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「こ、婚約……破棄?」
「ああ、そうだ。君との婚約は破棄し、私はクリスと婚約をする。だから君はこのまま帰ってくれ」
「…………」
私はエルの呆けている顔を見て、少し恐怖心を抱いていた。
だってずっと彼女には辛い目に遭わされてきたから。
エルの性格から考えれば、何が何でもヴァン様を手に入れようとするはず。
私はそんなエルに従ってきた。
そうするしかなかったからだ。
今も心が恐怖を覚えている。
逆らうなと叫んでいるのだ。
少し震える身体。
だがヴァン様が私の肩を抱き寄せ、耳元で囁いてくれる。
「大丈夫だ。クリスのことは私が守る。君はそこで見ていてくれればいい」
「ヴァン様……」
ヴァン様の温もりと香りに、安心感を覚える。
この人の傍にいれば大丈夫だ。
きっと彼が私の心を守ってくれる。
私は安堵し、エルの方に視線を戻す。
するとここでようやく話を飲み込んだエルが、怒声を放ち出した。
「婚約破棄だなんて、絶対に認めません! 私は絶対あなたと結婚しますから!」
「君の考えは分かっている。火傷がないと知って、ここに来たのだろう?」
「違います! そういうタイミングではありましたが、どちらにしても今日来る予定でした! あなたは私の婚約者なのですよ? 火傷なんて関係ありませんわ」
「そうか? だが、私がクリスと結婚すると話をしていたのではないのか?」
「だ、誰にそんなことを言うと?」
「ザイード」
「!!」
エルの顔が真っ青になる。
そして上ずった声で、会話を続けた。
「ザ、ザイード様のことをご存じなのですか?」
「ああ。彼は私の部下だからね」
すると、屋敷の奥から一人の男性が姿を現せる。
彼のことを私は知っている……この屋敷に仕えている執事の方だ。
「デロニアス嬢。この間はお世話になりました」
「……私を騙していたの!?」
「騙す……とは、なんのことでしょう? 私はただヴァン様の頼みで、あなたと話をしただけでしたが……」
ギリギリ歯を噛みしめるエル。
青かった顔を怒りで真っ赤に染め、そして私を睨む付ける。
「この男のことはもうどうでもいい! お姉様! 今すぐヴァン様に婚約の話を断ってください! お姉様がいなくなれば、全部上手くいくのですから!」
「君がいなくなった方が全部上手くいく。帰るのは君の方だ、エルリーン・デロリアス。クリスはもうデロニアス家には帰らない。ここで生涯、私と暮らしていくのだからな」
「…………」
エルは額に青筋を立てて、私たちを睨む付けていた。
ヴァン様はそんなエルに、ゴミでも見るような視線を向けている。
「ああ、そうだ。君との婚約は破棄し、私はクリスと婚約をする。だから君はこのまま帰ってくれ」
「…………」
私はエルの呆けている顔を見て、少し恐怖心を抱いていた。
だってずっと彼女には辛い目に遭わされてきたから。
エルの性格から考えれば、何が何でもヴァン様を手に入れようとするはず。
私はそんなエルに従ってきた。
そうするしかなかったからだ。
今も心が恐怖を覚えている。
逆らうなと叫んでいるのだ。
少し震える身体。
だがヴァン様が私の肩を抱き寄せ、耳元で囁いてくれる。
「大丈夫だ。クリスのことは私が守る。君はそこで見ていてくれればいい」
「ヴァン様……」
ヴァン様の温もりと香りに、安心感を覚える。
この人の傍にいれば大丈夫だ。
きっと彼が私の心を守ってくれる。
私は安堵し、エルの方に視線を戻す。
するとここでようやく話を飲み込んだエルが、怒声を放ち出した。
「婚約破棄だなんて、絶対に認めません! 私は絶対あなたと結婚しますから!」
「君の考えは分かっている。火傷がないと知って、ここに来たのだろう?」
「違います! そういうタイミングではありましたが、どちらにしても今日来る予定でした! あなたは私の婚約者なのですよ? 火傷なんて関係ありませんわ」
「そうか? だが、私がクリスと結婚すると話をしていたのではないのか?」
「だ、誰にそんなことを言うと?」
「ザイード」
「!!」
エルの顔が真っ青になる。
そして上ずった声で、会話を続けた。
「ザ、ザイード様のことをご存じなのですか?」
「ああ。彼は私の部下だからね」
すると、屋敷の奥から一人の男性が姿を現せる。
彼のことを私は知っている……この屋敷に仕えている執事の方だ。
「デロニアス嬢。この間はお世話になりました」
「……私を騙していたの!?」
「騙す……とは、なんのことでしょう? 私はただヴァン様の頼みで、あなたと話をしただけでしたが……」
ギリギリ歯を噛みしめるエル。
青かった顔を怒りで真っ赤に染め、そして私を睨む付ける。
「この男のことはもうどうでもいい! お姉様! 今すぐヴァン様に婚約の話を断ってください! お姉様がいなくなれば、全部上手くいくのですから!」
「君がいなくなった方が全部上手くいく。帰るのは君の方だ、エルリーン・デロリアス。クリスはもうデロニアス家には帰らない。ここで生涯、私と暮らしていくのだからな」
「…………」
エルは額に青筋を立てて、私たちを睨む付けていた。
ヴァン様はそんなエルに、ゴミでも見るような視線を向けている。
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