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「あ、そうなの!?あれがそうなの?」
「そうそう、NACのな」
「三山紀夫、SNSとかでめちゃくちゃ有名ですよ?」
俺がスタジオに入ると栖本さんと三条さん、橋下さんがベンチに座って話しをしていた。
「お早うございます」
俺が声を掛けると三人は直ぐに挨拶を返してくれた。
「高井さん、さっき高井さんの会社の三山社長がコレ届けてくれたよ。もう帰っちゃったけど」
橋下さんがいくつかある紙袋の一つを両手で抱えて見せてくる。
「え…?」
俺は三山さんが一体何をやらかしたのかと急いでベンチに向かうが、何かとても良い匂いが漂っていた。
「クロワッサンだって。この店超人気だよな。コレ塩だ、一番美味いやつ」
三条さんが紙袋を開けて中を覗いて言う。
「クロワッサン…?」
「いつも行列出来てますよねー。俺めちゃ好きで良く買いに行きますよ。こっちはバターです。これは、メープル!これ好き!あ!あんこありますよ栖本さん」
橋下さんも三条さんとは違う紙袋を次々と開けると「まだぬくい」と言って猫のように黒目を輝かせて俺を見る。
「…え?」
俺は三人の視線にまだ状況が良く分からず、とりあえず紙袋を四つとも全部触ったり、三人の手元にある初めて見た三山さんの名刺を確認したりする。
「で、食っていい?」
栖本さんが言った。
「あ!!どうぞ。すみません。皆さんで食べて下さい」
慌てて言うと、三人は「いただきまーす」と言ってさっさと紙袋に手を突っ込んでクロワッサンを食べ始めた。
「うま!これ!」
「それあんことバターですよ」
「一番高いんだよそれ。あったかい塩が美味い」
「ですよねー。全部好きです俺。夕方になると林檎のも店に出るんですよ」
「へー、林檎も美味そうだな。今日買って帰ろ。そっち何だっけ」
「これは…橋下君」
「メープルです」
「メープルだってさ」
「じゃ次メープルちょうだい」
「ん?悠二、食べないのか?」
三条さんが顔を上げる。
「あ、俺は…」
「バターあげるよ」
橋下さんがつんと顎をあげて一つのクロワッサンを紙に包んで寄越す。
「…どうも」
(なんで上からくるんだよ)
そうこうしていると青柳さんが来た。
「青柳さんお早うございます」
橋下さんがいち早く気付きクロワッサンを持ったまま立ち上がる。後の二人は食べながらモゴモゴと挨拶した。
「お早う。何食ってる」
「悠二の社長からの差し入れ。晃介も食えよ、美味いぜ」
青柳さんが俺を見る。
「お早うございます。良ければどうぞ」
「ああ、ありがとう」
青柳さんは水を買ってから栖本さんの隣に座った。そして三山さんの名刺を見ている。
青柳さんは俺に対して特に嫌な顔をするでもなく、いつも通りだ。
(出来た人だな…ホント)
「みんなお早う。あ、何?良い匂い」
二岡さんも到着した。
「お早うございます」
俺と橋下さんが同時に言う。
「悠二の社長からの差し入れ。朝一から来てたみたいで。保も食えよ」
「え!嬉しいな!今朝時間なくて」
「人気店のクロワッサンですよ」
「あ知ってるこのロゴ!あの行列出来る店だ。あそこパン屋なんだねー」
二岡さんも「いただきまーす」と俺に言って食べ始めた。
「三条さん、ウチの社長、朝から居たんですか?」
俺はまだ詳しく分からない状況を尋ねた。すると栖本さんが答えた。
「そう、俺が来た時にはもう二階に居たみたいで。お前が来る少し前に降りて来て帰って行った」
「感じ良かったよ」
三条さんも言う。
「そうですか」
(二階…)
三山さんは昨日の俺の事で大西監督と何か話したのだろうか。そう思い二階に行こうとすると青柳さんに呼び止められた。
「お前はいちいち行くな。座ってろ」
「でも」
「重要なら後でお前にも連絡あるだろ。お前に言わずに来たなら今は口を挟むな」
「そうそう、任せておけばいいんだよ」
三条さんもにこやかに言う。
「…はい」
俺はとりあえず頷いておいた。
「それより、これ何だ?」
青柳さんが言うので俺はそっちを見る。
青柳さんは足元からまた別の紙袋を持ち上げる。
「ああ…。それはウチの嫁から。なんか、その…プリンだって」
栖本さんが青柳さんを見ずにクロワッサンを食べる。
「ほう。…で、こっちは?」
青柳さんはまた違う紙袋を持ち上げる。
「それは俺。まあ、クッキー…だな」
三条さんも青柳さんから目を逸らした。
「あ、あの俺も…みなさんでと思って」
橋下さんもリュックから小さめのナイロンの手提げを出した。
「チョコ…です」
「なーんだ皆んな持って来たの?実は僕もさー、ほらマヌカハニーの飴。一人一袋あるから」
二岡さんまでわざわざ笑顔で全員に配った。
「はい、高井君。マヌカハニーは喉に良いんだよ」
「ありがとうございます」
やはり二岡さんの笑顔は安心する。
きっと皆んな俺に気を遣ってくれたのだろう。
それを知っている青柳さんに、呆れたように笑いながらため息をつかれて、暫し皆は無言でクロワッサンを食べた。
すると、
「三山君のパン残ってる?有名店らしいじゃない」
突然の大西監督が機嫌良く降りて来た。
驚いた皆は更におし黙った。
橋下さんが持っていた空の紙袋を大西監督が指で傾ける。
「え?ないの!?」
大西監督は今この時に唯一目が合わせられる冷やかな表情の青柳さんに言う。
「えーと、プリンとクッキーとチョコと飴?ならありますよ?」
「パンないの!?」
「みたいですね」
「クロワッサンです」
三条さんが笑いを堪えて言う。
「えー!ないの!?私の分」
「ないですね」
青柳さんがはっきりと言う。
俺は持っていたバターのクロワッサンを大西監督に差し出した。
「あ。あるじゃない、んふふ。美味しそうだね。お礼言っておいてね高井君」
大西監督はまた機嫌良く二階へ戻って行った。
「…びっくりしたー」
栖本さんが苦笑いする。
「いつもは一歩も降りてこないじゃん!」
三条さんも小声で青柳さんに言う。
「美味しい匂いがしたのかもね」
二岡さんも小声で笑う。
「一つでも残ってて良かったですね。ナイス俺!」
橋下さんは本当にほっとしている。
「じゃあ、そろそろ上がるか」
青柳さんが言って俺達もぞろぞろと二階に向かった。
◆ 大西 幸人
「お早うございます。ああ、全員居るね、良かった」
初日に比べると随分と空気が変わったものだ。
「いますよー、全員」
栖本君がいつものように台本を見ながら片足をくねらせる。
「大西さん何の話してるんだろ。よく分かんないな」
三条君が言うと、高井君は気まずそうに台本で顔を隠したが、「さっき下に来たよね」と小声で言う二岡君も青柳君も橋下君も笑っている。
高井君は今日、とても良い顔をしている。
「はい、まあ冗談は置いておいて。今日で収録は最終日となります。残してる量もほぼないのでちゃんと終われるでしょう。では宜しくお願いします」
何処からと私が言わずとも台本を手にそれぞれが自主的にマイクに入る様子も、足取り軽やかで集中するのも早い。
「さあ、宜しく」
こちら側に居るメンバーに声を掛けると、こちらもまた連日の作業の疲れは見えても静かなやる気に満ちていた。
山口君なんかは昨日の夜、ついうっかり「続きが聞きたいですね」なんて言葉なんかも零していた。
実は主役の二人が台本の台詞を変える度に、私はその日中に原作者の小野江マリナに詳細な報告をしていたのだが、彼女は一度此処へ出向いた後からは特に、本心からそれでいいとすんなり頷いてくれている。
元から私に任せてくれるという話ではあったが、青柳君と高井君の噛み合わせが殊の外良く、その都度深みの位置がズレ、いよいよ原作とこちらとで風合いが変わりそうだと言った時には、
「何を書いても癖が強過ぎると言われてしまうから、今回は当たり障りのない水が当然の如く軽やかに流れるようなBLという、逆に私には特別になる作品を書いてみたかったのだけれど、きっとそちらはもっと素晴らしいものになっているのね」
と直ぐに把握して、
「大西さんに頼んだんですもの、きっと私も最初から単なる普通にする気なんてなかったんだわ。手にしてもらうならやっぱり心に響くものが良いに決まってるものね」
と笑って褒めてくれた。
彼女は此処へ来た日に何かに触発されてこの場で台本にページを書き足した程だ。そしてその追加の文章は原作には使わないと言い切っていた。
その事に対して私は、高井君の存在はこちらだけの旨みにしておいてくれるという彼女なりの粋な計らいに思う。
そして私と彼女は話し合い、本とCDは「同じじゃない」という売り方にしようと意見が一致したのだ。
青柳君という役者の名前があれば、原作通りじゃないとしてもきっと非難されはしないという自信が、私にはある。
そこに今はまだ一般的じゃない高井君の真っさらな演技も付いてくる、聴いた人は「同じじゃない」という事を心で理解してくれるはずだ。
彼女は言った。
「感動したの。あんなに一人一人が才能を使ってくれているんだもの、私がたった一人、机の上で書いた物と同じなはずなんてないわ」
私はその言葉が何より印象に残っている。
「では、お願いします」
今は皆が同じ方向を向いている。
同じベクトルでこの作品の完成を目指している。
昨日一足先に此処を出た彼も、綾斗の父としての大きな存在のまま、この作品の最後まで高井君と青柳君の中に居るだろう。
林典隆は昨日、私と二人で高井君を待つ間に、高井君の事には特に何も答えなかったが、この古いスタジオに対しては一言「とても世話になった」と初めて心の内を私に聴かせた。
今では殆ど使われなくなっていたこの場所に対して彼がそう言った事で、私の中でも何か、例えるならそう、一つの時代が穏やかに終わったかのように感じられた。
私も彼も勿論まだまだこの先も続いていくのだが、これを最後に閉じるこのスタジオに荷を一つ降ろして行けるように思った。
私は目の前の背中達を見る。
私は今感じるこの一体感を取り戻したかったのかも知れない。
(これもまた、私の勝手な我が儘なんだが)
歳を重ねた私は幸い誰かにこっ酷く怒られる事が少なくなった立場だから、これから先も厚かましく好きにさせてもらうとしよう。
◆ 青柳 晃介
高井は今日、昨日までとは少し違っていた。
何か晴れたように明るい目をしている。
区切り。
高井は昨日そう言っていた。
{僕は父さんの了承も得て、やっと本当の意味で神城さんと付き合える事になった。だけど年末で仕事も忙しく、神城さんに岡山への出張が入ってしまったりと、あれからまだ二人っきりでのんびりとは過ごせていない}
『おっはよー岸』
『え?ああ…なんだ、お早うございます大月さん』
『おい!なんだって何だよ。俺の小悪魔ちゃんはまーた朝っぱらからご機嫌ナナメ?』
『だって…。忙しい!忙しいですもん!!』
『いや、お前PC立ち上げてもないからな?』
『うるさいです!』
『なんだあお前、どうせ神城さんがいないからだろおー?ん?素直に言ってみ?こりゃ、こりゃ、ホレホレ、小悪魔ちゃーん』
栖本がまたねちっこいアドリブを付けて、高井は一度すっとマイクから顔を背けて口元を押さえた。
『やめ、やめて下さい!』
『ツンツン、ツーンつん』
『やーだ。もう、や…ふふふ』
『ツーンつん』
高井は栖本に負けて笑ってしまったが、喉は綾斗のままで、ころころと可愛らしい笑い声になっていた。
俺の隣にいる司まで握った手を鼻と口に当てている。
『あの。もう、本気でしつこいです』
『あ…すみません』
{神城さんが帰ってくるのは3日後。明日は土曜のクリスマスイブで世間は盛り上がっているのに、僕が神城さんに会えるのはクリスマスの後だ}
『岸、お前今日どうすんの?』
『はい?聞こえませんけど』
『花金のイブイブだろ?彼女とデートすんの?あれ!?お前ネックレスしてないじゃん!あ…察したかも…』
『もー!!うるさい!!何で今そんな話するの!?』
『わー!ごめんって!痛い痛い痛いってば!!』
『このっ!このっ!この肩!肘!!』
『いてーーーー!!』
『こんなのこうしてやるんだ!!』
『え!何してんの!?』
『キーボードぉお!!』
『あー!ダメダメダメ!!壊れちゃう!PC壊れちゃうから!そんなにshift押し込まないで!!あと自分のでやって!?ねえ!?ホントお願い!!』
『やだ!僕だって!僕だってー!!』
『か!可愛い!可愛いよ!すんごく可愛い!!壊しちゃえ!全部壊しちゃえー!!』
いつの間にか高井と栖本のタイミングはぴったりと合っている。
『お早う…早いね君達』
司が低い声で入る。
橋下が勝手に小さく「ニャー」と入れた。
『ぶ、部長。猫さんも、お早うございます』
『おざいまーす!』
『そういえば神城君ってまだ帰らないんだったか?』
『はい…』
『そうか、うん。今日も頑張ろう』
『う…』
『はーい。頑張りますっ』
{部長が神城さんに行かせたんじゃないか!}
『もおーー!!クリスマスなのにー!!』
『ぎじー!ぐるじいおーーー!!』
大西さんが一旦切った。
『はいOKです。ねえ、そのコンビちょっとやりすぎじゃない?』
大西さんの言葉に全員が笑った。
「お前お前」
「栖本さんですよ。なんか猫も居たし」
高井は本当に楽しそうに笑った。
その後も会社での綾斗の様子を栖本や他の社員に扮する俺、司、二岡、橋下がギャグも交えつつ録っていった。
非常にスムーズだった為に、昼前に微妙な時間が余り、大西さんは高井に二箇所のモノローグの録り直しをさせて、それでもまだ余ったからと、高井と栖本に神城の視点で進むシーンで使えそうな、仕事中の何気ない会話をいくつかさせ、「勝手に次の作品に使っていいよね?」と欲を出して、外回り中の綾斗と大月が昼食を摂る店を言い合う会話にまで脱線した。
昼休憩には高井も入って自販機前で昼食を済ませた。
午前の収録中に小野江マリナからの差し入れで、いかにも拘っていそうなオレンジジュースが届いていたらしく、それも紙コップに分けて配られた。
「宣伝って、何をするんですか?」
高井がプリンを食べながら訊く。答えたのは司だ。
「とりあえず今日は最後に初回限定盤の特典のトークを録って、それぞれ日にちは違うだろうけどプレス用の取材を二つ受けるんだ。小野江マリナの名前もあるし、大西さんだし、色んな所から注目されてる。悠二は確か晃介とこのスタジオだろ?」
司の視線を受けて、俺は頷いた。
「一つは声優ファンの雑誌で、一番売り上げ効果はあると思う。ノリがちょっとアレで、晃介いるし拍車かかりそうだけど。お仕事だから頑張れ悠二」
「アレ…?」
高井は当然引っかかる。
「ちょっとした名物リポーターがいるんだ。クセが強いのなんのって」
栖本が言うと高井以外が「ああ」と苦笑いする。
「名物?」
「ミサキさんっていうBL大好物の人」
橋下がフンと先輩風を吹かす。
「大好物…」
「まあ、悠二も適当に合わせてあげて。喜ばせておけば後々強い味方だよ、ははは。で、もう一つはCDと言うよりは先生の方の都合らしいけど、本に挟むチラシ程度のものらしいよ。同時発売だからお互いにさ。悠二、社長からあんまり詳しく聞いてないのか?」
「あ…はい。すみません。多分俺はスケジュールとかないんで、行けって言われて行く感じだったからだと思いますけど」
高井は最後にぺろりと唇を舐め、二岡に言われプリンの器だった瓶を渡した。
「俺は二岡さんとたまたま同じ仕事があるからそこでインタビュー受けるんだ。ですよね?二岡さん」
橋下に言われて二岡が「そうそう。明日だったよね?」と言い、「明後日ですよ」と返された。
「俺もお前と一緒だよな」
栖本が司の瓶を受け取る。
「うん。サンキュ。俺らは明日の夜」
「収録済んだら早く帰りてーのにな」
栖本は嫌そうに笑いながら二岡が持って待っていた箱に瓶を入れた。
「じゃあ、皆んなバラバラなんですね」
高井が言い、栖本が頷く。
「そっか…」
「雑誌の取材だが、俺とお前は簡単な撮影もあるぞ?」
俺が言うと高井は「え?」と言う。
「大丈夫か?お前の会社」
栖本が本気で言い。俺は何も知らない高井を笑わないように気を遣う。
「ああ…まあ、普段から動画あるし写真とかなら別に改めて言うつもりがなかったのかも。それに俺はプロの肩書きないんでそのあたりは皆さんとは違ってても当然なんで。NACもまだ出来たばっかりで」
「仕事は仕事だろ?どんな仕組みか知らねーけど、バイトみたいな感じならちゃんと貰うものは貰えよ?最初が肝心だ」
栖本は損をしたならそれは自己管理が悪いんだと高井に細かく言う。
頷きながら聞く高井に「大変だね」と二岡が笑った。
すると高井は俺を見る。
「何だ?」
「青柳さん明日って何着るんですか?衣装?」
「別に写真集じゃないんだ、普段着よりちょっと小綺麗にしてれば良いんだよ。撮っても二、三枚だ。お前なら今日着てるそのシャツでもいいだろ」
高井は「ふーん」と頷きながら前髪を触る。雑誌の取材がどういうものなのかあまり知らないのだろう。
「その場で言えば簡単にメイクもしてくれるよな?」
司だ。それに答えたのは二岡。
「多分。メイクしますか?って訊いてくれるよねあの人達。僕も時間があったから一回だけして貰ったよ」
そこに橋下が「してくれますよね」と相槌を打つ。
高井は今度は「へー」と言ってから、
「だったら、二人でスーツにしませんか?」
と俺を見る。
「スーツ?」
「はい、神城と綾斗っぽく。社内恋愛系だし」
高井が言うと二岡が賛成した。
「それいいよ!そうしなよ。カッコイイと思うなー」
「似合うからなーこの人。そういうの」
栖本は俺を見て「あーあ」と言う。
「そーだ。だったらさ、僕あとで二人にアレ買って来てあげるよ!そこの文房具屋で!」
「アレとは?」
俺が二岡を見ると、二岡は両手で四角を作る。
「ネーム?あるじゃん!」
「ああ…首にかける社員証ですか?」
高井の言葉を聞いて漸く皆が「あーはいはい」と頷く。
「要るか?」
「要るよ青柳さん!小道具って雰囲気出るよ。中身も作りたいけど間に合わないから外だけ」
「え、二岡さんが買って来てくれるんですか?」
「うん。任せて」
二岡は一人で楽しそうに笑っている。
「俺らは撮影ないけど、ビジネススーツなんてみんな持ってんの?」
栖本だ。
「どっかにある、と思う」
司が肩を竦めた。
「俺も三年くらい前に一応買いましたよ、面接用で」
橋下がスマホで写真を探すも、
「あ…ガチのビジネススーツとかダサいからダメですよ?」
高井が急に一刀両断。
「は?じゃあ何着るの?」
栖本が突っ込む。
「それっぽい崩したスーツです。ドレッシー感のあるジャケットっていうか。大人っぽい系で」
高井が言うと「ほー」と皆が遠い目をした。
「青柳さんは分かりますよね?元モデルだし」
「まあ、何となく言いたいことは分かるが…シャツは着るのか?」
「はい。俺は綾斗っぽく堅めの白シャツ着ますけど、青柳さんはカラーでもいいですよ。黒とかカッコイイし。宜しくお願いします。ネクタイは狙い過ぎなんで無しで。その代わりカフスとかのアクセは忘れないで下さいね」
服の事となると高井は拘るタイプらしい。
急に良く喋る高井に、他の皆は面白そうにしている。
「じゃあ適当に持って来るから、お前も早く来てお前が合わせろ」
「はい。あ、ついでにヘアメイクも俺がするんで」
「え!?お前がすんの!?メイクさん居るってくだり聞いてた?」
栖本が突っ込んでいるが、高井は全く気にしていない。
「あ、ちょっといいですか?」
高井は妙にテキパキと立ち上がって横に来ると、俺の髪を数カ所つまんだ後、顔の鼻下辺りに手を翳して上半分下半分を確認し、両手の人差し指を耳朶の位置に置き全体を見てから「分かりました」と言った。
「何の確認だそれ…。お前のスイッチどこにあったんだ?」
栖本の小声に俺はまた笑いを堪えながら高井に確認する。
「美容院行かなくていいのか?」
「あ、行かないで下さい。その長さでアイロンでもっと動き付けるんで丁度良いです」
「晃介いいなー。なんか楽しそうだなー。俺も来て撮って貰おうかな」
司は口を尖らせた。
「お前って、声優しないんだったらそっちの方、向いてるんじゃないの?」
栖本が高井に適当な仕草で指をさす。
「え?」
「モデルとか、そういうの?」
「俺が、ですか?」
高井が何処か呆然と反応する。
それを見て、俺は何故か少しーー。
「モデルって言っても、何処を目指すかにもよるが、今ある雑誌に載るだけならその声を使ってた方がいい。お前の場合、もう声で名前を売る最初の段階はクリアしてるんだからな」
「あ…」
高井は俺を見るが、俺はついその緑の目から目を逸らした。
「そうなんだ?青柳さんが言うならそういうもんなんだろうな。だな。声は…まあ?いいしな。並みにはな」
栖本も納得した。
「そうだな。けど悠二なら何でも出来るよ。若いし綺麗だし、演技も出来るんだ。この仕事をきっかけに将来を拓けるさ。何でもやってみればいいよ」
司が言い、二岡が「うんうん」と頷く。
「ありがとう、ございます」
高井は僅かに照れたように俯いた。
「もし声優になったら、名前くらい貸してあげるよ」
橋下はいつもより顎を上げて言った。
「いや、別に貸してくれなくていいんで」
「な!?ムッカツ…!こい…!」
「あははは!これもネタなんだよね?面白ーい」
二岡はのほほんと栖本を見るが、栖本はスマホを見ている。
「え…栖本君?」
『よっしゃ!帰るか!』
『お疲れ様でした大月さん。財布、忘れてますよ』
『あ…。なあ岸、今夜だけどよ』
『何です?また腕固めますか?』
『あー、取れちゃうからいい。ははは…。そだ!帰りにみんなで飲み会でもするか!』
『え?…ホントですか?』
『そうそうそうそう!俺は明日の夜が本番だし、今日は西川と飲む約束しててさ!…西川、じゃなかったかも知れないけど、えーっと、ま、誰かいるだろ。パーっとやろうぜ!』
『ホント?』
『ホントホント!な?だから元気出せよ?』
『はい!』
{あの後だし、イブもクリスマスも家に居ると言ったら父さんが気を遣ってくれそうで申し訳ないと思っていたけど、大月さんの気遣いで今夜は心配させずに済みそうだ}
『キマリ!ほらヒマな奴全員に声掛けようぜ。俺、先に帰りそうな奴呼び止めてくる』
『あ!待って下さいよ!えーっと抽斗の忘れ物…は無いかな』
{そんなとき}
『うお!え!?神城さん!?』
{大月さんの大きな声で、僕は条件反射で立ち上がっていた}
『大月か、お疲れ』
{神城さんの声がしただけで泣きそうになってしまう}
『きーし。神城さん帰って来たぞー』
『あいつ中に居るのか?』
『居ますよ?』
{オフィスで飛びついて行く訳にも行かず、大月さんと一緒に入って来る神城さんの姿を見て立ち尽くした}
『お疲れ。ん?どうした綾斗。帰る準備出来たか?』
『神城さん…』
『今日岸と飲み会しようかって言ってるんですけど、神城さんどうですか?あ、やっぱ女?』
『あ!ちょ…大月さん!』
『飲み会?』
『岸が彼女と別れたっぽいんで、その、みんなで』
『別れた?』
『ちょ!ちょっと余計なこと言わないで下さい大月さん!それは誤解で!』
『何だよ、お前だって神城さんもいた方が元気出るだろ?』
『いや…その…』
『大月、俺が面倒見るから帰っていいぞ』
『え?』
『お疲れさん。帰れ帰れ』
『あ、そう?じゃあ、まあいいか。岸、神城さんいるから良いだろ?俺帰るわ』
『あ、はい。さよならー』
『さよなら!?』
『さっさと帰れ』
『えー!!酷くない!?って、まあいいか!そいじゃ、お疲れ様でしたー!じゃな岸!』
『お疲れ様でした!』
{あっという間に神城さんと二人きりになってしまった}
『か、神城さん。早かったんですね。まだ数日かかると思ってました』
『迷惑だったか?』
『そんなこと!…ない、です。嬉しい…です』
『何か食いに行くか』
『はい!』
『あ、そうだ。これ、直しておいたぞ』
{神城さんのコートのポケットから出てきたのは神城さんに買って貰ったネックレスだった。そっと僕に付けてくれる}
『拾っててくれたんですね、良かった…。僕、壊してしまって…ごめんなさい』
『綾斗』
{神城さんが僕の腕を掴んで、僕もその腕の中に飛び込みそうになったけど…}
『ここじゃ、マズイな』
『ですね』
『何が食いたい?って言っても近場の店じゃ会社の連中に会いそうだな』
{神城さんは少し離れた店の名前を一つ一つあげてくれるけど、僕は食事なんかより、周りを気にせずに神城さんと落ち着いて過ごせる場所に行きたかった}
『どれがいい?聞いてたか?』
『あ!えーと…そ、そうですね。じゃあ…スペイン料理にしませんか?』
{神城さんに急に見つめられて緊張する僕}
『神城さん?イタリアンに…します?』
『とりあえず、キスくらいするか』
『え…?』
綾斗の緊張した声を聞きながら、俺はふと、高井と初めて会った日を思い出した。
ネックレスを喜んだ高井の横顔も。
そして高井が「全部綾斗になりたい」と、俺の前で切実に祈ったあの夜の事も。
台本はあと少しのページで完結する。
しかし、そんな時だ。
『ん、あおにゃ…。すみません』
高井は、やらかした。
『高井君。神城さんだよね?』
大西さんが即座に入ってきた。
『すみません』
高井はマイクを見たまま謝った。
「うわあー!!キスシー…うーわ!!ないわー!!それは!!」
栖本が後ろの椅子から本人よりも赤面して叫ぶ。
高井の肩が笑いで震える。耳が真っ赤になっていた。
『青にゃぎさんじゃないよね?神城さんだよね?高井君』
『すみません、もう一度お願い…ます』
「うーわ…うーわ!めっちゃ恥ずかしいぞアイツ…!ひひひ!」
「うーわうーわうるさいぞ哲平!」
『神城さんだよ?』
『すみません』
「大西さんもしつこいよ」
司は必死で高井を庇うが、俺と目が合うと台本で顔を隠し、隠しきれていない口元は明らかに笑っている。
「おいド素人、俺まで恥ずかしいんだが?」
俺が言っても高井は振り向きもせず、
「すみません」と桃みたいな頬で真剣な顔を繕って咳払いする。
「えー。あの人ここでやらかすの?信じられないんですけど俺」
橋下もごにょごにょ言っている。
「ここまでずっとスムーズだったのにね?ふふ!僕これで5年は笑えるな」
二岡は楽しそうだ。
「青にゃぎさんって…ぐ!はっず!絶対やっちゃいけないやつやったぞ。ひひひひひ!」
「…ふ!悠二はいいの!」
「えー。高井さんホントありえない」
高井が気を取り直す間も、後ろではそんな冷やかしが止まなかった。
そしてラスト目前のシーンでは俺と高井だけになった。
『隠すな綾斗。初めてじゃないだろ』
{神城さんに触れられると簡単に蕩けそうになる僕の身体。もっと分からせたいのに、僕がどんなに待っていたか。神城さんだけを想って…}
『だって僕…忘れちゃっ…忘れちゃったも、あっ…』
『忘れた?』
{いじわるしたいんだ、少しだけ…。神城さんには敵わないって分かってるけど…}
『神城さん、すぐに…いなくなっちゃったから』
目に浮かぶのは水彩画の綾斗だ。
綺麗な顔をした青年で、華奢な身体。
いつもは生意気な目を今は初々しく潤ませて、小動物が尻尾を上げて甘え付いて来るような透き通る愛らしい声を出す。
『忘れちゃった…もん…』
『可愛いな、お前は』
『かわいくなんて…』
『なら思い出してもらうしかないな』
『え、ゃあ…!そんなに…しないで…!や…恥ずかしい!』
『可愛がってやるから、素直になれよ…』
『や…あぁ…神城さ…』
『いっぱい触らせろ』
何をしても感じて鳴く愛しい綾斗。
『ほらもっと…高く上げろ。もっとお前を…』
『ぁ…ああっ…もう、そこ、さわらないで…』
『ん?』
『僕もう…早く繋がりたい…』
『そんなに欲しがって、ちゃんと最後までもつのか?』
『だって、ずっと待ってた…。神城さんが帰って来てくれるの…』
『綾斗』
『神城さんは…?平気でしたか?僕と離れてても』
『平気なら急いで帰って来てないだろ?』
『え…急いで?』
俺は神城の声に下手な甘さは捨てた。
『お前に会いたくて、死ぬほどスケジュール詰めて仕事終わらせて帰って来たんだ。お前を抱きたくて…それだけを考えて』
素直な発声で、真っ直ぐに届けばいいと思った。
『あ…。あ!』
『綾斗…』
『神城さ…!んっ…ん、あっああ…』
綾斗は今までにない程、甘く感じ入るような声を上げた。
神城は真っ直ぐに、ただ綾斗が欲しいとだけ熱く伝わるように。
『痛く…ないか?』
『大丈…ああっ…神城さん!だめ…僕!』
俺はふと高井を見た。
高井は顔を赤らめることはないが、長い睫毛の目を閉じて迫真の演技をしている。
俺が何故今日はすんなりと絵画の綾斗を想像出来たのか、それはそういう事だった。
高井は綾斗を着ていた。
昨日俺に言った通り、綾斗になっているのだ。
『ああ!そんなに…!やっ…やだ!恥ずかしい…!』
『愛してる、綾斗』
『いまは、だめ…!』
『お前はどうだ?』
『あ!…てる…!愛…してる、神城さん!』
{神城さん、僕の大切な人…。ずっと、ずっと一緒に…}
足りない、そう思った。
『綾斗』
俺はキスをする。
高井は息を整える演技の途中でも直ぐに対応した。
『足りないぞ、まだ』
俺が台詞を足すと高井はどうするのかを視線で問うて来る。
『綾斗』
俺は「続けろ」と台本を閉じて高井に見せた。
高井は少し、微笑んだ。
『あっ!…なに?』
綾斗が驚いて照れたのが見えるようだ。
『一回で済むと思ったのか?自業自得だ』
『自業…んっ…まって、ああ…まだ動かないで…かみし…あ!だめっ!』
高井は一段、声を高くした。
ぞわっとくる感覚。
『まって!ま…!まって!んんっ!…って…とまって…!ああぁ…』
徐々に快楽に追われて切なそうな良い演技だ。いつの間にか自然に裏声に入っている喉の使い方は歌が上手い高井の特技なのかも知れない。
その上、高井は疲れると声が鼻にかかる。それが切羽詰まった綾斗が肉体に酔う様を、よりリアルに表現した。
所々透明な水の中に居るように籠り、俺が呼び掛ければ鮮明に浮上する。
綾斗を得て、神城が身も心も満たされるのを感じる。
『愛してる、綾斗』
今までに何度も始まりと終わりを繰り返して来た俺は、
今日初めて「一つの作品の結末」を迎えたような気がした。
『はい、とても良かったです』
大西さんが珍しく褒めた所で司達もブースに入って来る。
俺は一言声を掛けてやろうと高井を見るが、高井は少し俯いて台本の表紙を見つめていた。
その後、クリスマスも終わった月曜日に、機嫌が良かった綾斗がひょんな事でうっかりを起こし、大月にだけ二人の関係がバレてしまうという展開でこの物語は完結となった。
『えーと、本編はこれで全て収録終わりました。皆さん本当にお疲れ様でした。あとはトークだけだから向こうで録ろうか。皆んなで座ってね』
大西さん達が全員立ち上がってこちらに向けて拍手をし、俺達からも向こう側へ拍手をし、労い合った。
「高井、お疲れ様」
色々とあったが、主人公を演じきった高井にはやはり何か言葉を掛けようと呼びかけたが、顔を上げて振り向いた高井は何処か切ないような表情をしていた。
さっきまで皆と笑って祝っていたはずなのに、今見る高井の目はまた冬のイルミネーションの様に点っては消える。
或いはバッテリーの残量が無くなった機械の様に静かで、物哀しい。
それを見て俺は何も言えずにいたが、
「お疲れ様でした」
すっと唇を笑わせて高井は返してきた。
「本当に、ありがとうございました」
あの夜と違って、高井のそれはもう、俺に頼っては来なかった。
俺は今朝目が覚めた時点で、この瞬間を予感していた。
◆
俺と皆んなは少し狭いブースに窮屈な感じで入り、座って初回限定特典のコメントを録った。
『はい。お疲れ様でした。これで本当に終了です。ありがとうございました』
大西監督の声に全員で「ありがとうございました」と返した。
『高井君、皆んなに一言、何かあるかい?』
「え!?」
俺は焦った。
「何か欲しいなー、悠二から」
三条さんが肩に寄り掛かって来て、三条さんらしい淡い香水の匂いがした。
「フツーは何かある。うん、フツーはな?」
栖本さんが向かいから「何か言え」と圧を掛けてくる。
「お疲れ様でした。で、いいんだぞ?」
青柳さんがその横で笑っている。
「あ…」
俺が口を開くと、
「え?もっとありますよね?フツーは。俺一番最初の時、栖本さんからめっちゃ虐められましたよ?」
橋下さんだ。
「人聞きが悪いだろ?イジリはイジメじゃないんだから」
栖本さんが二岡さんに「なあ?」と言うが、
「度を超えるイジリはイジメだよねー」
と二岡さんが微笑む。
「そうですよ」
橋下さんは踏ん反り返ってから俺を見る。
「なーんにも無いの?高井さん」
「…じゃあ、いいですか?」
俺も感謝を言いたいと思っていたから、少し姿勢を正した。
「本当にご迷惑ばかりお掛けしましたが…。大西監督達や林さんも含めて、皆さんのおかげで何とかこうして綾斗を最後までさせていただけました。感謝しています。自分で思い出すのも恥ずかしくて苦い経験でしたが、ここに来られて…今ここに居られて、凄く嬉しいです。本当に…本当に、ありがとうございました。お世話になりました」
俺は出来る限り深く頭を下げた。
「よ!」
栖本さんの声で、皆んなが拍手をくれた。
『私からももう一度、皆さんと高井君にお礼を。ありがとうございました』
大西監督も頭を下げた。
また全員で拍手をして、この作品は本当に終わった。
『さ、いつ帰ってくれても良いよ。ご自由に。あ、お菓子やジュースは全部分けてでも明々後日までには持って帰ってね。それと高井君、後でで良いからちょっと私の所に来て』
「はい」
大西監督達が居なくなると少し空気が緩んだ。
「ダメ出しか?」
栖本さんが青柳さんに苦笑いで言う。
「さあな。別に行かなくてもいいぞー高井」
青柳さんが伸びをして「それはダメだろ」と皆んなが突っ込む。
「じゃ、俺」
俺は大西監督の所に行こうと立ち上がるが、
「モデルなんてするなって言ったが…」
青柳さんの声に顔を向ける。
「俺が嫌だっただけだ。確かにお前は表に出る仕事も向いている。その方が儲けるのは早いかも知れない。お前は何でも出来る、興味を持てるものは何でもやれよ?」
「…青柳さん」
「でも、今回の経験も無駄にはしないで欲しい」
そう言って俺を見る青柳さんは、青柳さんにしては弱い目をしていた。
「そうすれば、またいつか会えるかも知れない」
今は笑顔だ。
俺は「また今度」と言ってくれる青柳さんが、やはり好きだ。
胸の奥が痛くて笑顔で誤魔化す事しか出来なかった。
「ありがとうございました」
何でも出来る。
でも俺は、青柳さんにとっての何者でもないーー。
「ああ、君達。ちょっと下行ってお茶でも飲んで来たら?」
大西監督の所へ行くと、思っていたより早く訪ねてしまったのか皆んなが作業の途中で退席させられてしまった。
「時間取らせて悪いね。座ってくれるかい?」
「はい」
俺は最初の打ち合わせと同じ席に座った。
「うん。あのね、君は今回、私に結構迷惑をかけたよね?」
大西監督は指で鉛筆をくるりと軽く回した。
「…はい」
「こんな事ってこの世界の常識なら…」
大西監督は首を振る。
「はい」
俺は叱責も当然だと気を引き締めて大西監督の目を見る。
「だからさ、約束してよ」
「約束…ですか?」
大西監督は静かに鉛筆を置いた。
「うん、そう。今後私が君のその声を使いたいなと思った時に、君は必ず私に協力すると」
「え…」
「今のクオリティを最低限として、それより落とさないで維持しておくこと。約束出来るかい?」
大西監督の意図が掴めない。
俺が反応に困っていると、それを知って大西監督はゆっくり話した。
「ちょっと、長い無駄話に付き合ってくれるかな」
「え?はい」
「君は声を上手く使えているが、声というものを多分そこまで深く考えた事は無いんじゃないかと思う」
俺はそう言われてもまだ少し掴めずに何となく頷くだけになってしまったが、そんな俺の反応こそが大西監督の質問への答えだったようだ。
「うん。声っていうのは面白いモノでね。目には見えないし、近付かなければ相手のそれを知る事すら出来ない。それなのに何よりもその人らしいモノだ」
「はい」
今度は素直に理解出来た。それはきっと今回の仕事の後だからだろうと思う。
「うん。でね、男が男になる時…ああ、声変わりね。声変わりをすると必ず失われる音がある。女の音かと言われればそれとも違うんだが。変わってしまえばもう戻らない音だ。少年の時に大人になった時の土台となる声に付き添うように、点が連なる線のようにある音だと私はイメージしているんだけれど」
「点、線…?」
「そう、自分が失われるのを承知しているキリトリ線のようにね。君にはどうしてかその音が残ったままだ。君の身体から見てもたぶんもう失くす事は無いんだろう」
「俺に?」
「君が色んな声を出せる仕組みはその点の線にあるんだと思う。これはこの数日間君の声を聞いていて、私が勝手に導き出したものだから正確かどうかは分からないんだけれども」
俺は興味があって前のめりになる。
「君が声を荒げても煩くないのも、男のキャラクターで色っぽい声を出してそれを聴いた男が不快に思わないのも、全部そこに理由があると思うんだ。君の声にずっと透明感を感じるのはその点が聴こえて来るからだ」
そう言われて、大西監督は俺にこうして何か自分なりの答えを手渡す為にずっと俺を見ていてくれたのだと知った。
「君は本当に不思議だよね。そして恵まれている。その音は、男からしても女からしても、耳にしてとても澄んで心地良いものだ。人ってのは失ったモノや自分に無いモノを求める生き物だからね。それは君の大きな武器だ。物事ってのは必死になれば努力である程度は手に入れられるが、「持って生まれたモノ」というのは実際に存在する。君は「持っている」んだからそれをもっと使ってやらなきゃいけない」
俺は今、何か夢に胸を膨らませる様にして大西監督の言葉を聴いている。
大西監督の事を、本当に自分を知ってくれている人の様な気になっているのかも知れない。
「いつもより高い声を出したりしてその点を線にして自分のものにするんだ。
もっと本腰入れて声の演技を練習しなさい。君の場合、自己流で構わないだろうし、その方が良い。昨日今日で他人に理解されるものではないからね。明日から!と、急ぐ必要もない。
だけど、君がもっと自分の声を認識すれば、必ず君はもっと確かな存在になる。マイクの前で役を見失う事もなくなる。そうなれば、君はもう素人ではなくなるよ」
「はい」
この数日間、色んな人が色んなものを俺にくれていた。
「その台本、持って帰っていいよ。本当はこっちで回収するか、個人でシュレッダーにかけるものなんだけど、黙っててあげるから。記念にね。良い役だったよ綾斗」
「はい。…ありがとうございます」
「うん。青柳君にはなれなくても、君の良さは必ずある。それは青柳君でも持っていないものだ」
「はい」
「君はまず、「真似事だ」と言うのをやめる事からだ、高井君。プロというのはね、「自分」で勝負する覚悟をした者の事を言うんだよ。環境の話じゃないんだ。「自分」だ。胸を張る。君の周りの人達もきっと色んな覚悟をして配信をしているんだろう。私はそう思うよ?」
「はい」
「それと、もう少し他人を信用しなさい」
目頭が熱くなるのを、大西監督は気付かない振りをしてくれる。
「二十数年間頑張って生きて来た君にちゃんと魅力を見つけて側に居るんだから、そんな人達が間違っているはず無いじゃない」
「はい」
「無理をしなくていい。ゆっくりでいいんだ。君はまだ若いんだから」
「はい」
大西監督は、初めて俺に柔らかく微笑んだ。
「声の仕事を続けていて欲しいけど、そうじゃなくても、私が呼んだら来てくれるね?」
「はい。必ず」
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「はい。本当に、色々とありがとうございました」
俺は立ち上がって深々と頭を下げる。
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「ねえ高井君、君さ、この名前のナレーターを知っているかい?」
大西監督は自分の手の平に不自然に貼り付けるようにした一枚の名刺を俺に見せた。
俺は近付いて良く見る。
緒山 実
「おやま…みのり?いえ、知りません」
「あっはははは!そうか、んー!ふはははは!そうかそうか」
大西監督は急にけらけらと大笑いし、何度か机を叩いた程だった。
そして、
「あーぁあ。うん。ね、この世界は面白いよね」
俺が部屋を出る時にふと見ると、
大西監督が面白そうに眺めている手の中では、まるで手品のように名刺が二枚に増えていた。
「あ、もう済んだ?」
二岡さんが録音室から出て来た。
ドアが閉じる前に、その後ろで何か盛り上がっている皆んなの様子が少しだけ見えた。
「はい。どうぞ」
「はーい。あ、高井君もまだ中に入ってたら?皆んな雑談してるから。面白いよ?」
「あ、はい」
二岡さんはまたにっこりと俺に笑ってからノックをして大西監督と話しをしに入って行った。
俺は二階の廊下に立ったまま、大西監督が回収を許してくれた三冊と一冊の台本を見る。
小野江マリナのこの作品のタイトルは、
【Resetーすべては貴方に逢うための永い道ー】
だった。
「終わったんだな…」
今は台本というよりも、好きで使い込んだ古いタオルの様だ。
胸に抱いて目を閉じる。
「お疲れ、綾斗」
泉が小さく光って揺れたように感じた。
(さよなら綾斗。ありがとう)
少しの間そうしてから、俺はロッカー室に行って台本をバッグに隠そうと思ったが、その時にふと、ロッカー室前の床に箱が置いてある事に気が付いた。
『台本はこちらで処分しますので入れて下さい』と箱に書いてあった。
中には皆んなが先に入れたのだろう台本がある。
俺は青柳さんの台本にはどんなメモがあるのだろうか、そんな事が気になった。
一番上にある台本には追加の冊子が挟まっている。
それがあるのは俺と青柳さんのものだけだ。
(取り替えたら、バレるかな…)
箱に近付くに連れて、鼓動が速くなる。
俺は伸ばした手でロッカー室のノブを掴んで中に入った。
(やめておこう…)
自分の台本をバッグにしまう。
(もう、終わったんだから)
丁度その時にスマホが揺れた。
「平井さんか」
俺は今なら構わないだろうと思い、着信に答えた。
正直に言えば、今の気分を何処かへ追いやりたかったからだ。
◆青柳 晃介
「え?高井君、打ち上げ行かないの?」
「すみません。迷惑ばっかりかけたし、もうこれで。本当に、礼儀知らずですみません」
俺が荷物を持って、手洗いついでに戻りが遅い高井と二岡を探して玄関前に向かうと、丁度そんなやり取りが聞こえて来た。
「でも!あ、普段なかなかこういう打ち上げとかしないんだ、このメンバーが全員揃ってご飯なんてまず誰も言い出さないし。大西さんだって後から来るって言ってたし。高井君がいないと…その…」
「すみません…」
「あ…まあ、急に決まったし誰も怒らないけどね。でも…」
「じゃあ、俺もう行きます。お世話になりました」
「ちょ!せめてみんな降りて来てから…」
「二岡さん。初日、声掛けてくれてありがとうございました。無愛想で、すみませんでした」
「え!?僕そんな事言われたら泣くよ!?」
「ああ、それはちょっと」
「ええ!?」
高井は少し笑った。
「あー。ひどいなー。ありがと高井君」
「じゃあ、お疲れ様でした」
高井はゆっくりと丁寧に頭を下げてスタジオを出て行った。
「待ってよ…」
二岡が困り果てて居ると駐車場に一台の車が入って来た。
「あ!びっくりした!青柳さん!帰っちゃたよ高井君…」
俺は二岡の横に立って高井の前に降りてきた槇と三山を見る。
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槇は笑顔で声をかけている。
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(何だ…?)
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「どうしたって、迎えに来たんじゃん?YUJI、サラッと帰りたいだろうと思ってさ」
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高井は笑っている。
「よ!YUJI。終わったのか?」
三山も槇の横に行って、車に乗るように言っている。
「うん、まあ」
その時またその向こうに一台の車が、駐車場には入らずに停まった。
「青柳さん、あれ誰かな」
二岡と俺のように、三山と槇もその車に一度視線を取られている。
そっちの運転手は降りて来ない。
「来てくれたのにホント悪いけど、俺もう行くよ。約束しちゃってごめん」
高井は槇に言う。
「…行くって?どういうこと?」
そう不安そうにした槇の表情。
「三山さん。また改めて連絡します。まだ今の仕事残ってるし」
三山は何も言わず胸の前で軽く腕を組んだ。
「じゃあMAKI、コラボの企画頼むな。明日辺りに日にち決めようぜ。電話する」
「YUJI?」
「せっかく来てくれたのに。ごめんな」
高井はそう言って奥の車を見る。
高井はどうやらNACの車ではなく後から来た車に乗るようだ。
細い首と、背中。
何もなかったように、何も感じていないかのように当然と歩く高井の足。
「ほんと…何なんだろうな、あいつ。苛つかせる奴だ」
「青柳さん?」
辞めるとミキサー室を出て行く時や、俺が断った時の、あの高井の目。
どう思っていたのだろうかという俺の予測を、今の高井は全く見当違いだとでも言うようだ。
高井が自分の事を話した夜の、酔って心細そうに甘えてきていた残像でさえ、今はもう現実ではないようだ。
「狐は逃げる気だ」
全てを、幻にして。
「きつね…?なんのこと?」
美しく媚びた事だけを消して、穴の入り口を寄せて塞いで「現実らしい現実」だけを縫って繋げるのだろう。
そうして歩いて来たから側からは高井の中身が見えない。
高井は自分が切り取ってしまった穴に、誰も残って居ないと思っている。
自分一人だけが夢を見て眠った穴だと思って捨てるのだ。
「勝手すぎるだろう、それは」
TAKAと呼ばれる配信者の事を思い出す。
あれは俺のように高井の癖に気づいているに違いない。
高井の一体どの部分の穴に落ちたのか。
その夢の種類は分からない。
他にも何人もいるのかも知れないし、車の運転手が現在進行中の相手かも知れない。
きっとあの車の運転手は、「平井」という名の男だろう。
「あ、青柳さん?」
◆
「いいの?」
平井さんは俺が車に乗るなり聞いてくる。
「うん」
俺はさっきの平井さんからの電話で相談を聞いて欲しいと頼んだ。
今思っている事を、ここで感じたものを、また手放してしまう前に誰かに聞かせて自分で自分のものにする為だ。
柔らかいふわふわとした気持ちを明確にする為だ。
今というタイミングが、自分という人間を確定させる時期なのだと気付いたからだ。
ぐちゃぐちゃで纏まらない恋心も、ちゃんと俺の居場所だった。
人生で一番感情的だったこの数日間は大事な日々だった。
貴重な時間だった。
それをちゃんと言葉に表して、誰かに聞いて欲しかったのだ。
(これでいい)
それなのに、
「じゃ、出すよ」
「うん」
シートベルトを引き延ばしたその時だった。
俺の顔の横で窓が鳴った。
ノックしたのは、青柳さんだった。
俺は一度は驚いて躊躇ったものの、申し訳ないがこの後の打ち上げに出られる気分ではなく、目を見る事も出来ず「お先に失礼します」と小声で一礼するだけだ。
礼儀知らずで構わない。最初からそうだったし、明日もう一度会えばそれ以降は関わる事もない。
明日もう一度最後に青柳さんに会う前に、何とか整理しておきたかった。
しかし、平井さんに車を出してくれと頼む寸前、ドアが開けられた。
「え…」
手首を掴まれて外に出される。
「お前が影の功労者か?」
青柳さんは中を覗き込んで平井さんに言った。
「青柳、晃介?」
「ご協力感謝している」
突然の事に驚く平井さんに対して、いつもの営業用の笑顔もなく言い、
「あとはもう結構」
青柳さんは俺を引いて駐車場へ引き返す。
「ちょ…青柳さん!?」
「来い」
「なん!ちょ!待てよ!ちょっと!」
俺は青柳さんに引っ張られるまま三山さんとMAKIの前を通って青柳さんの車の前まで連行された。
「あれ、YUJI?」
聞こえたMAKIの声も、驚いたような、間の抜けたようなものだ。
「青柳さん!」
「乗れよ」
「な、なんで?俺打ち上げは行かない」
「乗れ」
目の前でドアが開き、手を放される。
(どうして?)
俺は青柳さんの顔を見てしまった。
「俺…もう」
「何だ?」
胸が詰まる。
「もう綺麗さっぱりってか?高井」
「青…」
「早く乗れ」
背中を押されるがまま、俺は青柳さんの車に乗ってしまった。
駐車場を出ても暫く、青柳さんは何も言わなかった。
「打ち上げ、ホントに行きたくないんだ俺。仕事だって言われても、行きたくない。明日はちゃんと来るし!」
こうして青柳さんとドライブした事を思い出す。
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たった今は、告白なんてした事を悔いている。
「告白、の件なら、どうか忘れて貰えませんか?申し訳ありませんでした」
「怖いのか?」
青柳さんは前を見たままそう言った。
(怖い?)
責められるのも、嫌われるのも怖い。
青柳さんにだけは、怖い。
だけど、それなりの事をした。
窓の外を流れる景色。
真夏の夕暮れ。
音楽の無い青柳さんの車内は酷く静かで、懺悔の間か何かのようだった。
「いいえ」
この行き着く先が何処で、何が起こるのか。
「平気です」
青柳さんが少し動いたような気がしたが、俺は固まった身体を動かせずにずっと窓の外を見ていた。
どれくらい経ったのか、車は黒っぽい大きなマンションの駐車場に入った。
「降りていいぞ」
青柳さんは言いながら先に車を出て俺の窓の横に立った。
俺は助手席で、全く動けなかった。
この場所が青柳さんのプライベートな空間であると、何となく分かってしまったからだ。
(だめだ。帰らないと)
指先か肩が震えてしまっているように感じた。
(これ以上近づきたくない)
俺はまだ、好きなのだから。
顔を伏せたまま感じる青柳さんの気配。
ずっと俺が車から出るのを待っている。
「話しならここで…」
だが青柳さんはドアを開けた。
「来い」
「帰る、俺…!」
「駄目だ」
「俺まだそんな余裕ない!あんたとこんな所で話すことなんてなにもない!」
「俺にはある」
「返事はもうもらった!もういいって!」
「騒ぐな」
そう言われて口を閉じると、俺は広い駐車場を見渡す。
幸い、誰も居なかった。
「来いよ」
手を引かれて、パニックのまま俺は青柳さんとエレベーターに乗った。
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