妹に醜くなったと婚約者を押し付けられたのに、今さら返せと言われても

亜綺羅もも

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 それはお昼過ぎのこと。
 玄関の方がやけに騒がしく、私は庭から様子を見に行く。

「……エル」

 どうやらエルがこの屋敷にやって来たようで、屋敷の方と言い合いをしていた。

「早くヴァン様を呼んでくださいな! 婚約者が来たと伝えてください!」
「エルリーン様はヴァン様を見限ったのではないのですか?」
「見限る? なんのことかしら? 私たちの婚約関係は継続したままです。私が彼を捨てるわけないでしょう」

 するとエルは私の姿に気づき、ニヤリと笑いこちらを見る。

「お姉様。帰る支度をしておいてください。もうあの件は結構ですので」
「結構……? 何が結構なの?」
「ほらほら、あの話ですよ」

 エルは目の前にいる人の制止を振り切り、私の前まで駆けてくる。
 そして耳元で卑しく囁く。

「ヴァン様、火傷はないようですね。だからヴァン様とは私が結婚いたしますので、お姉様はお帰りください」
「いや……だけどもうヴァン様は私を選んでくださっていて……」
「だったら、返してください!」

 エルはニコニコ笑いながらそう言った。
 まるで純粋な子供が、貸した人形を返せとでも言うように。
 さも当然のように。
 それが当たり前のように。

 私は呆れながら、口を開く。

「あの……今更返せと言われても、遅いのですが」
「遅い? そんなことないですわ。ヴァン様は私を待って――」
「誰が誰を待っているだと?」

 ヴァン様が屋敷の奥から歩いてきて、エルに軽蔑するような視線を向けている。
 そんなヴァン様の言葉が耳に届いていないのか、エルはパーッと笑顔を見せた。

「ヴァン様! よかった。噂通り、火傷はしていなかったんですね」
「ああ……」

 ギロリとエルを睨むヴァン様。
 エルはそんな視線の意味も理解できずに、笑っているだけ。
 ヴァン様は私の隣に立ち、私の肩を抱く。

「……あの、ヴァン様? 私が来たというのに、何故お姉様の肩を?」
「何故? そんなの決まっているだろう。自分の妻となる女性の肩を抱くのなんて」
「……な、何を仰っているのですか。ああ。私が少しの間来なかったことに拗ねていらっしゃるのですね。もう心配しなくとも、私はずっとあなたのそばにいますので――」
「ハッキリ言っておく。私は君に好意など抱いていない。最初から君の腹黒さを感じていたからな」

 ポカンとするエル。
 そんなエルに、ヴァン様は力強い口調で言い放つ。

「エルリーン・デロリアス。君との婚約は破棄させてもらう」
「……は?」
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