13 / 18
13
しおりを挟む
ザイードと出逢って数日が経過した頃、エルは自宅でとある噂を耳にする。
「……ヴァン様が火傷をしていない!?」
「はい。そんな噂を聞きました」
侍女の口から聞いたヴァンの火傷の話。
もしそれが本当なら……ザイードみたいな男のところに嫁ぐ必要はない。
火傷の件がなければ、ヴァンはこれ以上ない男なのだから。
「でも、何故火傷をしたなどとそんな嘘を……」
理由は分からない。
だがそんなこと関係ないと開き直るエル。
彼が万全なら、彼を選ばない選択はない。
姉を少しばかりあてがっただけなのだから、今から行って取り返せばいいだけの話だ。
あんな程度の低い女、もし上手くやってたとしても一瞬で取り戻してみせる。
私から見れば姉様なんてそんなものだ。
彼女をボロボロの小屋としたら私は豪華な城。
私を選ばない理由はない。
ヴァン様もきっと私のことを想い続けているはずだわ。
姉様を送り届けたことを、きっと今頃は悲しんでいるはず。
エルはクスクスと笑い、窓を開けて空を見上げる。
外は真っ暗で、月がポツンと一つ浮かんでいた。
あの月はヴァン様。
私がいない、闇という中で輝きを放っている。
すぐに私が参り、あなたの世界を輝き溢れるものにいたします。
もう少しだけお待ちください、ヴァン様。
明日にでもヴァンに屋敷に向かおうと考えるエル。
すぐにベッドで横になり、ぐっすりと眠りについた。
翌朝。
両親に話をし、馬車の用意をさせるエル。
「そうかそうか。それならば今すぐに行っておいで。クリスにはすぐ戻るように言ってくれればいい」
「ヴァン様にお似合いなのはあなた。クリスなんかでは勿体ないと思っていたところだわ」
「お母様もそう思います? そうですよね。お姉様には荷が重すぎますわよね」
ニヤニヤ笑いながら顔を合わせるエルと両親。
エルならヴァンと上手くいくと確信でもしているのだろう。
彼の気持ちを知らないままに。
すでに手遅れなことを知らないままに。
もうどうしようもないことを知らないままに。
「では、行ってまいります」
「ええ、気をつけてね」
馬車に乗り込むエル。
両親は笑顔でエルのことを送り出す。
「…………」
そんな彼女たちを物陰から監視している男たちの姿があった。
彼らは殺し屋のような瞳をしており、禍々しい空気をかもしだしている。
「いやぁ、ヴァン様が何もなくてよかったよかった」
「一時はどうなるかと思いましたが、これで全て上手くいきそうですわね」
背後に迫る闇に気づかないまま、両親は走る馬車を見つめ続けていた。
「……ヴァン様が火傷をしていない!?」
「はい。そんな噂を聞きました」
侍女の口から聞いたヴァンの火傷の話。
もしそれが本当なら……ザイードみたいな男のところに嫁ぐ必要はない。
火傷の件がなければ、ヴァンはこれ以上ない男なのだから。
「でも、何故火傷をしたなどとそんな嘘を……」
理由は分からない。
だがそんなこと関係ないと開き直るエル。
彼が万全なら、彼を選ばない選択はない。
姉を少しばかりあてがっただけなのだから、今から行って取り返せばいいだけの話だ。
あんな程度の低い女、もし上手くやってたとしても一瞬で取り戻してみせる。
私から見れば姉様なんてそんなものだ。
彼女をボロボロの小屋としたら私は豪華な城。
私を選ばない理由はない。
ヴァン様もきっと私のことを想い続けているはずだわ。
姉様を送り届けたことを、きっと今頃は悲しんでいるはず。
エルはクスクスと笑い、窓を開けて空を見上げる。
外は真っ暗で、月がポツンと一つ浮かんでいた。
あの月はヴァン様。
私がいない、闇という中で輝きを放っている。
すぐに私が参り、あなたの世界を輝き溢れるものにいたします。
もう少しだけお待ちください、ヴァン様。
明日にでもヴァンに屋敷に向かおうと考えるエル。
すぐにベッドで横になり、ぐっすりと眠りについた。
翌朝。
両親に話をし、馬車の用意をさせるエル。
「そうかそうか。それならば今すぐに行っておいで。クリスにはすぐ戻るように言ってくれればいい」
「ヴァン様にお似合いなのはあなた。クリスなんかでは勿体ないと思っていたところだわ」
「お母様もそう思います? そうですよね。お姉様には荷が重すぎますわよね」
ニヤニヤ笑いながら顔を合わせるエルと両親。
エルならヴァンと上手くいくと確信でもしているのだろう。
彼の気持ちを知らないままに。
すでに手遅れなことを知らないままに。
もうどうしようもないことを知らないままに。
「では、行ってまいります」
「ええ、気をつけてね」
馬車に乗り込むエル。
両親は笑顔でエルのことを送り出す。
「…………」
そんな彼女たちを物陰から監視している男たちの姿があった。
彼らは殺し屋のような瞳をしており、禍々しい空気をかもしだしている。
「いやぁ、ヴァン様が何もなくてよかったよかった」
「一時はどうなるかと思いましたが、これで全て上手くいきそうですわね」
背後に迫る闇に気づかないまま、両親は走る馬車を見つめ続けていた。
24
お気に入りに追加
3,636
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。

【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】
青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。
婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。
そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。
それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。
ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。
*別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。
*約2万字の短編です。
*完結しています。
*11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。

侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい
花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。
ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。
あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…?
ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの??
そして婚約破棄はどうなるの???
ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
婚約破棄を、あなたのために
月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる