妹に醜くなったと婚約者を押し付けられたのに、今さら返せと言われても

亜綺羅もも

文字の大きさ
上 下
4 / 18

4

しおりを挟む
「む、無茶なことを言うな……相手は公爵で……無作法は絶対に許され――」
「そんなこと、私は知りませんわ。お父様がなんとかしてください」
「…………」

 エルの我儘に困惑するお父様。
 そんなお父様を無視し、エルは笑いながら私の方を見る。

「お姉様。ヴァン様にはお世話をする人が必要なようです。私に世話をしてくれと行ってきましたけど、お姉様が代わりに行ってきてくださいませ」
「わ、私が?」
「ええ。私の代わりにと言っておけば、向こうも一応は納得するでしょう。その間にヴァン様のハートを射止めてきてください。あれだけ弱っていれば、お姉様でも簡単に落とせると思います」

 私は唖然とする。
 そんなメチャクチャな話、上手くいきっこない。
 だというのに、さも当然のように提案するエル。
 しかも本気も本気のようだ。

 助けを求めるようにお父様の方に視線を向けると、彼はスッと視線を逸らした。
 妹には何も言えない両親。
 自分でなんとかしろと、そう言いたいのだと思う。

 私は大きくため息を吐き出す。
 エルが騒ぎ出したら、結局両親もエルの言う通りに動き出すのだ。
 遅かれ早かれ、私が妹の代わりにヴァンニール様の所に行くことになるだろう。
 なら、もう行くことにしよう。
 どうせ私には婚約者もいないのだから。

「お父様。エルの代わりに私が行きます」


 ◇◇◇◇◇◇◇

 馬車に揺られ、ヴァンニール様のお屋敷に到着する。
 私は屋敷の大きさにポカンとし、大きく口を開けて建物を見上げていた。

「どちら様でしょうか?」

 屋敷から出て来た侍女の方が、私にそう訊ねてくる。
 私は緊張しながら、彼女に答えた。

「私、クリスティーナ・デロニアスと申します。妹のエルリーンに代わり、ヴァンニール様のお世話をしに参りました」
「ああ……では屋敷の中でお待ちくださいませ」

 意外とすんなり話を受け入れてしまう侍女。
 代わりに来たなんて言われて、こんな風に通してしまうものなのだろうか。

 彼女に促され、私は応接間に通されていた。
 面積も広く、煌びやかな品々が置かれている。
 我が家との差に、私は不安いっぱいになっていた。
 こんな場所、場違いもいいところだわ。
 やっぱりエルの言っていたことなんて、上手くわけがない。
 私なんかが気に入られるわけがないのだから。

「お待たせした」

 ギィッと開いた扉からやって来たのは、杖をつき、上半身に包帯を巻かれた男性であった。
 包帯は頭の先まで巻かれており、その隙間からエメラルドグリーンの力強い瞳で私を見据えている。

 私はゴクリと息を呑み、彼の瞳を見返していた。
しおりを挟む
感想 96

あなたにおすすめの小説

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】

青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。 婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。 そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。 それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。 ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。 *別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。 *約2万字の短編です。 *完結しています。 *11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい

花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。 ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。 あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…? ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの?? そして婚約破棄はどうなるの??? ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。

処理中です...