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ザイードと出逢って数日が経過した頃、エルは自宅でとある噂を耳にする。
「……ヴァン様が火傷をしていない!?」
「はい。そんな噂を聞きました」
侍女の口から聞いたヴァンの火傷の話。
もしそれが本当なら……ザイードみたいな男のところに嫁ぐ必要はない。
火傷の件がなければ、ヴァンはこれ以上ない男なのだから。
「でも、何故火傷をしたなどとそんな嘘を……」
理由は分からない。
だがそんなこと関係ないと開き直るエル。
彼が万全なら、彼を選ばない選択はない。
姉を少しばかりあてがっただけなのだから、今から行って取り返せばいいだけの話だ。
あんな程度の低い女、もし上手くやってたとしても一瞬で取り戻してみせる。
私から見れば姉様なんてそんなものだ。
彼女をボロボロの小屋としたら私は豪華な城。
私を選ばない理由はない。
ヴァン様もきっと私のことを想い続けているはずだわ。
姉様を送り届けたことを、きっと今頃は悲しんでいるはず。
エルはクスクスと笑い、窓を開けて空を見上げる。
外は真っ暗で、月がポツンと一つ浮かんでいた。
あの月はヴァン様。
私がいない、闇という中で輝きを放っている。
すぐに私が参り、あなたの世界を輝き溢れるものにいたします。
もう少しだけお待ちください、ヴァン様。
明日にでもヴァンに屋敷に向かおうと考えるエル。
すぐにベッドで横になり、ぐっすりと眠りについた。
翌朝。
両親に話をし、馬車の用意をさせるエル。
「そうかそうか。それならば今すぐに行っておいで。クリスにはすぐ戻るように言ってくれればいい」
「ヴァン様にお似合いなのはあなた。クリスなんかでは勿体ないと思っていたところだわ」
「お母様もそう思います? そうですよね。お姉様には荷が重すぎますわよね」
ニヤニヤ笑いながら顔を合わせるエルと両親。
エルならヴァンと上手くいくと確信でもしているのだろう。
彼の気持ちを知らないままに。
すでに手遅れなことを知らないままに。
もうどうしようもないことを知らないままに。
「では、行ってまいります」
「ええ、気をつけてね」
馬車に乗り込むエル。
両親は笑顔でエルのことを送り出す。
「…………」
そんな彼女たちを物陰から監視している男たちの姿があった。
彼らは殺し屋のような瞳をしており、禍々しい空気をかもしだしている。
「いやぁ、ヴァン様が何もなくてよかったよかった」
「一時はどうなるかと思いましたが、これで全て上手くいきそうですわね」
背後に迫る闇に気づかないまま、両親は走る馬車を見つめ続けていた。
「……ヴァン様が火傷をしていない!?」
「はい。そんな噂を聞きました」
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もしそれが本当なら……ザイードみたいな男のところに嫁ぐ必要はない。
火傷の件がなければ、ヴァンはこれ以上ない男なのだから。
「でも、何故火傷をしたなどとそんな嘘を……」
理由は分からない。
だがそんなこと関係ないと開き直るエル。
彼が万全なら、彼を選ばない選択はない。
姉を少しばかりあてがっただけなのだから、今から行って取り返せばいいだけの話だ。
あんな程度の低い女、もし上手くやってたとしても一瞬で取り戻してみせる。
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エルはクスクスと笑い、窓を開けて空を見上げる。
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すぐに私が参り、あなたの世界を輝き溢れるものにいたします。
もう少しだけお待ちください、ヴァン様。
明日にでもヴァンに屋敷に向かおうと考えるエル。
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「そうかそうか。それならば今すぐに行っておいで。クリスにはすぐ戻るように言ってくれればいい」
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「では、行ってまいります」
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「…………」
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「いやぁ、ヴァン様が何もなくてよかったよかった」
「一時はどうなるかと思いましたが、これで全て上手くいきそうですわね」
背後に迫る闇に気づかないまま、両親は走る馬車を見つめ続けていた。
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