婚約破棄で構いませんが国は頂戴いたします。

亜綺羅もも

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 城を出てホッとため息をつくと、解放感が一気に押し寄せる。
 これで私は自由だ。
 ミルコ様に怯えることなく、平穏な日々を過ごすことができる。

 心の中ではしゃぎつつ、澄ました態度で歩く私。
 どんな時でも慎ましさは忘れてはいけない。
 後は馬車に乗り、家に戻るだけ。
 今日はゆっくり眠ることが出来そう。
 
 だがそんな風に考える私に、一人の騎士の方が声をかけてきた。

「ローザ嬢。少しお時間をいただいてよろしいでしょうか?」
「はい? ええ、構いませんが……」

 私に声をかけて来たのは、青い髪の美青年。
 クールな見た目と少し低めの声。 
 女性から人気があるだろうな、というのが私の第一印象であった。

「私はクレス。亡き王から騎士団を任されております」
「はぁ……それで、お話というのは?」
「…………」

 クレス様は周囲を見渡しながら小さな声でつぶやく。

「……私と一緒に行ってほしい場所があるのです」
「行ってほしい場所? それはどこですか?」
「今はまだ言えません……ですがこれは、この国の将来を左右するほどに大きな問題なのでございます」
「国を……」

 それほど大きな話に私なんか関係あるのかしら?
 だけどクレス様は冗談を言ってるような様子はない。
 何かしら事情があるのだろう。

 私は彼と同じように真剣な顔で返事をする。

「分かりました。行きましょう」
「ありがとうございます。ローザ様」

 安堵したのか、少し口角を上げるクレス様。
 私は逆に少し緊張し、彼と共に馬車に乗り込んだ。

 馬車は私の住む町とは真逆の方角に進んで行く。
 道中クレス様は一言も発さなかった。
 無言のままで馬車は走り続ける。
 少し気まずさを感じる私であったが、窓の外に視線を向けて誤魔化していた。

「そろそろ到着いたします」

 馬車が止まったのは、城から遠く離れた小さな村であった。
 木造の建物がいくつも並ぶ、何の変哲もない村。

 こんな場所に何があるのかしら……?
 私は静かに歩き出したクレス様の後ろをただ素直について行く。

 村の奥の方に一軒の家があり、クレス様はその家の戸をノックする。

「失礼します」

 周囲の家と何ら変わり映えしない普通の家。
 クレス様は戸を開け、中へと入る。
 中も別段変わった様子のない狭い作り。
 しかし、そこにいた男性の姿を見て私は驚愕する。

 赤い髪に綺麗な碧眼の持ち主……
 そこにいたのは、ミルコ様であった。

「その方は?」
「え?」

 しかし、彼は私のことを知らない様子だった。
 ミルコ様と同じ声で、優しく尋ねる彼。
 これは一体……どういうことなのかしら?
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