妹に醜くなったと婚約者を押し付けられたのに、今さら返せと言われても

亜綺羅もも

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 ヴァン様に求婚された翌日。
 彼の屋敷で目覚め、清々しい気持ちで太陽の日を浴びていた。

 まるで生まれ変わったような気分。
 こんなに世界が素晴らしいと思ったことはない。
 好きな人と想い合うというのは、こんなに素敵なことだったのね。

 窓を開け、新鮮な空気を吸い込む。
 そして庭へ出て、花壇の花の手入れを始める。

 実家にいた頃はエルにメチャクチャにされたけれど、ここでは敵はいない。
 皆優しく、手伝いをしてくれる人ばかり。
 前の家とは大違い。
 あっちは地獄でここは天国。
 私は鼻歌交じりで花に水をやっていた。

「クリス。また花の世話をしていたのか」

 ヴァン様が庭へとやって来る。
 その眩い笑顔に、私はクラクラと立ち眩みを覚えた。
 現実のはずなのだが、いまだ信じられない。
 この人が私を選んでくれただなんて。

 ドキドキしながら彼の方を向き、挨拶をする。

「おはようございます、ヴァン様。お花が好きなんです。前からずっとお世話はしていて……」
「そうか。だが、あまり花ばかりに時間を使うんじゃない」
「え?」
「花ばかりに時間をかけていたら、君と過ごす時間が少なくなってしまう。花に嫉妬をさせないでくれよ」

 苦笑いしながらそう言うヴァン様。
 その姿が可笑しく、私はクスクスと笑ってしまう。
 ヴァン様は私の隣に立ち、花の様子を見ている。

「綺麗に咲かせているな。君の心が綺麗な証拠だ」
「花を咲かただけでございます。心の綺麗さなんて、関係ありませんわ」
「そんなことないさ。花も育ててくれた人の心に応えるものだ。これだけ綺麗に咲くということは、やはり君の影響が大きいと思う」
「……そうでしょうか?」

 ヴァン様はコクリと頷く。

「ああ。私の心も癒してくれる。そんな心の持ち主だから、私もクリスに惹かれたのだろう」
「ヴァン様……」

 彼の言葉にポーッとする。
 その優しさが自分の心にしみる。
 
 この方も綺麗な心の持ち主なんだ。
 だからこそ、外見など関係なく、彼に惹かれたのだと思う。
 優しさが内から溢れ出ているのだ。

 本当に素晴らしいお方。
 この人を好きなったのは間違いない。
 私はそう確信していた。

「……ヴァン様。次はいつ、エルにお会いになるのですか? 婚約を破棄するにしても、一度は会わなければいけないのでしょう?」
「ああ……近々会う予定だ。その時は、クリスも付き合ってくれ」
「…………」

 正直妹には会いたくない。
 だけど、避けては通れない道であろう。

 不安はあるけれど、ヴァン様のお顔を見て勇気を奮い立たせる。
 大丈夫。
 ただヴァン様と上手くいったと報告をするだけなのだから。
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