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第二章

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「今日もお手合せ願おう、イド殿」
「だから、やらねえって言ってるだろ! 俺は今からテレビ見るんだよ!」
「いやしかし、俺はもっと強くなりたいのです。あなたが指導してくれた方が効率よく強くなれることでしょう」
「知らねえぇええええ!! お前の強さなんてどうでもいい!」

 ゼロスはあの後、私たちを必死で探したらしく、私たちの住まいへとやって来ていた。
 そして近くで野宿を始め、こうして毎日イドに戦いを挑んでいるというわけだ。
 しかし迷惑がるイド。
 たまに戦ってあげてるけれど、ほとんど相手にしていない。

「おはよう、ゼロス」
「おはようございます、リナ殿。イド殿をお借りしてもよろしいか?」
「貸さねえよ! 強くなりたきゃ、そこらへんで適当に体鍛えとけ」
「なるほど……確かにまだまだ鍛錬が足りないからな。分かりました。では今日はイド殿の命じた通り体を鍛えることにします」
「命じてねえよ……なんだこいつ。面倒くせえ……」

 家の庭先で腕立て伏せや腹筋を開始するゼロス。 
 彼はイドに敬語を使い始め、そして私にも同じように丁寧な言葉を使い出した。
 
 悪くない人なんだろうけど、でも真っ直ぐすぎてイドが疲れるレベル。
 私たちに害はないけど、イドが大変だな。

「ああもう、映画観よ。リナ、一緒に観るか?」
「うん。一緒に観る。何観るの?」

 ため息をついたイドは気持ちを切り替えて、テレビの電源を付ける。
 そして気になるタイトルを表示させ、私にこれでいいかと尋ねてきた。
 自分の好きなの観たらいいのに、気を使ってくれてるんだな。
 そんなイドの心遣いが気持ちいい。

「しかし、リナはんの周りには頼もしい仲間が増えますなぁ」
「仲間って……イドの家来でしょ?」
「誰の家来だ誰の。俺は家来なんて必要ねえよ」
「まぁイドはんを慕ってるみたいやけど……結果としてリナはんの仲間になったってことでしょう?」
「まぁ……そう言えなくもないかな」

 レンは訓練をしているゼロスを見ながら話を続ける。

「強き者の周りには強い者が集まる……もしかしたらリナはん、このまま世界中の強者どもを仲間にするかもしれまへんなぁ」
「世界中って……そんなの求めてないんだけど。私は家族がいればそれでいいし」
「望む望まんは別として、そういう運命にあるかもって話どす」

 運命って……
 イドや皆と出逢えた運命は嬉しいけれど、でも世界中の強い仲間なんて必要としてないんだけどな。
 この家と家族。
 それだけで十分だよ。

「あ、仲間で思い出したけど、ゼロスって仲間はいるの?」
「ええ。オーガの仲間たちは今こちらに向かっているはずです」
「はぁ!? どういうことだよ?」

 ゼロスの突然の報告に、イドが素っ頓狂な声を上げる。

「どういうことと申されましても……ここで生活をするためでしょう。俺はオーガの長ですから。ありがたいことに俺を慕ってくれているようですし」
「今すぐ出て行け! ここを大所帯にしたくねえんだよ!」
「その点は問題ありません。少し離れた場所をオーガの拠点といたします」
「こいつ、どこまで面倒くせえんだよ……ここから離れる選択肢はねえのか?」

 私もイドと同じように呆れる。
 まさか魔族が人間の住むここにやって来るなんて……騒ぎにならなきゃいいけど。

「あ……そう言えば、『聖域』があるけど、魔族は問題無いのかな?」
「ゼロスが大丈夫だったように、他の魔族も大丈夫だよ。『聖域』が弾くのはモンスターだけだからね」
「そういえばそうだね」

 ゼロスもこうして『聖域』内に侵入している。
 イドとの戦いで負った怪我も一瞬で癒え、こうして目の前にいるんだ。

「あ、でも【マイホーム】のレベルが上がったみたいだから、その辺りリナ様の自由に設定できるようになったよ」
「設定?」
「うん。『クリエイト』のレベルが上がって、今存在するスキルをある程度カスタマイズできるようになったんだよ」
「へー。また便利になったね。例えばどんなことができるの?」
「そうだね……」

 クマは可愛らしい顔に手を当て思案するポーズを取る。

「『聖域』に侵入できる対象を変更するとか。リナ様に悪意を持つ者は侵入できない、みたいにね」
「それ、やっとけ。ってかこれ以上他人が入れないようにしとけ」
「それはちょっとやりすぎだよ」

 イドの冗談か本気か分からない言葉に私は苦笑い。

「とりあえず、悪意を抱いてる人は入れないしておこうかな。そうすれば、危険も少なくなるしね」
「うん。そうだね。じゃあはい、タブレット」

 クマからタブレットを受け取り、そして『クリエイト』で『聖域』のスキル設定を変更する。
 現在は『癒し効果/浄化効果/モンスター侵入禁止』と表示されているので、ここに自分に対して悪意を持つ者の侵入を禁止すると追加。

「…………」

 だが何も起こらない。
 まぁ変化なんて見えるわけもないか。

「心配しなくても、設定の変更は適応されてるよ。これで安全性が増したね」
「後はこいつの仲間の侵入も禁止しとけ。あんな男ばっか集まられても困るんだよ」
「あはは……迷惑になるようならそうするよ」

 イドは映画を観るためリモコンで操作しながら顔をしかめている。
 本当に嫌がってるならそうするかな、なんて彼の隣で私はそう考えるのであった。
 後、悪い人ばかりでもそうしよう、うん。
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