婚約破棄でも構いませんが国が滅びますよ?

亜綺羅もも

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 私はただ、穏やかに生きていたいだけだった。

「シルビア・マックイーナ。君との婚約を破棄させてもらう」
「はぁ……別にいいんじゃないですか」
「…………」

 私、シルビア・マックイーナは、次期国王であるシェイク・ソルディッチ王子に婚約の破棄を言い渡されていた。
 場所はソルディッチ城の大広間。
 緑色の髪に緑色の瞳のシェイク様。
 彼は私の前におり、彼の傍らには、金髪の美しい女性がいる。
 私は見たこともない人だが……絶世の美女だ。
 こんなに綺麗な人がいるなんて。

 シェイク様はあっけらかんとそう言った私に驚いているようだった。
 私があなたにしがみ付いて「私を捨てないでー!」なんて言うと思っていたの?
 残念ながらあなたに対してそんな感情はない。
 だって私は『使命』であなたと婚約していただけなのだから。
 
 シェイク様は少し呆然とした様子で口を開き始めた。

「と、とにかくだ、君とはここまでだ」
「だからそれでいいんじゃないですか」
「僕は彼女――ヒメラルダと結婚をする!」

 周囲にいた彼の家臣たちが大騒ぎをする。
 それは私の『使命』に関係することでだ。

「し、しかしシェイク様……彼女は『聖女』であられますぞ」
「聖女だからどうしたというんだ? そんなものはただの迷信にすぎない。いまだに聖女の話を信じている者がいるとはな」
「バ、バカなことを言うな! この国は聖女があるからこそ成り立っているのだぞ! その聖女であるシルビア様との婚約を破棄するなど、許されることではない!」
「聖女がいなかったらどうなるんだ? 先代の聖女はお亡くなりになったが何も起きていないではないか! 聖女の話なんてものは、迷信なんだよ!」

 私は彼らが話をしている聖女という存在だ。
 その私のことを巡って言い合いをする男たちに、私は大きく嘆息する。
 もうどうでもいいから、帰っていいかな?

 婚約がなくなったというなら、私はこの場に一秒たりといたくはない。
 シェイク様はなぜか勝ち誇った表情で私を見下ろしている。

「シルビア。僕も聖女の話など信じていない。ただ聖女というだけで、君と婚約をし結婚しなければいけなかった……だがヒメラルダが僕に真の愛を教えてくれた! 障害は自分の手で乗り越えなければいけないと!」

 自分に酔っているのだろうか、シェイク様は熱弁しているが悦に入っているようだった。

「だから僕は君との絆を断ち切る! 聖女の伝承など、全て嘘だということを証明してみせる!」
「そうですか。頑張って下さいね」
「…………」

 別に私は構わない。
 シェイク様となら穏やかに暮らせると思っていただけで、最初から何とも思っていないのだから。
 
 まぁしかし、元婚約者として少しだけ同情しておいてあげよう。
 これからこの国は滅びてしまうのだから……

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 さようなら。悪いのは浮気をしたあなたですから

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