婚約者に雪山で見捨てられまして

亜綺羅もも

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「さ、寒い……凍える」

 ケイロスは、御者と共に雪道を歩いていた。
 どこまでも続く白。
 遠くを見渡すことができず、目を細めて寒さに耐えながら前に進んでいる。

 次の町まで歩いていけば助かる。
 だが、ケイロスは雪山を舐めていた。

 その寒さは体力を奪い、雪によって歩くことは困難。
 自分の計算ではもっと早く、もっと先に進めていたはずなのに。

 とんだ計算違いだと朦朧とする意識の中で考える。
 こんなはずじゃなかったのに……

 村でエヴァが言っていたことを今更ながら後悔するケイロス。

 こんなことなら後一日、村に留まっておくべきだった。
 こんなことなら彼女を連れだすべきじゃなかった。
 こんなことなら彼女と出逢うべきじゃなかった。

 自分のやった行動の結果だというのに、ケイロスはエヴァとの出逢いまでをも恨みはじめる。
 エヴァがいなければこんなことになっていなかったはずなのに。

 極寒に震えるケイロスは必死に歩いていく。
 しかし、限界はすぐに訪れた。

 もうまともに歩くことができない。
 歩く速度は徐々に落ちていたが、とうとうその場から身動きできなくなっていた。

「助けてくれ! 頼むから助けてくれ!」

 御者も限界が訪れたらしく、雪の上に倒れてしまう。

「お、お前も助けるほど余裕はない……このまま置いていかせてもらう」

 御者にそう言い放つケイロス。
 だが、すでに一歩も動けなくなっていた。

「動け……動くんだ。生きるために動け、僕の足!」

 だが言うことを聞かない足。
 麻痺してしまったかのように、命令を聞かなくなってしまっていた。

 足の感覚はもうない。
 歯をガチガチ鳴らせながら、遠くを睨むつけるケイロス。

「ぼ、僕はこのまま死ぬのか……こんなところで終わるのか……いや、僕は死なない! こんなところで死にたくない!」

 一歩だけ足は前に進む。
 だがそこでガクンと力が抜け、雪に倒れてしまう。

「……こ、ここで終わりなのか……?」

 雪に顔が埋まり、徐々に感覚が失われていく。
 こんな……こんな終わりなのか。

 ケイロスの意識は少しずつ失われていき、目が閉じていく。
 もう彼の終わりは近い。
 死がそこまで訪れている。

 そしてとうとう目を閉じるケイロス。
 感覚はおろか、意識も完全に失っていた。

「…………」

 意識を失い、呼吸も止まってしまう。
 ケイロスは凍える雪の中で、その人生を終えてしまった。

 エヴァの言うことを聞いておけば……
 最期に彼は、村の入り口でのことを後悔していた。
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