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「む、無茶なことを言うな……相手は公爵で……無作法は絶対に許され――」
「そんなこと、私は知りませんわ。お父様がなんとかしてください」
「…………」
エルの我儘に困惑するお父様。
そんなお父様を無視し、エルは笑いながら私の方を見る。
「お姉様。ヴァン様にはお世話をする人が必要なようです。私に世話をしてくれと行ってきましたけど、お姉様が代わりに行ってきてくださいませ」
「わ、私が?」
「ええ。私の代わりにと言っておけば、向こうも一応は納得するでしょう。その間にヴァン様のハートを射止めてきてください。あれだけ弱っていれば、お姉様でも簡単に落とせると思います」
私は唖然とする。
そんなメチャクチャな話、上手くいきっこない。
だというのに、さも当然のように提案するエル。
しかも本気も本気のようだ。
助けを求めるようにお父様の方に視線を向けると、彼はスッと視線を逸らした。
妹には何も言えない両親。
自分でなんとかしろと、そう言いたいのだと思う。
私は大きくため息を吐き出す。
エルが騒ぎ出したら、結局両親もエルの言う通りに動き出すのだ。
遅かれ早かれ、私が妹の代わりにヴァンニール様の所に行くことになるだろう。
なら、もう行くことにしよう。
どうせ私には婚約者もいないのだから。
「お父様。エルの代わりに私が行きます」
◇◇◇◇◇◇◇
馬車に揺られ、ヴァンニール様のお屋敷に到着する。
私は屋敷の大きさにポカンとし、大きく口を開けて建物を見上げていた。
「どちら様でしょうか?」
屋敷から出て来た侍女の方が、私にそう訊ねてくる。
私は緊張しながら、彼女に答えた。
「私、クリスティーナ・デロニアスと申します。妹のエルリーンに代わり、ヴァンニール様のお世話をしに参りました」
「ああ……では屋敷の中でお待ちくださいませ」
意外とすんなり話を受け入れてしまう侍女。
代わりに来たなんて言われて、こんな風に通してしまうものなのだろうか。
彼女に促され、私は応接間に通されていた。
面積も広く、煌びやかな品々が置かれている。
我が家との差に、私は不安いっぱいになっていた。
こんな場所、場違いもいいところだわ。
やっぱりエルの言っていたことなんて、上手くわけがない。
私なんかが気に入られるわけがないのだから。
「お待たせした」
ギィッと開いた扉からやって来たのは、杖をつき、上半身に包帯を巻かれた男性であった。
包帯は頭の先まで巻かれており、その隙間からエメラルドグリーンの力強い瞳で私を見据えている。
私はゴクリと息を呑み、彼の瞳を見返していた。
「そんなこと、私は知りませんわ。お父様がなんとかしてください」
「…………」
エルの我儘に困惑するお父様。
そんなお父様を無視し、エルは笑いながら私の方を見る。
「お姉様。ヴァン様にはお世話をする人が必要なようです。私に世話をしてくれと行ってきましたけど、お姉様が代わりに行ってきてくださいませ」
「わ、私が?」
「ええ。私の代わりにと言っておけば、向こうも一応は納得するでしょう。その間にヴァン様のハートを射止めてきてください。あれだけ弱っていれば、お姉様でも簡単に落とせると思います」
私は唖然とする。
そんなメチャクチャな話、上手くいきっこない。
だというのに、さも当然のように提案するエル。
しかも本気も本気のようだ。
助けを求めるようにお父様の方に視線を向けると、彼はスッと視線を逸らした。
妹には何も言えない両親。
自分でなんとかしろと、そう言いたいのだと思う。
私は大きくため息を吐き出す。
エルが騒ぎ出したら、結局両親もエルの言う通りに動き出すのだ。
遅かれ早かれ、私が妹の代わりにヴァンニール様の所に行くことになるだろう。
なら、もう行くことにしよう。
どうせ私には婚約者もいないのだから。
「お父様。エルの代わりに私が行きます」
◇◇◇◇◇◇◇
馬車に揺られ、ヴァンニール様のお屋敷に到着する。
私は屋敷の大きさにポカンとし、大きく口を開けて建物を見上げていた。
「どちら様でしょうか?」
屋敷から出て来た侍女の方が、私にそう訊ねてくる。
私は緊張しながら、彼女に答えた。
「私、クリスティーナ・デロニアスと申します。妹のエルリーンに代わり、ヴァンニール様のお世話をしに参りました」
「ああ……では屋敷の中でお待ちくださいませ」
意外とすんなり話を受け入れてしまう侍女。
代わりに来たなんて言われて、こんな風に通してしまうものなのだろうか。
彼女に促され、私は応接間に通されていた。
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こんな場所、場違いもいいところだわ。
やっぱりエルの言っていたことなんて、上手くわけがない。
私なんかが気に入られるわけがないのだから。
「お待たせした」
ギィッと開いた扉からやって来たのは、杖をつき、上半身に包帯を巻かれた男性であった。
包帯は頭の先まで巻かれており、その隙間からエメラルドグリーンの力強い瞳で私を見据えている。
私はゴクリと息を呑み、彼の瞳を見返していた。
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