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1巻

1-2

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 * * *


 崖から落ちる途中で、私は気を失っていたようだ。
 そして目を覚ますと、目の前には大きく恐ろしい真っ黒なドラゴンがいた。とても怖い。だけど……少しだけ寂しそうな目をしている。

「…………」

 このドラゴンが助けてくれたんだと判断してお礼を言ったけど、そっぽを向くだけで反応はない。いや、そもそも人間の言葉を理解できなくても不思議はない。
 多分、私を助けてくれたのは、気まぐれとか、自分の住処に死体が増えたら嫌だとか、それくらいの理由だったんだろう。私は肩を落とし、この場を去ることにした。
 それでも助けてくれたことに感謝し、私は大きく龍に向かって頭を下げる。そして私は踵を返して歩き出した。助けてくれた時に何かしてくれたのか、体が軽い。

「……おい」
「うえっ!?」

 ズレ落ちそうになる眼鏡。私はアワアワと眼鏡を押さえて振り返る。
 なんと竜が、人間の言葉を喋ったのだ。
 いや、もしかしたらこの世界では常識なのかもしれない。さっき遠目に見たモンスターも人間の言葉を話すのかもしれないな。

「な、なんでしょう?」
「……お前は、俺が怖くないのか?」
「怖くない……と言ったら嘘になるけど、でも龍さんは優しいですから」
「…………」

 何も言わずに私を見下ろす龍さん。私もまた、無言で龍さんを見上げていた。
 意外となんとか会話できているな。姫ちゃん達とはまともに喋れなかったのに。

「……お前、俺が人間の姿の方が話しやすいか?」
「え? はぁ……見上げているのも首が疲れますからね」
「そうか」

 それだけ言うと、龍さんの身体が真っ黒な霧のような物に包まれる。周囲を漂う霧なんかよりもさらに黒い色だ。
 そして霧が晴れると――そこにあった龍さんの姿がなくなっていた。

「あれ? どこに行ったんだろ……」
「おい、こっちだ」

 龍さんの声だ。だけどさっきまでより小さくなったような……?
 声の方に目を向ける。見上げていた視線をぐっと下げると、そこにはなんと、黒髪の美青年がいた!

「うわぁ……」

 サラサラの黒髪に炎のような赤い瞳。背は高く、体は細身だが筋肉質のようで、彼の肉体からは無駄という概念を感じ取れない。右手には、龍の姿の時にもあった腕輪が二つある。海外俳優みたいにカッコイイ姿のその人は、何故か私を睨んでいるけど、悪意は含まれていない気がする。
 この人……もしかして龍さん?

「え? 龍さんですか?」
「だったらなんだってんだよ? 悪いか?」
「い、いえ……悪くありません」

 私にとっては何も悪くないけど、彼は機嫌が悪そう? 私がいるだけで、イラつかせているのかな……? 私は視線を落とし、深くため息をつく。

「お、おい。なんで落ち込んでんだよ!?」
「だって龍さん、怒ってるじゃないですか」
「怒ってる!? そんなつもりはねえ、俺は怒っちゃいねえよ!」

 ほんのり顔を赤くして龍さんは怒鳴った。
 怒ってないなら、もっと静かに言ってくれればいいのに。

「後、お前。敬語は使わなくていい。普通に喋れ」
「あ、はい……じゃなかった、うん」
「…………」
「あの、ありがとね、龍さん。私のことを助けてくれて」
「別に……どうってことねえよ。大したことはやってねえんだから。あと、龍さんは止めろ」
「でも、名前知らないし……」

 龍さんは嘆息し、腕を組んで口を開いた。

「俺はヴォイドドラゴンだ」
「…………」
「なんだ?」

 率直な感想を言っていいのかな。いいよね、お世辞を言ったり誤魔化したりした方が怒りそう。

「いや、長いなって」
「長くて悪かったな! じゃあ、お前の名前はなんて言うんだよ!」
「私は江藤里奈」

 ヴォイドドラゴンさん……いや、ヴォイドドラゴン、でいいや……は私の名前を聞いて鼻で笑った。え? そんなにおかしい名前かな?

「なんだよ、お前だって名前長いじゃねえか!」
「ヴォイドドラゴンより短いと思うけどな……それに私の名前は里奈だし。江藤は苗字だよ」
「み、苗字……? なんだそれ?」

 ああ、苗字を知らないんだ。この世界には苗字が無いのかな? それとも、この人が苗字を知らないだけなのかな?

「んー。家族の名前? みたいな感じかな」
「家族の名前……?」
「うん。一緒の家で暮らしている人同士が名乗るもう一つの名前だよ」
「そうなのか……お前――リナ」

 ほんのり頬を紅潮させるヴォイドドラゴン。

「?」
「リ、リナは、どこに住んでんだ? どうしてここに落ちて来た?」

 ここに落ちて来た理由。落ちるまでにあったこと。それを思い出した瞬間、ポロリと涙が零れた。 

「お、おい! なんで泣いてるんだよ! 俺、何か言ったか?」
「ううん……ヴォイドドラゴンは何も悪い事言ってないよ」
「だったら泣くんじゃねえよ! おい、泣くなって」

 ヴォイドドラゴンは、泣いている私の視界でも理解できるほど分かりやすく慌てた後、おずおずと私の頭に手を伸ばしてくる。そのままポンポンと私の頭を撫でてくれた。その手はとても暖かくて、私にとって、久々の他人の優しさだった。
 オドオドする彼に、私はこれまでのことをポツリポツリと説明した。すると彼は激しい怒りを露わにし、天を睨み付ける。そう思ったら、今度は寂しさに満ちた顔で私を見た。

「……お前も俺と一緒なんだな」
「一緒?」
「ああ。皆からのけ者にされて、虐げられて……辛い者同士だな」

 ヴォイドドラゴンも、好きで此処に一人でいるわけじゃなくて、のけ者にされて此処にいる……? そうだとしたら、もしかして『ヴォイドドラゴン』って名前、この人の名前じゃなくて種族名か何かじゃないかな?
 私は涙を拭き、彼の名前について思案した。本人は気にしてないみたいだけど、種族名で呼ぶのはなんとなく寂しい。長いなら短くしたらいいって理由もある。

「似た者同士だね、私達。ね、イド」
「……イド?」
「うん。私が呼ぶあなたの名前。愛称とかニックネームって言ってね、仲良くしたい人の名前が長いときは、短くして呼ぶことがあるんだよ」

 姫ちゃんみたいに、もう絶対に仲良くなれないってなっても昔の癖が残っちゃうこともあるけど……ううん、姫ちゃんのことは今は考えない!
 私が笑顔でそう言うと、イドは首を傾げながらも、頬を赤く染めているようだった。怖い見た目なのに……なんだかふとした仕草が可愛いな、イドって。
 私は一度クスリと笑い、それから周囲を見渡す。ここは空気が悪い。黒い霧の所為でどこに何があるのか分からないし、なんだか変な匂いもするしでこんなところにいたら体調が悪くなりそう。

「ねえ、別の場所に行かない? ちょっと空気が悪すぎるからさ……」
「お前は大丈夫だ」
「大丈夫って……なんで?」
「俺の血を分けてやったんだ。もうこの程度の空気ぐらいどうってことねえよ」
「ふ、ふーん……?」

 よく分かんないけど大丈夫なんだ。ここにずっといたっぽいイドがそう言うなら大丈夫なんだよね。

「分かった。じゃあ気にしないようにするよ」

 でもこの匂いだけはどうにかならないものかな……腐ったような匂いがしてちょっとキツい。

「……あ」

 私はそこで、自分にスキルというものがあるのを思い出した。
【マイホーム】。それが本当にあるとしたら……まぁ普通に考えて家だよね。家の中なら、この匂いもやり過ごせるんじゃないだろうか。しかしどうやって使えばいいんだろ。もしかしたらイドが何か知ってるかもしれないな。よし、聞いてみよう。

「ねえイド。スキルってどうやって使えばいいのかな?」
「スキルだぁ? そんなの、こう、バンッ、って使えばいいだろうが」

 イドは右手を前に突き出してそんなことを言う。
 私は彼と同じように右手を突き出し、試してみる。

「バ、バァン!」
「…………」

 何も発動しない。何も起こらない。
 やっぱり【マイホーム】なんてスキルないんじゃないの? 
 項垂うなだれて苦笑いを浮かべる私に、イドが少し慌てた様子で言ってくる。

「お、落ち込むんじゃねえよ! 俺の教え方が悪かった……お前は悪くねえからな!」

 怒鳴るような口調で優しいことを言ってくれるイド。
 イドの優しさに胸がキュンとする。こんな風に私を気にしてくれる人がいるんだ。あ、人ではないか。まぁどちらにしても、私のことを気にしてくれてるんだな。嬉しい。

「まず、お前のスキルはなんだ?」
「【マイホーム】……」
「なんだそりゃ? 聞いたことねえな……じゃあとりあえず、そのスキル名を唱えてみろよ。それでだいたい発動すること多いし」
「そうなの?」
「多分だけどな。人間のスキルに関してはそこまで知ってるわけじゃねえが、戦ったことがある奴はスキル名を叫んでたような気がする」
「そっか……よーし」

 私は深呼吸し、右手を突き出し、そして大声で叫ぶ。

「【マイホーム】!」

 すると突き出した右手の先に、ボンッと大きな一軒家が出現した。
 まるで魔法だ。おとぎ話に出てくるような、不思議な力。

「「おおっ……」」

 私とイドは感嘆の声を上げ、出現した家を見上げていた。
 それは白をベースにした鉄骨二階建てで、玄関は元の世界でよくある細長いプッシュハンドルと呼ばれる物がついている。幾つもの窓が備え付けられており、屋根は瓦でできているようだ。
 うん。この世界には似つかわしくない建物。どう考えても別世界の家にしか見えない。だけど私から見れば、見慣れた一軒家だ。
 元の世界ではどこにでもあるような物で、この世界にはどこにもなさそうな物。
 玄関の扉を開くと土間があり、靴を脱いで入るスタイルになっている。家は日本風の作りになっているのか……私の『家といったらこういうもの』ってイメージなんかが投影されてたりするのかな? あまり難しく考えても仕方ないし、深く考えるのは止めておこう。
 玄関の先には廊下が伸びており、右手に二階へと続く階段がある。
 廊下の左手にドアが二つ。正面にドアが一つ。階段の下にドアが一つある。

「ここで靴脱いで」
「あ? ああ……」

 私はもちろん、人間の姿になっていたイドも靴を履いていた。それを脱いでもらい、一緒に中へと足を踏み入れる。
 扉が閉じられたことにより、嫌な臭いが遮断された。ああ、良かった。ここなら匂いも気にせずにすみそう。
 一番の心配事が片付いたので、早速家の中を見て回ることにした。まずは左手手前の扉。そこは六畳ほどの部屋で、物は何も置いていない。クローゼットがあり、玄関に面した方向に窓ガラスが設置されていて、外の景色を眺めることができる。
 しかし外は霧かかっていて、とてもじゃないが景色がいいとは言い難い。むしろ最低といってもいい。
 次に奥の左手の扉。そこを開くと、十二畳ほどの部屋。こちらにも窓ガラスが設置されていて、広々とした空間に私はワクワクする。

「凄く広い……一人暮らしだったら持て余しちゃうよ」
「……これで広いのか?」
「広いよ! だって私が住んでた部屋は、隣の部屋ぐらいだったんだよ。それなのにここは倍ぐらい広いんだから、ずいぶん広いと思わない?」
「ま、まぁ、倍になりゃ広いんじゃねえの?」
「だよね」

 私が笑顔を向けると、イドはプイと顔をらす。
 やっぱりイドも姫ちゃん達と同じで、このスキル外れスキルだなって思ってたり、そもそも私と一緒にいるのが嫌だったりする……? って、ダメダメ! イドはそんな人じゃないはず! イドは優しい人のはずだから、姫ちゃん達と一緒にしたらダメだ。
 気を取り直して、続きを見ていくことにした。階段下にある扉の中は……トイレだ。それも水洗便所。タンクレストイレ。トイレの音消し付き! これは言うことなしだよ。あまりの至れり尽くせりぶりに私は感動を覚える。
 感激したまま、次は正面のドアを開いた。
 すると中には、ぬいぐるみのような物が地面に立っており、私を見るなりお辞儀をしてきた。

「お帰りなさい、リナ様」
「……ど、どなたでしょうか?」

 白い熊のぬいぐるみのような外見。でも背中には天使の翼が生えており、暖かそうなマフラーを首に巻いている。
 その子はパタパタとその翼を動かし、私の足元へと移動してきた。
 まず言葉を喋ったことに驚き、そして動いたことに二度驚く私。この子は……?

「初めましてリナ様。僕の名前は……まだ無いからつけてくれないかな?」
「は、はぁ……」

 表情の変化は少ないが、身体全体で意思を伝えるように動かしている。見た目は可愛いし、悪い子じゃなさそう。

「なんだてめえは?」

 だがイドは怪訝そうな顔つきで、その子を足先でツンツンする。

「僕は【マイホーム】のことをリナ様に説明するために生まれた存在。まぁ簡単に言えばリナ様のサポーターだね」
「サポーター……?」

 まるで【マイホーム】ってスキルには家が手に入る他にも何かありそうな口ぶりだ。もしもそうなら、説明があったらずいぶん助かるな。

「じゃあ、熊のぬいぐるみっぽいから……クマ!」
「ありがとう、リナ様」

 ペコリと頭を下げるクマ。その姿がとても可愛らしくて、私はほっこりする。
 イドはまだ警戒しているのか、部屋に入って少し距離を取っていた。
 この部屋はどうやらリビングのようで、お金持ちの家のような広々とした空間になっていた。綺麗で清潔そうなキッチンもある。

「早速だけど説明をするね。この【マイホーム】はリナ様の幸福度が高まること、そしてリナ様が善行を積む事によってレベルが上がるようになっているよ」
「ちょ、ちょっと待って……幸福度?」
「うん。幸福度」

 幸福度って……幸せを感じる度合いってこと? それにレベルって何? 能力が強くなるのかな?

「現在の【マイホーム】のレベルはー……どうやらずいぶん幸福度が低いんだね」
「あはは……まぁ引きこもってたし、この世界に来て絶望してたしね」

 そりゃ低くて当然。レベルが低いのも頷ける。

「レベルが上がったらどうなるのかな?」
「レベルが上がれば、この【マイホーム】でできることも増えていくよ」
「へー……ちょっと面白そうだね。ちなみに、今はどんなことができるの?」

 するとクマはキッチンの方へとパタパタと飛んで行き、銀色のタブレットを持ってこちらに戻って来る。……え? タブレット?

「このタブレットは【マイホーム】と連動しているから、何ができるのかはこれを確認した方が分かりやすいと思うよ」

 可愛らしい、声変わりする前の少年のような声でそう説明してくれるクマ。私は手渡されたタブレットを確認してみる。


 マイホーム レベル1
  機能 空気清浄Ⅰ


「……空気清浄? これだけ?」
「それだけみたいだね」

 空気清浄だけか……と一瞬落ち込むも、中の空気がこんなに綺麗なのはこの機能のおかげなのかと納得する。外の黒い霧を遮断してるんだ。

「おい……そりゃなんだよ?」
「これはタブレットって言って……私が来た世界のオモチャみたいなものかな?」

 オモチャではないけど、説明がややこしい。私は基本的にゲームに使ってたから、間違ってもいないよね? 他にどんなアプリがインストールされているのか確認したら、現在のレベルを確認できる『レベル』というものしか、画面には表示されていない。

「まぁ、家があるだけマシか。野宿しなくてすみそうだし」

 私が笑顔でそう言うと、イドは首を傾げて口を開く。

「なんでそんな笑ってんだよ。人間の常識はよく分からねえが、少なくとも今の状況は、お前にとってよくはねえんだろ?」
「んー……でも、イドもクマもいるし、独りじゃないもん。独りじゃないってだけで幸せじゃない?」
「…………」

 キョトンとするイド。
 これまで私は引きこもりで友達もいなくて……本当に寂しい生活をしていた。家族と会話はしていたがそれだけ。誰か話をする人がいるだけで幸せだったんだろうけど……こうやって家族以外の人と話ができるのが嬉しい。あっそういえばお父さんとお母さん……いきなり私がいなくなって心配してるだろうな……そこだけは後悔だし未練ではある。だから、『よくはねえ』ってイドの言葉は正しくて、でもそのうえで、私にとって最悪の状況ではない。
 そういえば、イドとはもう普通に話ができる。元々は人と会話をするのが好きだったし、それに彼が優しい心の持ち主だということを分かっているからだろう。

「俺も……ここにいれば独りじゃねえってことか」
「うん。イドがいるから私は独りじゃないし、私がいるからイドは独りじゃないよ。二人一緒なら寂しくないよね」
「そ、そうか……」

 イドは驚いたような、嬉しいような、複雑な表情をしていた。私は少し不安になり、イドの顔を覗き込んだ。

「私と一緒じゃ嫌?」

 そりゃ私は眼鏡で太っていて可愛くないし……こんな女といても嬉しくはないか。
 少し私が落ち込むと、イドは腕を組んで顔をらす。

「お、お前がいて……嬉しくないことないんだからな!」
「へ?」

 これは……ツンデレ? しかし、ツンの部分が少ないように思える。可愛い……デレ要素の方が強いイドは可愛いよ。デレが強いから、これは表現するならツンデレデレだ。
 イドの新たな一面に、私は感動を覚えていた。胸がポカポカしてほっこりする。なんだか友達の知らなかった顔を知れたみたいで嬉しいなぁ。
 すると、クマの目がピコーンと光る。

「リナ様」
「ん? どうしたの?」
「【マイホーム】のレベルが二になったよ」
「え……? レベルが上がったの!?」

 いきなりのことに唖然としつつも、嬉しさに胸を踊らせタブレットを確認してみる。


 マイホーム レベル2
  機能 空気清浄Ⅱ 身体能力強化Ⅰ ショップⅠ


「おお……『身体能力強化』というのと『ショップ』というのが追加されてるよ!」
「なんだそりゃ?」
「これはね……なんなの、クマ?」

 イドが私に訊いてくるが、当然のように答えられない私。クマは可愛らしい声で私達に説明してくれる。

「『身体能力強化』はそのままの意味で、リナ様の身体能力が上昇するよ。『ショップ』はまぁいわゆるネットショッピングが可能になる機能だね」
「へー! ネットショッピングができるんだぁ。凄い便利だね」

 まさか異世界に来てネットショッピングができるだなんて、嘘みたい。タブレットにも『ショップ』のアプリが追加されている。
 試しに『ショップ』のアプリを立ち上げてみると、世界的に有名なネットショップに似た画面が表示された。商品はというと、日常品などを購入できるみたいだ。歯ブラシや石鹸にシャンプー、他にはティッシュなど、生活必需品がごまんと並んでいる。

「これは便利だね。本当にありがたいよ」
「で、それはなんなんだ?」
「これを使うだけで買い物ができるんだよ」
「? 買い物って……どうやって買うんだ? 意味が分かんねえ」

 多分この世界にインターネットはないし、万一あったとしてもイドは絶対に知らない。ネットを知らない人にネットショッピングを説明するのは難しいな……なんて説明すればいいんだろ。

「んとね……人と会わなくてもこれで注文するだけで商品がここに届くんだよ。難しいことは分からないけど、とにかく商品が届くの」
「……やっぱ意味分かんねえよ」

 頭をかくイド。まぁ一度買っているところを見せた方が早いな。
 ということで、私は早速ネットショッピングで買い物をすることにした。

「これとこれと……後はこれも必要だよね」

 タブレットを操作し、必要な物を買い物かごに入れていく。今までの人生でこれほどまでに爆買いをしたことがあるだろうか? 私はウキウキしながらタブレットで注文をしていく。


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