婚約破棄でも構いませんが国が滅びますよ?

亜綺羅もも

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 ソルディッチから西へと流れ、とうとう私たちはアールモンドの領地へと辿り着いた。
 そこは痩せた大地が広がっており、自然の緑はどこを見渡しても見当たらない。
 まさかここまで酷い国であったとは……アールモンドに到着するなり、少し後悔する私。

 そのままさらに西へと向かうと、小さな城が見えた。

「シルビア様。あれがアールモンド城でございます」
「あれが……そう」

 遠くに見える小さな町。
 ボロボロの建物がいくつも建ち並んでいるのが見える。
 その中で一番大きな建物……城であろう。
 ソルディッチ城と比べれば、とても小さく、心細さを感じる。
 城は半壊しており、見ているだけで寂しくなってしまう。

 私は少し顔を青くし、その城を遠くから眺めていた。
 しかし、私がこんな顔をしていたら、皆が不安に思うだろう。
 出来る限り平静を装い、私はため息をついた。

「とても小さな城ではありますが、大きな器を持った王がいるかもしれません」
「なるほど……この状況でやりくりしているところを見ると、生きる術に長けている人物かも知れませんな」

 馬に乗った男は、まだ見ぬ王へと、尊敬のまなざしを向けていた。
 流石に早すぎだろう……

 私は呆れながらも、コクリと首肯し、彼の言葉に賛同しておいた。

「そのような人物なら良いですね」
「はい」

 馬車はゆっくりとアールモンド城へと近づいて行く。
 町の前に到着し、私は馬車を降りる。
 長時間座っていたため、私は大きく伸びをし、固まった体をほぐす。

「シルビア様……はしたないですよ」
「少しぐらいいいでしょ? 今の私は貴族でもなんでもないもの。ただの聖女としての使命を持っているというだけの女。それも聖女として機能しているのかどうかも分からないのよ?」

 もちろん、自分では理解している。
 まだ私は聖女としての使命を帯びたままであると。
 
 だが私の話を聞いて、その女性は嘆息しながらも納得してくれた。
 私は彼女に笑顔を向け、そしてアールモンドの城へ向かって歩き出す。

 十九人の男女が私の後をついて来る。
 その様子を見た町の住人たちは、私をポカンと眺めていた。
 どこの貴族のお嬢様だと思っているのだろう。
 だけど私は今は貴族ではない。
 
 少し気楽に、そんな視線を気にすることなく歩いて行く。

「あの……貴方は……?」
「?」

 それはもうアールモンドに到着しようかという時であった。
 突然私は、透き通るような声に訊ねられる。
 私は声の方を振り向き――そして息が止まった。

 声の主、それは……今まで見たことないような、素敵な男性であったからだ。
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