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「この方はローザ・エクリール様……ミルコ様の婚約者でございます」

 『元』婚約者なのだが……しかし今はそんな細かいことはどうでもいい。
 どうやら彼は、私の知るミルコ様ではないようだ。
 見た目は全く同じだというのに、その穏やかな表情。
 妙に人を落ち着かせるそのオーラ。
 同じ顔なのに、全然違う。
 この方は断じてミルコ様ではなかった。

「そうですか……」

 その方はクレス様の言葉を聞き、一つ頷いて私の方を見た。

「初めまして。私はニケ。この村で生まれこの村で育ったただの村人でございます」
「は、初めまして……」

 確かに服装も一般的な人が着るような物をお召しのようだし、ミルコ様と比べると、その、みすぼらしい印象を受ける。
 彼は自分が言う通り、本当にただの村人なんだわ。
 貴族ではない村人……しかし彼の持つ気品はなんなのだろう。
 これは貴族が持つそれと遜色ない……いや、それ以上の物を感じる。
 クレス様も彼に対して、丁重な言葉遣いをしているし、何が何やら。
 私は少しパニック状態に陥り、彼の綺麗な顔を見つめていた。

「えっと、ニケ……様。本当はあなたは何者なのですか? 村人というには、あまりにも佇まいが……」
「私は本当にただの村人だよ。それ以上でもそれ以下でもない。この村の住人だ。もし納得いかないというのなら、他の村人に話を聞いてくれればいい。皆私のことを良く知っているからね」
「…………」

 嘘を言っているようには見えない。
 彼が言っていることは真実なのだろう。
 だけどまだ何か秘密はある。
 そんな予感というか確信めいたものを私は感じていた。

「あなたはミルコ様の婚約者という話だけど……あの人はどんな方ですか?」
「え、えーっと……素晴らしい方でございます」

 ミルコ様の悪口はさすがに言えない。
 次期国王のことを悪く言うなんて……目の前には騎士団の方がいるというのに。

 するとニケ様はクスクスと笑い出す。

「気を使わなくてもいいですよ。ここにいるクレス様も私もあなたの味方だし、ここで話す内容がミルコ様の耳に届くわけでもありませんから」
「ニケ様……私のことは呼び捨てで」
「いえ。まだ・・私はただの村人ですから」
「はぁ……」

 二人がどういった関係か分からない。
 クレス様よりもニケ様の方が身分が高そうな話かた。
 だけどニケ様はそれを否定している様子。
 なら、私はどんな態度で接すればいいのだろうか。

 そんな私の様子に気づいたのか、ニケ様はニコッと笑いかけてくれる。
 私はその笑顔に安堵しながらも、少し戸惑い続けていた。
 
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