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 カリスは、シーナと共に優雅な日々を送っていた。
 送っていたはずだったのだが……

 華やかで見栄えのいい女。
 そんなシーナがいるだけで、カリスは満足していた。
 満足していたはずなのだが、徐々に彼女のことが疎ましくもなっていく。
 
「カリス様。あれも買ってよろしいですか?」
「ああ。お前の好きな物を買えばいい」

 買い物をすれば常に何か欲しがるシーナ。

「カリス様。ついでにあれも欲しいです」
「お前の自由にしろ」

 それは一度だけではなく、買い物をする度にだ。
 ドレスも宝石も、際限なく欲しがるシーナ。
 最初は気分よく買い与えていたカリスではあるが、それが少しずつ厚かましく感じ始める。

「ねえ、あれも買ってよろしいでしょ?」
「…………」

 シーナと交際を始めて一ヶ月。
 たったそれだけの期間であったが、彼女の言動全てに苛立ちを覚え始めていた。

「…………」

 カリスは過去のことを思い出す。
 エマはこんなことはなかった。
 彼女は必要以上に物を欲しがるようなことはなかったのだ。
 本だけがあればいいという、カリスから見れば根暗なことしか言わなかったエマ。
 カリスはそれが当然だと考えていた。

 女は誰もがそんなものだと考え、それはシーナも同じだと踏んでいたが……それは違った。
 彼女は欲に忠実な女性で、欲しい物はごまんとある。
 常に物が欲しいと心は乾き、そしてカリスにねだり続けた。

 そんな日々が続き、とうとうカリスはシーナに怒鳴りつけてしまう。

「お前……派手なのはいいが、どれだけ物を欲しがるんだ! お前の金じゃないんだぞ!?」
「でも、私たちが結婚すれば私たちのお金ではありませんか」

 何も言い返せないカリス。
 それもまた事実だと考えてしまった。

 とてもじゃないが、こんな女と結婚はできない。
 しかし、だからと言って今更エマに帰って来いなんてことも言えやしない。
 言ってもいいのだが、あんな地味な女はごめんだ。
 あいつは俺が声をかければ喜ぶだろう。
 だが俺は違う。
 俺には俺に合う女性がいるはずなのだ。
 シーナがそうだと思っていたが、それは違った。

 こいつは少し、欲が強すぎる。
 もう少しだけ控えめな女がいい。

 華やかではあるが物をできる限り欲しがらない女。
 自分が使う分にはいいが、財産を食いつぶされるのは勘弁だ。

 そう考えたカリスは、シーナに別れを告げるのであった。
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