没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも

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 気持ちのいい天気の朝。
 キラ様に会えることが楽しみと思っている自分がいる。
 ワクワクした気分で学校へと向かう。

 教室に入ると彼は既に登校していて、私に笑顔で手を振ってくれる。
 私は彼に小さく手を振り返し、席に着く。

「あの人と仲がいいの?」
「ええ、まぁ」

 マリナ様が微笑を浮かべながら私にそう訊ねてきた。
 私はほんのり紅潮させて彼女に答える。

「そう。いい人なのね」

 マリナ様は慈愛に満ちた瞳で私を見つめる。
 彼女がこの学校に来てからいいことばかりだ。
 本当に良かった。
 マリナ様が来てくれて。
 これからは穏やか気分で過ごしていけそう。

 それは、そう考えた矢先のことであった。

 午後からの授業にキラ様が現れない。
 何かあったのだろうか。

 私は嫌な予感がし、落ち着かない気持ちで授業を受けていた。
 授業が終わってもキラ様は教室に顔を出さなかった。
 いったい何故?
 その理由を聞きたいのに、彼は姿を見せない。
 どうしようもない私は、その日はそのまま帰宅することにした。

 だが翌日のこと。

「キラ様……昨日はどういたしたのですか?」
「ああ……」

 彼は暗い表情で俯きながら、ゆっくりと答えた。

「ハルベルトに、骨を折られた者がいる」
「…………」
 
 ハルベルト様……
 彼は、まだ暴力を振るっていたのだ。
 マリナ様の目から逃れて、人に痛みを与え続けているのだ。

「私がもう少し早く決断できていれば……」
「それは……私もですわ」
「え?」
 
 私は怒りの寛恕のまま教室を飛び出した。

 許せない。
 もう許すことができない。

 学校の庭で私は怒りに震えていた。
 すると飛び出す私を見ていたのか、ルイーナ様がここにやって来たようだ。

「あらぁ? 今日は一人みたいね、ティファ」
「……ルイーナ様」

 彼女は数人の学友を引き連れて私を取り囲む。
 ようやく巡って来たチャンス。
 そのように考えているのだろう。

 私はこれから彼女に酷い目に遭わされるのだ。

「…………」

 しかし、それは少し前までの私だったらだ。
 今は違う。
 もう違う。
 私は決めたのだ。

 家のしきたりを無視し、裁かなければいけないことができたから。

「ティファ……もういいのかしら?」
「マリナ様……」

 私たちのもとに近づて来るマリナ様。
 彼女は私の顔つきを見て、決断したことを察したのだろう。
 これから私がしようとしていることを把握している。

 マリナ様の登場に驚くルイーナ様たち。
 私はマリナ様に頷く。
 するとマリナ様はルイーナ様たちに告げる。

 私の真実を。

「貴方たち、彼女に手を出しても構いまないけれど……どうなってもしらないわよ」
「マ、マリナ様がお許しになりませんか?」
「いいえ。私はもう彼女の代わりになる必要はない。だって彼女は――ティファ・ロードサファル。この国の王女なのだから」
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