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「…………」
「あの……大丈夫ですか?」
「あ、ああ……申し訳ございません。少しボーッとしておりました」

 その男性は黒い髪に黒い瞳。 
 着ている服は貴族らしいもののようだが、みすぼらしい。
 背は高く、年齢は私と同じぐらいに見えるし、幼くも見えた。
 顔は大変美しく、こんな美形がこの世に存在するのかと驚愕するほどだ。

 私は彼の顔を見て硬直してしまっていたらしく、ハッとして顔を少し染めていた。

「私はシルビア・マックイーナ。ソルディッチからやって来た者でございます」
「ソルディッチから……何故このような場所に? こんな国に用事などないでしょう?」

 男性は、苦笑いしながら私の顔を見ている。
 そんな顔もとても綺麗で、私はまた彼に釘付けとなっていた。

「……美しい」
「え?」
「あ、いや、すいません……私はアレン・アールモンドです」
「アールモンド……と言うことは、この国の?」
「ええ。このような身なりをしていますが、アールモンドの国王でございます」

 なぜかほんのり顔を赤くしたアレン様は、照れくさそうに鼻をかいている。
 貴族というには、少し庶民的……というか、全然気取っていない様子。
 まさかこの方が国王だなんて……

「アレン様。どうか私たちを、この国に受け入れてもらえませんでしょうか?」
「貴方たちをですか? ええ、いいですよ」

 驚くほど早い決断であった。
 さっきは大きな器を持っているなんて冗談で言ったが、案外本当に器の大きいお方なのかもしれない。
 私は驚きのあまり、ポカンとしてしまっていたので、一つ咳払いをして話を続けた。

「そ、それでは、これからこの国で生活をさせてもらってもよろしいのですか?」
「ええ。構いませんよ。生涯ここで暮らしていってもらっても構いません」

 それはありがたい提案だ。
 私は穏やかに暮らせればそれでいい。 
 たとえ貧乏だとしても、住む場所があればそれでいいのだ。
 
 優雅な暮らしもいいが、貧乏で慎ましく生きることにも慣れている。
 私はアレン様に笑みを向け、頭を下げる。

「ありがとうございます、アレン様。お言葉に甘えさせていただきます」

 私に合わせて、十九人の付き人も膝をつき、アレン様に首を垂れる。

「……私の城に空き部屋がいくつかある。貴方たちはそこで暮らしてもらって結構です」
「お城でだなんて……屋根さえあれば、私はどこでも構わないというのに……」
「い、いえ! 貴方のような美しい人を、適当なところで住まわせるわけには……あ、いや! すいません、忘れて下さい!」

 そう言ったアレン様は、お顔を真っ赤にしていた。
 私はそんなアレン様にまた見惚れていたのである。
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