『悪魔』と呼ばれる侯爵様に拾われたが、溺愛されすぎて戸惑っています。

亜綺羅もも

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「…………」
「お目覚めですか?」
「は、はぁ……」

 私が目を覚ますと、そこはどこかの部屋の中だった。
 目の前には金色の髪を結っている侍女らしき女性の姿。
 彼女は無感情にしか見えないような表情で私を見下ろしていた。

「あの、ここは?」
「ここはアーガラム家のお屋敷でございます」
「アーガラム……って!」

 私はガバッと起き上がり、激しい動悸を起こす。
 アーガラム家と言えば――

 ユミル・アーガラム。

 あの、悪魔の異名を持つ男性……
 人とは思えないような冷たい瞳に、人とは思えないような残虐な性格。
 私はそんな方のお屋敷に運び込まれたというの……?

 私はガタガタ震えながら、彼女の顔を見つめる。
 彼女は真剣な顔で私の瞳を見つめ返していた。

「私はコニー。どうやらあなたは、ユミル様の噂をご存じのようですね」
「は、はい……まさか、私はユミル様に殺されてしまうのでは……?」
「……その可能性は否定できません」

 ゾッと背筋が凍り付く。
 悪魔の異名は本物なのね……

 私は青い顔で、彼女に懇願する。

「わ、私はリーン・ルドウィック……コニーさん、私をここから助け出してはくれませんか?」
「…………」

 コニーさんは私から視線を逸らす。
 私は彼女の態度から絶望を覚え、肩を落とした。

「あの男から逃げ出して来たというのに……次は悪魔と呼ばれる侯爵様に囚われるなんて」
「すみません。私がこの屋敷にあなたを運び込んでしまったために」
「あなたが……?」

 意識を失う瞬間、女性の姿を見たけれど……そうか、この人だったのね。
 私は彼女に感謝の念を抱くと同時に、こんなところに運び込んだことへの恨みのようなものを覚えていた。
 こんなことなら、外で放っておいてくれたら良かったのに……

 そんな風に考えていると、ドアがノックされることなく、勢いよく開かれる。

「おい、女の様子はどうだ?」
「ユミル様……今お目覚めなったところでございます」
「…………」

 ユミル・アーガラム。
 闇のように真っ黒は髪に血のように赤い瞳。
 全身黒い服を身に纏っており、見るからに危ないお方だと分る、怖い表情。
 端正な顔をしているのに、恐怖心が湧き上がってくる。

 そうか……この方が『悪魔』と呼ばれているお方か……

「……汚い恰好をしているな」
「……え?」

 私は自分の身体を見下ろす。
 どうやら泥だらけのままで、この屋敷に運び込まれたようだ。

 私は無性に恥ずかしくなり、ベッドから起き上がる。

「申し訳――」
「さっさとその汚らしい服を脱ぐんだな」

 ユミル様は私の声を遮り、目を細めて私のドレスを見下ろす。

「脱げ」
「…………」

 これからユミル様に何をされるんだろうか……
 私は不安な気持ちで、ドレスを脱ぎ始めたのであった。
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