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ヴァンニール様と会いに出かけたエル。
両親はエルがいなくても私によくしようとはしない。
私によくした後、エルが不機嫌になるからだ。
それも何日も機嫌が悪くなる。
それならば、私のことは放っておいた方が無難だと思ったのだろう、以前はエルがいない時は少しばかり気にしてもらっていたのだが、今は完全に放置されている。
「これから私たちは食事をする。お前はその後で食べなさい」
「はい」
父親がお決まりのようにそう言う。
一応気にはしているというポーズをいつも取る。
こんなことに意味があるのだろうか。
もう黙って食事をしていればいいのに。
その後どうせ侍女が私に知らせてくれるのだから。
私は両親の辟易するようなルーティンに嘆息する。
その後、朝食を済ませ、花壇の整理を始めた。
グチャグチャになった花々を見て、少しだけ涙が滲む。
花に罪はないというのに……
悔しさを抱きながら、私は花の処理をする。
いつか……いつか私にも幸せは訪れるのだろうか。
そんなことを考えながら花を回収し、花壇に種を植えていく。
気持ちを切り替えよう。
花はまた咲く。
何回踏み付けられようと、何度も植え続ければいいのだ。
そうすればいつかエルだって諦めるはずだから。
昼食を済ませた後、土にまみれて作業を続けていると、怒りを露わにして帰ってきたエルの姿が視界に入る。
まだ昼過ぎだというのに……もう帰ってきたのか。
しかしあの怒り方、何があったのだろう。
私はエルの様子がとても気になり、屋敷へと早足で戻る。
「信じられませんわ! 本当に!」
「何があったのだ、エル」
玄関先で怒り、地団駄を踏むエル。
お父様が心配そうに、彼女に訊ねている。
「ヴァン様、事故で大火傷を負ってしまいましたの!」
「な、なんと……それは大変だな」
「私、嫌です! あんな醜くなったヴァン様と結婚だなんて、絶対に御免です!」
ヴァンニール様が大火傷をした。
見るも無残な姿となってしまったらしく、エルは嘆いている。
どうやら元通りになることはなく、これからもただれたお顔のままらしい。
エルはヴァンニール様のことをお慕いしていたようだが……彼女が想っていたのはその地位と容姿。
その容姿を失った今、エルにとっては耐えがたいもののようだ。
「し、しかし、もうすでにお前たちは婚約を……」
「いやよ! 絶対に嫌! 絶対にヴァン様と結婚はいたしません!」
エルの我儘は続く。
どうしようもないとお父様はなだめているが、落ち着くような気配は見せない。
するとエルは私の姿を見つけ、ニヤリと片頬を上げ、こちらを指差した。
「お姉様がいるではありませんか! 私の代わりに、お姉様がヴァン様と結婚なさればいいんです!」
私は放心する。
だが頭の中には不思議と『幸せ』という言葉が過っていた。
両親はエルがいなくても私によくしようとはしない。
私によくした後、エルが不機嫌になるからだ。
それも何日も機嫌が悪くなる。
それならば、私のことは放っておいた方が無難だと思ったのだろう、以前はエルがいない時は少しばかり気にしてもらっていたのだが、今は完全に放置されている。
「これから私たちは食事をする。お前はその後で食べなさい」
「はい」
父親がお決まりのようにそう言う。
一応気にはしているというポーズをいつも取る。
こんなことに意味があるのだろうか。
もう黙って食事をしていればいいのに。
その後どうせ侍女が私に知らせてくれるのだから。
私は両親の辟易するようなルーティンに嘆息する。
その後、朝食を済ませ、花壇の整理を始めた。
グチャグチャになった花々を見て、少しだけ涙が滲む。
花に罪はないというのに……
悔しさを抱きながら、私は花の処理をする。
いつか……いつか私にも幸せは訪れるのだろうか。
そんなことを考えながら花を回収し、花壇に種を植えていく。
気持ちを切り替えよう。
花はまた咲く。
何回踏み付けられようと、何度も植え続ければいいのだ。
そうすればいつかエルだって諦めるはずだから。
昼食を済ませた後、土にまみれて作業を続けていると、怒りを露わにして帰ってきたエルの姿が視界に入る。
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しかしあの怒り方、何があったのだろう。
私はエルの様子がとても気になり、屋敷へと早足で戻る。
「信じられませんわ! 本当に!」
「何があったのだ、エル」
玄関先で怒り、地団駄を踏むエル。
お父様が心配そうに、彼女に訊ねている。
「ヴァン様、事故で大火傷を負ってしまいましたの!」
「な、なんと……それは大変だな」
「私、嫌です! あんな醜くなったヴァン様と結婚だなんて、絶対に御免です!」
ヴァンニール様が大火傷をした。
見るも無残な姿となってしまったらしく、エルは嘆いている。
どうやら元通りになることはなく、これからもただれたお顔のままらしい。
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「し、しかし、もうすでにお前たちは婚約を……」
「いやよ! 絶対に嫌! 絶対にヴァン様と結婚はいたしません!」
エルの我儘は続く。
どうしようもないとお父様はなだめているが、落ち着くような気配は見せない。
するとエルは私の姿を見つけ、ニヤリと片頬を上げ、こちらを指差した。
「お姉様がいるではありませんか! 私の代わりに、お姉様がヴァン様と結婚なさればいいんです!」
私は放心する。
だが頭の中には不思議と『幸せ』という言葉が過っていた。
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