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ヴァン様のお世話を始めると、彼のいいところがよく目につく。
食事の作法が完璧で、シャンとしていて姿勢はいつも正している。
屋敷に仕える者たちには優しさを持って接し、本をよく読み、博学なお方だ。
包帯の隙間から覗く目は最初は怖いと感じていたけれど……今は優しさに満ちた物だと気づく。
「クリス。一緒に食事をしようか」
「はい。喜んで」
ヴァン様は私にも優しい。
肩を貸すして差し上げると彼の匂いがして、私は不思議とときめきを覚えていた。
大火傷を負った見た目。
エルはこの見た目を気にしているようだが、そんなものが気にならないほどによくできた方だ。
彼に仕える人達からの人望も厚く、陰ではヴァン様のいい噂ばかりしているのをしている。
見た目だけでこんな方を捨てるなんて勿体ない。
エルはなんてバカな選択を……
この人と一緒になれば、絶対に幸せになれる。
私は彼の傍で、彼の人柄と他人に接する態度から、ひしひしとそう感じていた。
「クリスは、私の顔は気にならないのか?」
「気になりますわ」
「……そうか」
「はい。だって痛そうで……気の毒ですわ」
「え?」
ヴァン様は一瞬唖然とし、そして声を殺して笑いだす。
「な、何か変なことを言ってしまいましたか?」
「いいや……変だなんて……すごく面白かったんだ」
「や、やはり変なことを言っていましたのね」
ヴァン様は手を回している私の肩に、ギュッと力を入れる。
私は抱き寄せられる形となり、彼の胸に顔を埋めた。
「…………」
私の髪の匂いを嗅いでいるヴァン様。
心臓の辺りがギュウッとする。
汗をかき、顔が熱くなる。
汗をかいたことにより匂いがしないか心配で、私は彼の胸から離れ、歩くように促す。
「し、寝室に行きましょう。ヴァン様はおつかれのご様子ですし」
「疲れてなどいないのだがな」
苦笑いしているヴァン様。
これ以上ヴァン様と距離が縮まればおかしくなってしまう。
毎日毎日、彼のことが好きになっている。
怖い……絶対に私たちが上手くいくことはないから。
彼の婚約者はエルで……私が彼の心を奪うだなんて、不可能なのだから。
それとヴァン様に惹かれると同時に、彼を騙しているようで胸に痛みを感じていた。
やっぱりこんなことは間違っている。
でも彼の傍にいたい。
私は複雑な心境で、包帯に巻かれたその表情を見上げていた。
時が止まってくれればいいのに……
そうすれば、ずっと一緒にいられるというのに。
そんな叶うわけがない願いを、私は心の中で祈っていた。
食事の作法が完璧で、シャンとしていて姿勢はいつも正している。
屋敷に仕える者たちには優しさを持って接し、本をよく読み、博学なお方だ。
包帯の隙間から覗く目は最初は怖いと感じていたけれど……今は優しさに満ちた物だと気づく。
「クリス。一緒に食事をしようか」
「はい。喜んで」
ヴァン様は私にも優しい。
肩を貸すして差し上げると彼の匂いがして、私は不思議とときめきを覚えていた。
大火傷を負った見た目。
エルはこの見た目を気にしているようだが、そんなものが気にならないほどによくできた方だ。
彼に仕える人達からの人望も厚く、陰ではヴァン様のいい噂ばかりしているのをしている。
見た目だけでこんな方を捨てるなんて勿体ない。
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「え?」
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「な、何か変なことを言ってしまいましたか?」
「いいや……変だなんて……すごく面白かったんだ」
「や、やはり変なことを言っていましたのね」
ヴァン様は手を回している私の肩に、ギュッと力を入れる。
私は抱き寄せられる形となり、彼の胸に顔を埋めた。
「…………」
私の髪の匂いを嗅いでいるヴァン様。
心臓の辺りがギュウッとする。
汗をかき、顔が熱くなる。
汗をかいたことにより匂いがしないか心配で、私は彼の胸から離れ、歩くように促す。
「し、寝室に行きましょう。ヴァン様はおつかれのご様子ですし」
「疲れてなどいないのだがな」
苦笑いしているヴァン様。
これ以上ヴァン様と距離が縮まればおかしくなってしまう。
毎日毎日、彼のことが好きになっている。
怖い……絶対に私たちが上手くいくことはないから。
彼の婚約者はエルで……私が彼の心を奪うだなんて、不可能なのだから。
それとヴァン様に惹かれると同時に、彼を騙しているようで胸に痛みを感じていた。
やっぱりこんなことは間違っている。
でも彼の傍にいたい。
私は複雑な心境で、包帯に巻かれたその表情を見上げていた。
時が止まってくれればいいのに……
そうすれば、ずっと一緒にいられるというのに。
そんな叶うわけがない願いを、私は心の中で祈っていた。
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