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 リカルド様のお城を後にし、自宅へと戻るとロロはすでに浮気相手の情報収集を終えていたようだった。
 相変わらず仕事の早い人。
 本当に頼りになるわ。

「それで、相手は誰なの?」
「リリー・グレイサスンという女でございました」
「グレイサスン……ミゲイル様と同じ侯爵だったわね」
「はい。そしてリリーという女、ルーティ様のことを知っていてミゲイル様と親密な関係になったようでございます」
「そう……完全に舐められているってわけね」

 水がお湯に変化するように……徐々に怒りが沸騰し始める。
 リカルド様との楽しい時間が忘れ去れてくれていたのに、また腹が立ってきた。

「それでは、暗殺いっときますか」
「まだ早い。と言うか、暗殺は無しの方向で」


 頼りになるのに物騒すぎるロロ。
 彼はつまらなそうに、どこからか取り出したナイフを見下ろしていた。
 
「ちょっと怖いからそれしまってくれない?」
「ああ、申し訳ございません」

 私がそう指示すると、ロロは手品のようにナイフをパッと隠してしまう。
 本当、なんでもできる人だな。

「リリー様のことはまた後で考えるとして……そろそろ技を教えてくれないかしら? 練習しておいた方がいいんでしょ?」
「ああ、そうでございましたね」

 コホンと咳払いするロロ。

「では出来る限り動きやすい服装をお願いいたします。外でやると旦那様や奥様が口を挟むかと思いますので、練習はここでやりましょう」
「分かったわ」

 私は比較的動きやすい服装に着替え、ロロの指導を受けることに。

「それで、どんなことを教えてくれるのかしら?」
「ルーティ様に教えるのは……遥か東の国から伝わった技術、正拳突きでございます」
「正拳突き?」
「はい。効率よく力を拳に伝え、それを相手にぶつける技術です」
「ふーん……とりあえずやってみないことには分からないわね」
「それではさっそく始めましょうか」

 ロロが腰を落とすのを見て、私は同じポーズを取る。

「両手にヒモが繋がっているイメージで、右手を突き出したら左手を後ろに下げる。逆もまた同じです」
「なるほど」

 拳を突き出し拳を下げる。それを左右交互に繰り返す。
 確かに、ただ無造作にパンチを繰り出すよりも力強さを感じる。
 これが技術というものなのだろう。

「いい感じです。まずはこれを何度も練習しましょう。まだ段階はいくつかありますが、とりあえず今はこれだけをお願いします」
「分かったわ」

 まだこれより強くなれる……女でありながらミゲイル様に強い一撃をお見舞いできるそのことに、私は歓喜を覚えていた。
 練習には熱が入り、私は汗だくで拳を振り続ける。
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