妹に醜くなったと婚約者を押し付けられたのに、今さら返せと言われても

亜綺羅もも

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 実家で家族殺されていた。
 そんな訃報を聞いたのは、事件があった数日後のこと。

 家族とは辛い記憶しかない。
 私は少し心を痛めたが……皆には天罰が下ったのだと考える。
 犯人は4名の男性で、金目当てで屋敷に忍び込んだ強盗とのこと。
 家族を殺したことに関しては、勢い余ってやってしまったようだ。
 既に彼らは捕まっており、事件はあっさり解決したと連絡があった。

 ヴァン様は震える私を心配するように抱きしめてくれる。

「クリス……」
「大丈夫です。少し悲しい気持ちもありますが、ずっと辛い目に遭ってきましたから。解放されたと感じているのが正直なところです」
「そうか……これからは私が君の家族となり君を幸せにする。だからずっと私の傍にいてくれ、クリス」
「ヴァン様も、私の傍にいてください……」


 ◇◇◇◇◇◇◇


 月日は流れ、穏やかな日々を過ごす私たちは孫に囲まれていた。

 本当に幸せな日々だった……辛かった実家でのことなど夢のよう。
 私はヴァン様に愛され、そしてヴァン様を愛した。

 しわが多くなり、しかしそれでも品性を感じるヴァン様の笑み。
 彼は老人となった私を今でも愛してくれている。

「君と出逢えて本当に良かった。他の誰でもない、君だったからこんなに幸せな毎日を送れているのだと思う」
「私もでございます。あなたがいたからこそ幸せなのです」

 孫たちが楽しそうに庭の花を手入れしている。
 分からないことがあるらしく、私に訊きに来る孫。
 私は愛情を込めて、孫たちに伝える。

「お花を育てるのは愛情が必要ですよ。それは人との付き合いも同じ。愛を持って接すれば、きっと心の花が開く。だから皆、愛を忘れないでちょうだい。愛があれば、他には何もいらないのだから」

 ヴァン様が私の手を握る。
 私は彼に方を見て、にっこりと微笑みかけた。

「君は愛情に満ちていたから輝いて見えたのだな。一目見た瞬間から、君に惹かれた理由が分かった気がするよ」
「そんな風に言ってもらえて嬉しいですわ。あなたに選んでもらえたというだけで、そうしてきた甲斐があったというものです」

 細くなったヴァン様の胸に頭を預ける。
 ヴァン様はしわくちゃになった手で私の頭を撫でてくれた。

「体はこんなにもよぼよぼになってしまったけれど、君への気持ちは今も変わっていない。これまでも、そしてこれからも愛しているよ」
「私もお慕いしております、ヴァン様」

 無邪気に花の世話をしている孫たち。
 私たちは目を細めて、自分たちの宝物を見つめ続け、全身に幸せを感じていた。

 おわり

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感想 96

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みんなの感想(96件)

彩斗
2021.06.24 彩斗
ネタバレ含む
解除
ゆうちゃん
2021.06.24 ゆうちゃん
ネタバレ含む
亜綺羅もも
2021.06.25 亜綺羅もも

ゆうちゃんさん、感想ありがとうございます。
家族のいないもう後がない者を利用して罪を背負わせている、といったイメージです。
どうしようもない連中を身代わりにしたというわけですね。

解除
セライア(seraia)
ネタバレ含む
解除

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