婚約破棄でも構いませんが国が滅びますよ?

亜綺羅もも

文字の大きさ
上 下
2 / 15

2

しおりを挟む

 それでどうしたと問われた時、すでに頭の中は真っ白で何の話かと思考することさえ億劫だった。
 淡く照らされた寝室。
 途中記憶は飛び飛びだが、苦痛を覚えるような防衛反応はとうに収まっているようである。
 いつものような激しさはなかったはずだが、何度達したか覚えていない。
 今夜の哨戒を気にしてくれているのだろうが、こんなに快くてはあまり意味がないのでは。
 上体はベッドに投げ出したまま辛うじて腰を支えられて、まだゆるゆると中を擦られている。
 でも出来れば後ろからじゃない方が良いな、とアトリは音のする息を吐きながら思う。
 いつもより奥まで挿って来るせいだろう。
 怖いくらいの絶頂が襲って来るし、何よりユーグレイの顔が見えない。
 ただ突っ込んでいる方は変わらず愉しそうだから、今日のようになるべく早く済ませるには良いのかもしれなかった。
 
「ーーぃ、それっ、も、痛いって、ば」

 背後から回された手が、胸の先端を弄る。
 何が楽しいのか、散々刺激されたそこは指先で優しく摘まれただけでもぴりぴりと痛い。
 それが快感とごっちゃになっている辺り、救いようがないのだが。
 ユーグレイは見透かしたように小さく笑った。
 
「今日は、君らしくもなく神経質になっていただろう?」

「ん、あ? そ、うッーー!」

 そうでもない、とアトリが言い切る前に胎の中の熱が弱い所をぐうっと押し上げた。
 微睡むような快感が、一気に弾ける。
 止めようもなくユーグレイを締め付けて達した。
 防衛反応は収まっているのに、馬鹿馬鹿しいほど気持ち良い。

「はぁっ、あっ、うぅーー……」

 啜り泣くような声が、喉から漏れる。
 僅かな快感も拾おうと中が貪欲に収縮するのがわかった。
 もっと動いて欲しい。
 もっと奥まで来て欲しい。
 けれどユーグレイは答えを促すように、酷く緩慢な動きに戻ってしまう。
 ああ、わかってやってんな、こいつ。

「や、ってる最中に……、難しい話、すんなってぇ!」

「やっている最中だから、だろう。君が誤魔化す余裕がない方が、僕としては都合が良い」

「お前、なぁ、あっ!」

 そっと胸の先を撫でていた指先が、膨らんだそこをぎゅうっと押し潰す。
 一瞬視界が白くなって、アトリは反射的に自身の性器を押さえた。

「んっく、ーーーーっ」

 自分で擦って達したかったのか或いはイってしまうのを止めたかったのか、よくわからない。
 混乱したまま触れた熱は、とろとろと勢いなく白濁を吐き出している。
 アトリ、と耳元で囁かれて呻く。
 まあ大体ユーグレイには敵わないから、早く諦めた方が身のためだろう。
 肩を震わせて、アトリは息を吐く。

「あんま、良くない、夢を……、この間」

 重い頭を少し持ち上げて、背後を振り返った。
 ほら大した話じゃないと言いかけて、眉を顰めたユーグレイと目が合う。
 
「それは、海で僕が襲われる夢か?」

「……あれ、俺、話したっけ?」

 あの時は確かにユーグレイを起こしてしまったし、夢見が悪かったことはバレていたようだったけれど。
 彼はゆっくりと首を振った。
 宥めるようにアトリの背中に触れる手。
 そうか。
 魔術の構築を任せるために神経を繋ぐようなことをしていたのだから、夢の共有くらいは起きて当然である。
 
「あ……、なるほど。変な夢見てなくて、良かった」

 笑いながらそう言うと、ユーグレイは怪訝そうな表情をしてアトリの腰を掴む。
 ゆったりと揺さぶられて、内腿が痙攣した。
 
「変な、とは」

「は、だから、こういうことしてる、夢、だろ」

 彼はふっと耳元で笑った。
 そして不意に背後からアトリを抱き締める。
 触れ合う肌が心地良くてアトリは目を閉じた。
 
「君も、ああいった悪夢を見るんだな」

 僅かに驚きを孕んだ言葉。
 アトリは手を回して、首筋に押しつけられた彼の頭を撫でる。
 指の間を擽る銀髪を、確かめるように何度も梳いた。

「見るよ。ユーグに何かあったら、怖い。だから、結構、あのパターン」

「………………そうか」

「防衛反応、壊れて、良かったかもな。少なくとも、俺の力不足で何かあるって可能性は、低くなっただろ?」

 この状態が、致命的な損傷を負った結果なのだとしても。
 それによって生み出せるものでユーグレイを守れるのなら、それはアトリにとって決して悪いことではなかった。
 ユーグレイは顔を上げると、黙り込んだままゆっくりとアトリの中から出て行く。
 敏感になった粘膜がずるずると擦られて、びくりと身体が跳ねる。

「んあ、ぁっ、ユーグ、待っ」

 ぐい、と肩を掴まれて仰向けになる。
 熱を失った後孔が喪失感を訴えていた。
 じわりと滲んだ視界に、どこか切羽詰まったような顔をしたユーグレイが映る。

「僕は」

 乱れた銀髪が、彼の肩から滑り落ちる。
 痛みを堪えるような碧眼は、ただ綺麗だ。 

「アトリ。君に触れることが一生叶わなかったとしても、君がこうなったことを『良かった』とは、言えない」

 何だか、泣きたいような気分だった。
 唇を噛んだユーグレイに、アトリは手を伸ばす。
 その頬に触れて、唇に触れて、ただ否定の意味ではなく首を振った。
 溢れそうな感情が身体を満たして、堪らない気持ちになる。
 
「ユーグ」

 でも、それなら尚更。
 こうなって良かったと、アトリは思う。
 こんな風にユーグレイに触れることが出来るのだから、防衛反応なんて壊れてしまって、良かったのだ。
 すまないと言いかけた彼の言葉を遮って、アトリは「もう一回」と強請った。

「もう一回、しよ。ユーグの、顔見て、したい」

「アトリ」

 少し腰を浮かせて、まだ閉じ切っていないそこに触れる。
 柔らかく、呼吸をする度に震える縁。
 幾度か注がれたものが指先を伝うのがわかった。
 ユーグレイが僅かに息を詰める。
 挿れて、とアトリは微笑んで言った。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

神に愛されし聖女は、婚約破棄された妹の為に国を滅ぼす

宇田川リュウ
恋愛
神に愛されし聖女、マリアには、幼い頃に生き別れた妹、ユリアがいた。 妹には貴族の令嬢として何不自由なく暮らし、愛のある結婚をして、幸せな人生を歩んでほしいと願っていたマリアの祈りは、あっけなく打ち砕かれる。 カミーユ殿下とユリアの婚約に対し、聖女であるマリアの祝福を授けるはずだった場でーー妹が婚約破棄され、殺されかけるという、最悪な形で。 「あなた達に捧げる祝福はありません」 いっそ滅べ、と。聖女の逆鱗に触れた者達の末路とは……。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

堅実に働いてきた私を無能と切り捨てたのはあなた達ではありませんか。

木山楽斗
恋愛
聖女であるクレメリアは、謙虚な性格をしていた。 彼女は、自らの成果を誇示することもなく、淡々と仕事をこなしていたのだ。 そんな彼女を新たに国王となったアズガルトは軽んじていた。 彼女の能力は大したことはなく、何も成し遂げられない。そう判断して、彼はクレメリアをクビにした。 しかし、彼はすぐに実感することになる。クレメリアがどれ程重要だったのかを。彼女がいたからこそ、王国は成り立っていたのだ。 だが、気付いた時には既に遅かった。クレメリアは既に隣国に移っており、アズガルトからの要請など届かなかったのだ。

婚約破棄からの国外追放、それで戻って来て欲しいって馬鹿なんですか? それとも馬鹿なんですか?

☆ミ
恋愛
王子との婚約を破棄されて公爵の娘としてショックでした、そのうえ国外追放までされて正直終わったなって でもその後に王子が戻って来て欲しいって使者を送って来たんです 戻ると思っているとか馬鹿なの? それとも馬鹿なの? ワタクシ絶対にもう王都には戻りません! あ、でもお父さまはなんて仰るかしら こんな不甲斐ない娘との縁を切ってしまうかもしれませんね でも、その時は素直に従いましょう

神殿から追放された聖女 原因を作った奴には痛い目を見てもらいます!

秋鷺 照
ファンタジー
いわれのない罪で神殿を追われた聖女フェノリアが、復讐して返り咲く話。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

処理中です...