上 下
12 / 15

12

しおりを挟む
 城門は決壊し、住民たちが城へと侵入する。
 兵士たちは迎え撃つが、中には裏切る者も現れた。

 食料を奪おうとする意志は凄まじく、彼らを止められそうにもない。
 数人の兵士がシェイクのもとまで駆けつけ、大慌てで口を開く。

「シ、シェイク様! 今すぐお逃げ下さい! もうここは危険でございます」
「な……」

 部下の言葉に固まってしまうシェイク。
 ふとそこで、ヒメラルダのことを思い出す。

「ヒ、ヒメラルダはどこだ……?」
「ヒメラルダ様……?」
「そういえば、もう長いこと見ていないな」
「ど、どういうことだ……?」

 シェイクもヒメラルダのことを長い間見ていないことを今更ながらに気づく。
 何故あんな大事な女性のことを忘れてしまっていたのだ?
 彼女の住む屋敷ももう流されてしまったというのに……
 僕は屋敷が流された時、何をしたんだ?

 その当日のことを思い出すことができないシェイク。
 頭を抱えて思い出そうとしていたが、兵士が彼の手を取り、駆け出した。

「今はそんなことより、逃げましょう!」
「このままではシェイク様も殺されてしまいます!」
「あ、ああ……」

 迫りくる住民のことを考え、シェイクは青い顔で逃げ出した。
 しかしどこに逃げればいいのだ?
 混乱したまま城の裏に用意されていた馬に跨り、十二名の兵士と共に城を飛び出した。

「こ、これは……」

 城を出た先の景色を見渡し、シェイクたちは愕然としていた。
 自然に囲まれていたはずのソルディッチ……
 全てが流され、今は見る影もなく、ただ荒野が続いているようだった。
 ぬかるみの中走る馬。
 疲れからか、次々に馬も倒れていく。

「た、助けてくれ……」

 馬と共に倒れる兵士たち。
 だが誰も助けようとはしない。
 人が減った方が、飢えをしのげるからだ。
 食料はほんの少ししか残っていない。
 数は一人でも少ない方がいいのだ。

 馬が倒れる度に、兵士を放置していく。
 そうしていると、とうとうシェイクと一人の兵士しか残らなかった。

「……シルビアはどこに行ったのだろうな?」
「アールモンドの方角に向かったと聞いております」
「アールモンド……」

 今更ではあるが、聖女の伝承が本物だったのではと考え至るシェイク。
 彼は唯一となった兵士と共に、アールモンドへと向かうことにした。

 聖女の話は本当だったんだ。
 僕が悪かった、シルビア。
 今僕は、君を迎えに行く。
 そして僕を許してくれ。
 そうすることによって、きっとまた、ソルディッチは平穏を取り戻すことができるかずだから。
 もう僕は他の女性に目もくれないと約束しよう。
 これからは二人で力を合わせて、ソルディッチを再建していくんだ。

 心の中でシルビアに謝罪をするシェイク。
 愚かにも、まだ自分たちはやり直せるはずだと信じて……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

芋くさ聖女は捨てられた先で冷徹公爵に拾われました ~後になって私の力に気付いたってもう遅い! 私は新しい居場所を見つけました~

日之影ソラ
ファンタジー
アルカンティア王国の聖女として務めを果たしてたヘスティアは、突然国王から追放勧告を受けてしまう。ヘスティアの言葉は国王には届かず、王女が新しい聖女となってしまったことで用済みとされてしまった。 田舎生まれで地位や権力に関わらず平等に力を振るう彼女を快く思っておらず、民衆からの支持がこれ以上増える前に追い出してしまいたかったようだ。 成すすべなく追い出されることになったヘスティアは、荷物をまとめて大聖堂を出ようとする。そこへ現れたのは、冷徹で有名な公爵様だった。 「行くところがないならうちにこないか? 君の力が必要なんだ」 彼の一声に頷き、冷徹公爵の領地へ赴くことに。どんなことをされるのかと内心緊張していたが、実際に話してみると優しい人で…… 一方王都では、真の聖女であるヘスティアがいなくなったことで、少しずつ歯車がズレ始めていた。 国王や王女は気づいていない。 自分たちが失った者の大きさと、手に入れてしまった力の正体に。 小説家になろうでも短編として投稿してます。

神殿から追放された聖女 原因を作った奴には痛い目を見てもらいます!

秋鷺 照
ファンタジー
いわれのない罪で神殿を追われた聖女フェノリアが、復讐して返り咲く話。

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

農民から聖女にそして王子様との婚約だけど婚約破棄からの王子様をざまぁ!

京月
恋愛
ある日農民から聖女として祀り上げられたサリーは神様に気に入られ様々な危機から国を救った この功績のおかげで国中の憧れのである王子様との婚約も決まった しかし王子様は人気取りの為だけに私を利用したのだった 挙句に婚約破棄までされた私は神様とともに王子様に罰を与える

お飾りの聖女は王太子に婚約破棄されて都を出ることにしました。

高山奥地
ファンタジー
大聖女の子孫、カミリヤは神聖力のないお飾りの聖女と呼ばれていた。ある日婚約者の王太子に婚約破棄を告げられて……。

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

聖女だと名乗り出たら、偽者呼ばわりをされて国外に追放されました。もうすぐ国が滅びますが、もう知りません 

柚木ゆず
ファンタジー
 厄災が訪れる直前に誕生するとされている、悲劇から国や民を守る存在・聖女。この国の守り神であるホズラティア様に選ばれ、わたしシュゼットが聖女に覚醒しました。  厄災を防ぐにはこの体に宿った聖なる力を、王城にあるホズラティア様の像に注がないといけません。  そのためわたしは、お父様とお母様と共にお城に向かったのですが――そこでわたし達家族を待っていたのは、王家の方々による『偽者呼ばわり』と『聖女の名を騙った罪での国外追放』でした。  陛下や王太子殿下達は、男爵家の娘如きが偉大なる聖女に選ばれるはずがない、と思われているようでして……。何を言っても、意味はありませんでした……。  わたし達家族は罵声を浴びながら国外へと追放されてしまい、まもなく訪れる厄災を防げなくなってしまったのでした。  ――ホズラティア様、お願いがございます――。  ――陛下達とは違い、他の方々には何の罪もありません――。  ――どうか、国民の皆様をお救いください――。

処理中です...