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 屋敷を出ると、十名ほどの男性が私に近づいてくる。
 何事かと身構えると、彼ら膝をつき、私に首を垂れた。

「聖女様。私たちも連れて行ってはくれませんか?」
「私たちには家族もいない。失うものはなにもないのです。聖女様以外に」
「聖女様を捨てる国など、こちらから願い下げでございます!」


 男たちは憤慨した様子でそう言った。 
 私は一つため息をついて彼らに言う。

「ここにいる女性方も私について来ると言っています。今更人数が増えたところで代わりありません。この国に未練がない方だけついて来ても結構です」

 その場にいる誰も未練がないようで、真っ直ぐな瞳で私を見上げていた。
 私は頷き、彼らの同行も許可する。

 ゆっくりと町の様子を眺めながら歩いていく。

「…………」
「いかがなされましたか、聖女様?」

 以前祖父と住んでいた建物があり、私は衝動的にそこに足を踏み入れる。
 中には家具などが一切なく、埃まみれとなった不衛生極まりない空間。
 だけど、思い出が込み上げてくる。
 優しかった祖父の記憶が、祖父の笑顔が建物の中に浮かび上がる。

「お祖父ちゃん……私はソルディッチを出ます。さようなら……いえ、一緒に行きましょう」

 笑顔の祖父は私に頷き、そして消えていく。
 私はくすりと笑い、踵を返し建物を出た。
 
 外には19人の付き人が待っていた。
 私は彼らに笑顔を向け、町を出るように促す。

「おい、聖女だぞ……」
「聖女の話なんて嘘だろ」
「だよな。俺も信じられないよ」

 聖女の伝承を信じない人たち。
 そんな人たちが、歩く私に見下すような視線を向けている。
 穏やかに生きたいだけだから、こういうのはちょっと止めていただきたい。
 私が国のために何かをやったわけでもないけれど、悪いことも何もやっていなのだからそんな目をしないで。
 
 そんな周囲の視線に怒りを覚えたのか、付き人たちは怒りを露わにしていた。

「聖女様を信じない、不届き者たちめ!」
「聖女様、私、くやしいです」
「放っておいたらいいじゃない。私を信じるあなたたちは報われる。それだけでいいのです。自分と大事な物以外のことを気にしている時間は無駄ですよ」

 私の言葉に「なるほど」と納得する皆。
 しかし周囲を睨み返しながら、私の後をついて来る。

 私はソルディッチの町の入り口、大きな門を見上げ、そして静かに目を閉じた。

 この国を今までお守りいただき、ありがとうございました。
 ですが私は今日、この国を出ます。 
 どうかこれからも私と共にあることを願っております。

 私は目を開け、妙に神聖な空気を感じながら門をくぐり抜けた。
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