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「お姉様の分際で……お姉様の分際で!」
夜の馬車の中で怒り狂うエル。
自分を選ばなかったヴァンよりも、彼に選ばれたクリスに腹を立てていた。
何故私が選ばれなかったのか。
何故私よりも姉を選んだのか。
いまだにそれが理解できず、怒りを姉に向けるだけ。
親指を爪を噛み、空に浮かぶ月を睨み付ける。
昨日は綺麗に思えていた月が、腹立たしい。
エルはさらに怒りを募らせる。
屋敷に到着し、馬車を降りるも誰もエルを出迎えなかった。
怪訝に思うよりも、怒りを覚えるエル。
イライラしたまま、屋敷の扉を開ける。
「ちょっと誰も出向けないなんてどういうこと……」
怒鳴り散らそうと思っていたエルであったが、屋敷の様子に唖然とする。
中は真っ暗で、人の気配がしない。
「…………」
何が起こったのだろう。
ゴクリと息を呑み、屋敷へと足を踏み入れるエル。
すると、血の匂いが彼女の鼻孔に飛び込んでくる。
「……お父様?」
返事はない。
恐る恐る奥へと歩んでいくエル。
すると、廊下に二人の人物が寝そべっている姿が目に入る。
「……お父様、お母さま!」
二人は静かに倒れている。
意識のない二人に視線を向けるエルはガタガタ震えながら、後ずさりする。
するとエルはドンッと何かにぶつかり、後ろを振り向く。
「……ルード様?」
「……君が全部悪いんだよ」
そこにいたのはルード。
この暗闇、この状況に似つかわしくない笑みを浮かべている。
今まで何度も見てきた笑顔。
だがそれが今はとてつもなく恐ろしい。
エルは涙を浮かべながらルードと距離を取る。
「な、なぜルード様がここに?」
「君を迎えに来たんだよ」
「む、迎えにって……どういう――」
突如、エルの意識は途切れてしまう。
背後から何者かが、彼女の意識を刈り取ってしまった。
エルはガクンと倒れ、その身体を愛おしそうにルードが抱きあげる。
「全部君が悪いんだよ……最初から私の物になってくれれば良かったのに」
意識を失ったエルに頬ずりをするルード。
そしてそのまま屋敷の外へと歩き出す。
屋敷に仕えていた者たちは全て気を失っており、誰もエルを助けには来ない。
ルードが屋敷を出ると、何者かがエルと同じぐらいの体型の女性の死体を庭に放り投げ、火を点ける。
燃える死体を眺めた後、ルードはエルを抱えたまま用意された馬車に乗り込む。
「これで君は死んだことになった。これからはずっと私と一緒だよ」
そしてエルたちを乗せた馬車は、闇の中へと消えて行くのであった……
夜の馬車の中で怒り狂うエル。
自分を選ばなかったヴァンよりも、彼に選ばれたクリスに腹を立てていた。
何故私が選ばれなかったのか。
何故私よりも姉を選んだのか。
いまだにそれが理解できず、怒りを姉に向けるだけ。
親指を爪を噛み、空に浮かぶ月を睨み付ける。
昨日は綺麗に思えていた月が、腹立たしい。
エルはさらに怒りを募らせる。
屋敷に到着し、馬車を降りるも誰もエルを出迎えなかった。
怪訝に思うよりも、怒りを覚えるエル。
イライラしたまま、屋敷の扉を開ける。
「ちょっと誰も出向けないなんてどういうこと……」
怒鳴り散らそうと思っていたエルであったが、屋敷の様子に唖然とする。
中は真っ暗で、人の気配がしない。
「…………」
何が起こったのだろう。
ゴクリと息を呑み、屋敷へと足を踏み入れるエル。
すると、血の匂いが彼女の鼻孔に飛び込んでくる。
「……お父様?」
返事はない。
恐る恐る奥へと歩んでいくエル。
すると、廊下に二人の人物が寝そべっている姿が目に入る。
「……お父様、お母さま!」
二人は静かに倒れている。
意識のない二人に視線を向けるエルはガタガタ震えながら、後ずさりする。
するとエルはドンッと何かにぶつかり、後ろを振り向く。
「……ルード様?」
「……君が全部悪いんだよ」
そこにいたのはルード。
この暗闇、この状況に似つかわしくない笑みを浮かべている。
今まで何度も見てきた笑顔。
だがそれが今はとてつもなく恐ろしい。
エルは涙を浮かべながらルードと距離を取る。
「な、なぜルード様がここに?」
「君を迎えに来たんだよ」
「む、迎えにって……どういう――」
突如、エルの意識は途切れてしまう。
背後から何者かが、彼女の意識を刈り取ってしまった。
エルはガクンと倒れ、その身体を愛おしそうにルードが抱きあげる。
「全部君が悪いんだよ……最初から私の物になってくれれば良かったのに」
意識を失ったエルに頬ずりをするルード。
そしてそのまま屋敷の外へと歩き出す。
屋敷に仕えていた者たちは全て気を失っており、誰もエルを助けには来ない。
ルードが屋敷を出ると、何者かがエルと同じぐらいの体型の女性の死体を庭に放り投げ、火を点ける。
燃える死体を眺めた後、ルードはエルを抱えたまま用意された馬車に乗り込む。
「これで君は死んだことになった。これからはずっと私と一緒だよ」
そしてエルたちを乗せた馬車は、闇の中へと消えて行くのであった……
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