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私は皆に黙って家を出た。
どうせそのうち追い出されるだろうし、そもそも誰も気にしていない。
思い立ったが吉日。
これからは自分の心に従って生きて行こう。
昨日のジーク様と家族を見て私はそう決めたのだ。
だからそう決めた翌日に、こうして家を出たというわけだ。
空には眩い太陽。
荷物は何一つ持たないで飛び出したけれど、今の天気のように清々しい。
時刻は早朝。町の活動はまだのようだ。
人通りの少ない道を、私は歩んで行く。
不安が無いわけではないが、それ以上に気分がいい。
「やあそこのお嬢さん。良ければ手を貸してくれないか?」
「ええ。喜んで」
腰の曲がったおじいさんが、私に声をかけてきた。
どうやら荷物が重たく歩けないようだ。
「宿を出た時はどうってことなかったんだけどね……おや? もしかして、貴族の方かな?」
「……いいえ。違いますわ」
もう貴族ではない。
家を出たのだから。
現在の私は何者でもない、ただのサラなのだ。
「それならいいが……いや、すまない。ワシはこの町の住人ではないものでね」
「そうなのですね」
「ああ……これから馬車に乗って自分の村に帰ろうと思っていたのだけど、急に足が痛くなってね」
「なら、私が荷物を運びますわ」
彼の持っているカバンは、私から見れば大した重さではなかった。
これならどこまででも運んであげれるほどだ。
老人である彼には、重たいのかも知れないけれど。
「すまないね」
「いいえ。お気になさらず」
彼と共に町の外に来ていた馬車へと移動した。
おじいさんを馬車に乗せ、荷物を席に置く。
そこでふと私は、この人の村へと行きたくなった。
理由など分からない。
何故かそうするのが一番良いような気がしたのだ。
「あの……私も乗って行ってよろしいでしょうか?」
「んん? 行き先を知っているのかい?」
「いいえ。知りません。でも、このまま乗って行きたいと思っています」
「そうかい。じゃあ、一緒に行こうか」
「はい」
にこやかに承諾してくれるおじいさん。
私はそのまま一緒に馬車に揺られ、彼の村へと向かった。
道中、おじいさんとはいっぱいお話をした。
彼にはお孫さんが一人おり、肉親はもうその方以外いないとのこと。
大変そのお孫さんのことが気に入っているらしく、彼のことを話しているおじいさんは誇らしげで嬉しそうだった。
「孫はエリオと言ってね、本当にいい子なんだよ。村に戻ったら君に紹介してもいいかな?」
「ええ、それは嬉しいですわ。とても楽しみです」
エリオ・ルトナーク。
それがおじいさんのお孫さんの名前のようだ。
どんな人なのだろう……
ただ一度会うだけの人のはずなのだけれど、何故か私はその名を聞いてワクワク胸を躍らせていた。
どうせそのうち追い出されるだろうし、そもそも誰も気にしていない。
思い立ったが吉日。
これからは自分の心に従って生きて行こう。
昨日のジーク様と家族を見て私はそう決めたのだ。
だからそう決めた翌日に、こうして家を出たというわけだ。
空には眩い太陽。
荷物は何一つ持たないで飛び出したけれど、今の天気のように清々しい。
時刻は早朝。町の活動はまだのようだ。
人通りの少ない道を、私は歩んで行く。
不安が無いわけではないが、それ以上に気分がいい。
「やあそこのお嬢さん。良ければ手を貸してくれないか?」
「ええ。喜んで」
腰の曲がったおじいさんが、私に声をかけてきた。
どうやら荷物が重たく歩けないようだ。
「宿を出た時はどうってことなかったんだけどね……おや? もしかして、貴族の方かな?」
「……いいえ。違いますわ」
もう貴族ではない。
家を出たのだから。
現在の私は何者でもない、ただのサラなのだ。
「それならいいが……いや、すまない。ワシはこの町の住人ではないものでね」
「そうなのですね」
「ああ……これから馬車に乗って自分の村に帰ろうと思っていたのだけど、急に足が痛くなってね」
「なら、私が荷物を運びますわ」
彼の持っているカバンは、私から見れば大した重さではなかった。
これならどこまででも運んであげれるほどだ。
老人である彼には、重たいのかも知れないけれど。
「すまないね」
「いいえ。お気になさらず」
彼と共に町の外に来ていた馬車へと移動した。
おじいさんを馬車に乗せ、荷物を席に置く。
そこでふと私は、この人の村へと行きたくなった。
理由など分からない。
何故かそうするのが一番良いような気がしたのだ。
「あの……私も乗って行ってよろしいでしょうか?」
「んん? 行き先を知っているのかい?」
「いいえ。知りません。でも、このまま乗って行きたいと思っています」
「そうかい。じゃあ、一緒に行こうか」
「はい」
にこやかに承諾してくれるおじいさん。
私はそのまま一緒に馬車に揺られ、彼の村へと向かった。
道中、おじいさんとはいっぱいお話をした。
彼にはお孫さんが一人おり、肉親はもうその方以外いないとのこと。
大変そのお孫さんのことが気に入っているらしく、彼のことを話しているおじいさんは誇らしげで嬉しそうだった。
「孫はエリオと言ってね、本当にいい子なんだよ。村に戻ったら君に紹介してもいいかな?」
「ええ、それは嬉しいですわ。とても楽しみです」
エリオ・ルトナーク。
それがおじいさんのお孫さんの名前のようだ。
どんな人なのだろう……
ただ一度会うだけの人のはずなのだけれど、何故か私はその名を聞いてワクワク胸を躍らせていた。
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