下げた。

「申し訳ありません……ずっとユミル様が怖い怖いと思っておりました」
「ふん。もう慣れたものだ。俺は気にしていない」
「それに、助けていただいたお礼などもまだでした……本当にありがとうございます」
「なるほど……お前の助けになれたとわけだな?」
「はい」

 ユミル様が私を睨み付ける。
 いや、これは見つめているのだろうか。
 そう考えると、少し体温が上がる気がした。

「あ、あの」
「……もしまだ気にしているのなら、お前の笑顔を見せてくれ」
「え、笑顔でございますか?」
「ああ……まだお前の笑顔を見たことがないからな」

 私は首を傾げながら思案する。
 ああ、ずっと怖がってばかりで笑っていなかった。
 しかし私の笑顔が見たいだなんて、奇特なお方。

 私は大きく息を吐き、そして出来る限りの笑顔をユミル様に向ける。
 彼の優しさに応えるべく、彼の外面ではなく彼の心に届くように。

「これまで本当にありがとうございました」
「…………」

 ユミル様は私の顔を呆然と見つめていた。
 見つめていると思ったら、今度はパッと顔を逸らし私に背中を向ける。

「そ、そろそろ中に入るぞ。ここはもういいだろう」

 そう言うユミル様の耳は真っ赤であった。 
 なんだか、可愛いと感じてしまう私がいる。
 胸がキュンキュンする。
 本当にこの人は、外見が怖いだけなんだ。

 私はそんな彼の背中を見つめて、笑みをこぼしていた。

 しかし、遠くからコニーさんが、こちらを憤怒の形相で睨んでいる姿が目に入る。
 ゾクリと背筋に寒気が走る……あの人は私を恨んでいるのだろうか?

 凍り付くような視線を感じながら、私はユミル様の後ろを歩いて行く。
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