妹に醜くなったと婚約者を押し付けられたのに、今さら返せと言われても

亜綺羅もも

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「エルリーン様……」

 パーティーが終わり、一人となったエルに話しかけるルード。
 ザイードはすでにいない。
 今度また会う約束だけをして、すでに帰ってしまったのだ。

 ルードはそれをしっかりと見届けてから、エルに話しかけた。
 相手に憎しみを抱きはしているものの、直接話をするほどの勇気は持っていない。
 しかしエルの事を諦めるつもりはない。
 男と話し合う勇気はないが、なけなしの勇気を引き出しエルに話しかけた。

「あの……あの方は?」
「あの方はザイード様。侯爵家のお方です」
「ザイード……聞いたことありませんね」
「隣国のお方らしいですわ。こちらにいらっしゃったのも初めてらしいです」
「ああ、なるほど……それで、エルリーン様は、あの方とどうなさるおつもりなのですか?」
「まだ正式に決めてはいませんが……婚約すると思います」
「…………」

 呆然とするルード。
 まさか、いきなり現れた男にエルリーンを奪われるとは。
 一気に悲しみが襲いかかり、肩を落とすルード。

 だが諦めきれないルードはエルの肩を掴み、彼女の瞳を覗き込んで言う。

「お願いです、エルリーン様! 私と婚約してください! 私の方が彼よりあなたを幸せにできます! ですから――」
「嫌です」
「え……」
「ルード様よりあらゆる面でザイード様の方が優れていますもの。あなたを選ぶ理由などありませんわ」

 もうキープとして置いておく必要もない。
 自分にはザイードという男性が見つかった。
 彼がいればルードなど必要ないだろう。
 そう判断したエルは、冷酷にもルードを切り捨てようとしていた。

 冷たい視線を向け、大きくため息をつく。

「それともルード様は、何か誇れるものがおありですか? 他の侯爵の方々より金があるだとか、武芸に優れているだとか……」
「わ、私は君を愛している。その気持ちだけは、誰にも負けるつもりはない!」
「気持ちだけで何ができるというのですか? 気持ちだけで私を幸せにできるだなんて、よく言えたものですわね」

 エルは鼻でルードを笑い、踵を返す。
 ルードは最後に彼女へ愛を叫ぶ。

「エルリーン様……私は本気であなたを愛しております!」
「そうですか。ですが私には応えることはできません。さようなら」

 コツコツとヒール音を立てて去って行くエル。
 そんな彼女の背中を絶望の眼差しで見つめるルード。

「…………」

 愛情と憎しみがルードの中で混在し、思考は黒いものへと変化していく

「……彼女は私の気持ちを弄んだのだな」

 涙を流しながらエルを見つめる視線は、静かに怒りに燃える。
 グツグツと怒りが煮えたぎり、ルードはいつしか片頬を吊り上げ、エルの背中を睨み付けていた。

「私は君を諦めない……どんな手を使おうとも君を手に入れてみせる」
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