婚約破棄でも構いませんが国が滅びますよ?

亜綺羅もも

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「シルビア様……あなたについて来て、本当に良かった。私たちはあなたを信じたおかげで幸せになれました」

 私について来た十九人の男女。
 彼らは今目の前に広がっている光景に、奇跡でも見ているかのような表情を浮かべている。
 いや、違う。
 これは奇跡そのものだ。
 
 痩せた大地は生き返り、緑がどこまでも広がっている。
 少なかった食料も今は潤沢にあり、生きとし生ける者全てが笑顔を浮かべていた。
 以前のアールモンドの姿はもうない。
 今は奇跡によって生まれ変わったアールモンドがある。

「シルビア。君を信じてよかった。アールモンドがここまで変わるだなんて、今でも夢を見ているような気分だよ」
「アレン様。これが神の加護なのです。あなたが信じてくれた聖女の力なのです」
 
 隣に立つアレン様は、私の肩を優しく抱く。
 彼は優しい笑顔で私の耳に口を当てる。

「俺は何があろうとも君を信じている。出逢った瞬間から、死ぬまでずっとね」
「ならば私もあなたを信じます。きっとアレン様なら私を幸せにしてくれると」
「約束する。絶対に君を幸せにしてみせると」

 噂によると、ソルディッチは壊滅寸前だとか……
 もう興味もないのでどうでもいいが。
 やはりあの国は亡びる運命にあったのだ。
 シェイクが私との婚約を破棄した瞬間から……
 いいえ、彼の父上が聖女である奥様をぞんざいな扱いをした時からだ。

 いまだ豊かになり続けるアールモンド。
 そのうち以前のソルディッチをも超え、大きな国になるのだろう。
 私は穏やかに暮らせればそれでいいから、国の大きさなどどうでもいいのだけれど。
 
 アレン様がいれば、私は真の心の平穏を手に入れることができる。
 本当に穏やかな生活は、彼と共にあるのだ。
 彼の肩に頭を預けながら、ぼんやりと遠くを眺める。

「?」

 すると、町の外――地平線の方から馬に乗った何者かが、こちらに向かってやって来ていた。
 馬はどうやら二頭いるようで、それぞれ一人ずつ乗っているのが分かる。

「……シェイク?」
「シェイク……確か、ソルディッチの王子様……?」
「ええ」

 何故彼がここに?
 シェイクがこちらへと近づいて来る。
 ドンドン私との距離を縮め――とうとう彼は私の姿を発見した。

 彼はまるで運命の女性にでも出逢ったかのように、明るい表情を見せる。
 私は寸分も動かない感情のまま、泥だらけとなった彼の姿を眺めていた。

「シルビア……君を迎えに来たよ」
「は?」
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