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ヴィクトール様と朝食を取ることにした。
彼は上品に食事をする。
食べている間は話すことはない。
だけど私の視線に気づくと、ニコリと微笑みかけてくれる。
ジュリアン様は食事の時も騒がしかった……はず。
なんだか頭に靄がかかっていて、ハッキリと思い出せないが……食べながら話をするものだから、ベチャクチャとうるさかった、そんな記憶がぼんやりとある。
彼と比べるつもりはないが、こんな穏やかな食事もいいと思う。
私も黙って食事をし、ヴィクトール様との静かな時間を楽しんだ。
それはとても幸せだったと思う。
ずっと寂しい結婚生活をしていたから……
していたと思うから。
「…………」
「どうしたんだ?」
食事を終え、結婚生活のことを思い出そうとしていた私。
私が呆然としているのが気になったのか、ヴィクトール様は綺麗なお顔で私の顔を覗き込んでくる。
まるで氷のように、私の中にある記憶が徐々に溶けていく。
過去に戻った影響なのか、これより未来にあった記憶が無くなっていく。
悲しいわけじゃないけど、変な気分。
「……なんでもありません。それより、少し外を散歩しませんか?」
「ああ。構わないよ」
ヴィクトール様と屋敷を出て、町の方へと向かう。
そこは活気あふれる町で、ヴィクトール様は領民たちに慕われているのか、皆が彼に駆け寄って来る。
「ヴィクトール様が店を直してくれたおかげで、これからも続けられそうだよ!」
「これ持っていってください、ヴィクトール様!」
ヴィクトール様はここに帰って来てから日が浅いようだが、皆のためによく動いているようで、尊敬の眼差しを彼に向けている。
ヴィクトール様は優しい視線を、皆に送り返していた。
「すまない、モニカ」
「何がでございますか?」
「本来なら君を自宅へと送ってやりたいのだけど、少し問題があってね」
「いいえ。ヴィクトール様の素敵な一面を知れて、楽しいですよ」
「……そうか」
眩しそうに眼を細めて笑うヴィクトール様。
本当に人のできたお方なんだ。
私は感激し、胸を熱くさせていた。
「ヴィクトール様。いつもありがとう」
「シフォン。母親の調子はどうだ?」
「!!」
ヴィクトール様に話しかける人々の中に、なんとシフォンの姿があった。
あの頃より三年前……だから、現在は十二歳のシフォンが目の前にいる。
まさか、ヴィクトール様のお知り合いだったなんて。
「……お姉ちゃん、どうしたの?」
「……いいえ。知り合いに似ていたから」
「そう」
いつものように抑揚のない声。
やはり私の知っているシフォンのようだ。
彼は上品に食事をする。
食べている間は話すことはない。
だけど私の視線に気づくと、ニコリと微笑みかけてくれる。
ジュリアン様は食事の時も騒がしかった……はず。
なんだか頭に靄がかかっていて、ハッキリと思い出せないが……食べながら話をするものだから、ベチャクチャとうるさかった、そんな記憶がぼんやりとある。
彼と比べるつもりはないが、こんな穏やかな食事もいいと思う。
私も黙って食事をし、ヴィクトール様との静かな時間を楽しんだ。
それはとても幸せだったと思う。
ずっと寂しい結婚生活をしていたから……
していたと思うから。
「…………」
「どうしたんだ?」
食事を終え、結婚生活のことを思い出そうとしていた私。
私が呆然としているのが気になったのか、ヴィクトール様は綺麗なお顔で私の顔を覗き込んでくる。
まるで氷のように、私の中にある記憶が徐々に溶けていく。
過去に戻った影響なのか、これより未来にあった記憶が無くなっていく。
悲しいわけじゃないけど、変な気分。
「……なんでもありません。それより、少し外を散歩しませんか?」
「ああ。構わないよ」
ヴィクトール様と屋敷を出て、町の方へと向かう。
そこは活気あふれる町で、ヴィクトール様は領民たちに慕われているのか、皆が彼に駆け寄って来る。
「ヴィクトール様が店を直してくれたおかげで、これからも続けられそうだよ!」
「これ持っていってください、ヴィクトール様!」
ヴィクトール様はここに帰って来てから日が浅いようだが、皆のためによく動いているようで、尊敬の眼差しを彼に向けている。
ヴィクトール様は優しい視線を、皆に送り返していた。
「すまない、モニカ」
「何がでございますか?」
「本来なら君を自宅へと送ってやりたいのだけど、少し問題があってね」
「いいえ。ヴィクトール様の素敵な一面を知れて、楽しいですよ」
「……そうか」
眩しそうに眼を細めて笑うヴィクトール様。
本当に人のできたお方なんだ。
私は感激し、胸を熱くさせていた。
「ヴィクトール様。いつもありがとう」
「シフォン。母親の調子はどうだ?」
「!!」
ヴィクトール様に話しかける人々の中に、なんとシフォンの姿があった。
あの頃より三年前……だから、現在は十二歳のシフォンが目の前にいる。
まさか、ヴィクトール様のお知り合いだったなんて。
「……お姉ちゃん、どうしたの?」
「……いいえ。知り合いに似ていたから」
「そう」
いつものように抑揚のない声。
やはり私の知っているシフォンのようだ。
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