妹に醜くなったと婚約者を押し付けられたのに、今さら返せと言われても

亜綺羅もも

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「君からは誠実さを感じなかった……だから君を試したのだ。火傷を負ったとしても私を想ってくれるか。だが君は平気で私は捨てた。そしてザイードを選んだ」
「ち、違います……ザイード様とはそんな関係では……」
「ですが、ヴァン様とはクリスティーナ様が結婚するとお話していらしたではありませんか」

 ザイードの言葉にエルが戸惑う。
 どう言い訳をするのか思案している。
 だがもうすでに遅いようだ。
 ヴァン様は完全にエルを見限っている。
 それは最初からだったのだろうが、私や屋敷の者たちに見せたことないような、冷酷な視線をエルに向けているのを見て、私はヴァン様の気持ちを再確認していた。

「これほど素晴らしい人を裏切ったのはあなたよ、エル。外見だけではなく、心が素敵な人だというのに……あなたは見た目と経済状況だけを気にして」
「気にしてなにが悪いのよ! お姉様だってヴァン様の家柄に惹かれて――」
「それは違う。彼女は私の内面に向き合い、そして私を選んでくれた。君は違うのだよ。君の考えでは、クリスの綺麗な心を感じ取ることなどできはしない」
「くっ……」

 とうとうエルは、私に飛び掛かろうとした。
 怒りのままに私に暴力を振るうつもりだ。
 
 私は身を縮こまらせ、ギュッと目をつむる。

「…………」

 だが、エルが私に触れることはなかった。
 ヴァン様とザイードがエルの体を制している。

「放せ! こいつは叩かないと分からないんだから!」
「叩かないと分からないのは君の方だ。それを私が教えてやろうか?」
「ひっ!」

 ヴァン様は先ほどよりもさらに鋭い視線をエルに向ける。
 その迫力に顔面蒼白となるエル。

 そして踵を返し、ヨロヨロと玄関の方へと向かって行く。

「わ、私諦めませんから! そんな女より私の方が絶対いいに決まってる!」
「分かったからもう消えろ。そしてもう私の前に顔を出すな」
「……また来ますから!」

 屋敷から出て行くエル。
 私は安堵のため息をつき、ヴァン様は嘆息する。

「また来ても私が追い返す。クリスはもう家族のことを考えなくてもいい。ここで私と幸せに暮らしていけばいい」
「……はい」

 ヴァン様は私の身体を抱きしめる。
 私は幸福感を覚えながら、そっと目を閉じた。

 不安など一切ない。
 完璧で幸せな時間が訪れる。
 私はそう確信し、ヴァン様の胸に抱かれていた。

 彼も同じことを思っているのだろう。
 愛おしいそうに私を抱いてくれている。

 私は何者に脅かされることなく、ここで幸せに暮らしていくのだ。
 きっとそうなるに違いない。
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