『悪魔』と呼ばれる侯爵様に拾われたが、溺愛されすぎて戸惑っています。

亜綺羅もも

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「お前、俺からなんとかして逃れようとしているんだろ? だけどそんなのは無駄だ! お前はここから出て行くことはできない。親父はお前を余所にやるつもりはない。だからお前は俺と一緒になるしかないんだ!」
「そんな……」

 両手をア―ロイに掴まれながら、私は絶望していた。
 私に未来がないということが分かり、ガタガタと震え出す。
 
 ……嫌だ。
 絶対に嫌だ!
 こんな人と一緒になりたくない!

 無理矢理女を自分の物にしようとするような人と、結婚なんてしたくない!

 醜悪な笑みを浮かべているア―ロイ。
 彼はゆっくりと顔を動かし、私にキスをしようとする。
 私は怖気を覚え、咄嗟に足を動かした。

「いやー!!」
「うっ……」

 どうやら膝が、彼の股間に炸裂したようだ。
 私から手を放し、股間を両手で押さえるア―ロイ。

 女の私には理解できないが、男性は股間が弱点だと聞く。
 よほど痛いのだろうか、ア―ロイは私を憤怒の表情で睨み付けている。

 しかし私はその隙をつき、私は入り口へと走り出した。

「リ、リーン! こんなことをして許されると思っているのか!」
「ゆ、許されないのは分かっています! だけど……だけど、あなたと一緒になるなんて御免です!」

 部屋から飛び出し、私は全力で走る。
 廊下を駆け、屋敷を出て、夜道を無心で走り続ける。

「はぁ……はぁ……」

 息が切れるが、私はとにかく逃げ続けた。
 ア―ロイに連れ戻されないように……彼の家族に見つからない場所に。

 何も考えていなかったが、とにかく私は全力で駆けていた。

 彼の物にならなければいけないというのなら、もうあそこにはいられない。
 自分一人で生きていけるほど、世の中は甘くないことも知っている。
 だけど私は彼を拒否する。
 誰がどう言おうとも、私はア―ロイと一緒になんてなりたくないもの。

 走る中、空からぽつぽつと雨が降り出した。

「きゃっ!」
 
 私は足を滑らせて、泥まみれになってしまった。
 なんと情けなく、惨めなのだろう。
 自然に涙も溢れるが、走ることは止めない。

 起き上がり、足も痛むがとにかく走った。
 体力の続く限り、私は駆ける。

 そしてとうとう体力の限界が訪れ、雨に濡れた地面に膝をついた。

「…………」

 寒い。
 肺が痛い。
 もうこのまま死んでしまいたい。
 そう考えてしまうほどに、私は参っていた。

 すると遠くから、明かりを持ってこちらに近づいてくる女性の姿が見える。
 私はその明かりを見つめている間に、意識を失いつつあった。

 私を心配する女性の声が聞こえてくる。
 これからどうなるとしても、ア―ロイの妻になるよりはマシだろう。

 不安と安堵が渦巻く中、私は完全に意識を失うのであった。
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