婚約破棄で構いませんが国は頂戴いたします。

亜綺羅もも

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 戴冠式がすでに明後日に迫ろうとしていた。
 私たちは夜の雨の中エミューゼ城を見上げていた。

「……私はこれからここで一生を過ごすのだね」
「はい。覚えることも沢山あります。ですがそれこそがこの国の未来のためだと信じております」

 クレス様はニケ様を見つめながら、そうハッキリと言った。

「クレス様……」

 クレス様には数人の仲間がおり、城の中からそのうちの一人が顔を出す。
 彼に招かれ、私たちは城の中へと侵入した。
 
「どうぞこちらへ……」

 蝋燭を持って私たちを先導する男の方。
 私たちは出来る限り音を殺し、ミルコ様の部屋へと向かう。

 夜ということもあり、全然と言って良い程人はいない。
 難なく私たちは、ミルコ様のお部屋へと到着した。

 静かに戸を開け、中へと侵入する。
 中は真っ暗。
 ミルコ様は……酒を沢山飲んだのか、ぐっすりと眠っている。

「…………」

 ニケ様がミルコ様の顔を見て目を見開いていた。
 自分と全く同じ顔。
 それが目の前で眠っている。
 不思議なような、そしてこれから彼の運命を大きく変えてしまう。
 色んな感情を抱いているようだった。

「ごめん」

 クレス様は手に持っていたハンカチでミルコ様のお口を塞ぐ。
 ミルコ様は流石に目を覚ましたようで、ハンカチの中で何か喚いているようだった。
 私を睨み、そしてニケ様を睨んで目を点にさせる。
 この状況を理解できない中、自分の顔がそこにいるのだから……軽くパニック状態になっていたのだろう。
 そのままミルコ様は意識を失い、ベッドにまた横になる。

「おい」
「はっ」

 クレス様の命令で、兵士が数人部屋へと入って来る。
 そしてミルコ様を担ぎ、部屋を後にした。

「……ここからあなた方の運命は大きく変わる。ニケ様はミルコ様として。ローザ様は偽りの王と共に生きていくことになります。私も死ぬまでお付き合いするつもりですが――」
「もういいですよ、クレス様。私は自分の運命を受け入れるつもりですから」

 するとクレス様はニケ様に対して跪き、頭を下げる。

「では、これよりは私のことはクレスとお呼びください」
「……分かった、クレス。これからよろしく頼む」
「はっ」

 クレス様はこれまで通り、自分に与えられた任へとつくようだ。
 私はクレス様が部屋から出ていったのを確認し、ニケ様の方に視線を向ける。

「ニケ…… ミルコ様 ・・・・。私もどうぞこれからよろしくお願いいたします」
「ああ。私たちは共犯者。これからずっと一緒だ」

 ニケ様に抱き寄せられ、彼の胸へ顔を埋める。
 不思議なことに私は彼の香りと温もりに安堵を感じていた。
 きっとこの選択は間違っていない。
 きっとこれが運命だったのだと、確信していた。
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