幸運の女神である妹を選び婚約破棄するようですが、彼女は貧乏神ですよ?

亜綺羅もも

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「お言葉ですが、それを決めるのはサラです。あなたの元へ行くかどうかは彼女に決めてもらいましょう」
「それなら答えは決まっています。私はこれからも、エリオ様と共に生きてまいります」

 私の言葉に魂が抜けたように愕然とするジーク様。
 そして膝をつき、私にしがみついて来る。

「お願いだ……お願いだから僕と一緒に来てくれ……君がいないと僕は――」
「エリオ様、と仰いましたね?」
「え、あ、はい……」

 私とジーク様を無視して、レイアがエリオ様に話しかける。
 またいつもの癖が出たのだと思う。
 また私の物を欲しがる癖を出して……
 レイアはエリオ様が私のものだと考えたのだろう。
 彼に対して興味を持ち、蠱惑的な視線を彼に向けている。
 
「サラなんかより、私の方がいいと思いますよ? 彼女より明るいし、何でもできますから」

 エリオ様はレイアの言葉に顔を赤くする。
 照れ屋な彼が積極的な彼女に迫られているのだ、その反応は仕方ないことだろう。

「…………」

 またレイアに奪われてしまう。
 そう考えると、ジーク様の時とは非ではない痛みが胸を襲う。
 しがみ付くジーク様を無視し、私は息苦しくなり、真っ青な顔で二人のやりとりを見つめていた。

 お願い、エリオ様……私を選んでください。

「あの……嬉しいのですが、俺はサラのことが好きなので……」
「レイア……お前は僕を捨てるというのか?」
「あら? もうジーク様はお終いではありませんか。だって家もお金もないのですから。誰がどうみても、今はこのエリオ様の方が良いと考えるはずですわ」
「お話の途中で悪いのですが……俺はあなたを選ぶようなことはしませんよ」
「……何故ですか?」

 ジロッとエリオ様を睨むレイア。
 エリオ様は落ち着いた表情で彼女に言う。

「だって、サラは心の内から光を放っているのに対して、あなたはドロドロとした闇を放っている。心が醜いのでしょう。同じ顔をしているけれど、中身は驚くほどに違う。そんなあなたを選ぶわけがありませんよ」
「なっ……!」
「お金が必要ならあなたたちに差し上げましょう。ですが、サラに手を出すことは許さない」
「わ、私だって一緒にいてもいいでしょう?」

 エリオ様は静かに首を振る。

 私の呼吸はいつの間にか元に戻っていた。
 完全に安心しているんだ。
 エリオ様の真摯な想い。
 人を外見だけで判断しない、人の本質を視る眼。
 そして自分が正しいと思うことはハッキリと口にする、ここ一番の強さ。
 
 先ほどの不安が嘘のように消え、エリオ様がキラキラして見える。

「あなたがいると、サラの心が乱れる。お願いですからここから去ってください」

 笑顔でそう言うエリオ様。

「いいから私もここに住まわせなさいよ! あんたは黙って、私を養えばいいの!」
「いい加減にしろ!」
「はぁ!?」

 レイアに対して、周囲にいる村の人たちが怒り出した。

「お前みたいな見るからに性悪の女、サラとは大違いだ!」
「サラはエリオ様と一緒に村の皆に優しくしてくれるいい子なんだよ! そのサラが嫌がるのなら、ここに残らせないわよ!」
「そうよそうよ! 出て行け! 今すぐ村から出て行け!」

 村の人たちの「出て行け」コール。
 レイアは顔を真っ赤にして、エリオ様を睨み付ける。

「ふ、ふん! 冗談を本気にして! あんたみたいな田舎村の貴族なんて、こっちから願い下げよ!」

 レイアは初めて私から自分の物に出来なかったこと、そして村人たちの反応に憤怒し、踵を返して去って行ってしまった。

「お金が必要なら用意しますので、あなたもこの村から出て行ってください」
「エリオ様……何故そのようなことを?」
「君の妹さんの旦那さんだ。助けてあげるには理由は十分だよ」

 ジーク様はエリオ様の申し出に感謝しているのか、おいおい涙を流しながら彼の事を見上げている。

 こんなに格好悪い人だったのだかな……
 ジーク様の情けない顔を見てそんなことを考え、私は苦笑いを浮かべていた。
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