ネイビー トーン

輪念 希

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◆ 青柳 晃介

俺が階段を降りて自販機前を通る頃、奥の仮眠室から高井が肩にタオルをかけて遠征から帰るスポーツ選手か何かのように出て来た。
「あ」
「そう言えば、もう大丈夫なのか?」
「はい。ご迷惑お掛けしてすみませんでした」
何やら無表情で、また少し事務的な口ぶりだ。
「ああ」
「お疲れ様でした」
「お疲れ様」
財布を出した高井。俺は飲み物はコンビニで買う事にして先にスタジオを出た。
すると3台の車が連なって駐車場に入って来る。
(…面倒くせーな)
俺はそれが何の団体なのか知っている。
ドアが開いて乗っていた者達が伸びをしながら降りて来る。
今回の作品に楽曲を提供する作曲家、徳井 修とそれと仲の良い芸能プロダクションの重役木樋 勝きど まさるら三人、俺や大西さんとも別の仕事で何度も一緒になった演出家、呉武 夏生くれたけ なつき。そして次に俺が当たるシリーズもののアニメで総監督をする倉持 伊助とその連れが二人駐車場に居た。
彼等はいつからか「呉武会」と呼ばれていてメンバーは特に固定されてはいないようだが、基本的には呉武夏生の「悪意のない友人会」だ。
方々の業界でもこの存在を知っている者は知っていて、知らない者は全く知らない、という感じだろう。
俺にもいつからか時々誘いが来るが毎回断るのも悪い為、合間に座りに行くだけ行っている。
「やあ青柳君」
呉武さんが俺に手を上げる。
「呉武さん。どうしたんです?お揃いで」
「今夜近くで遊ぶ予定だったんだが、ここで君が仕事してると聞いてね。山口に電話したら今日はまだ仕事中だって言うし君を連れ出しに来たんだ」
呉武夏生は大西さんより一つか二つ歳下で、特に仲が良い友人らしい。どちらも癖のある性格なのに何故か奇跡的に波長が合うのだと、よくどちらの口からもどちらの名前も聞かされる。
だが大西さんはこの「会」のメンバーに名前を連ねていないらしく、一緒になる時は「呉武会+大西幸人」となるのだとか。
「いつもの呉武会ですか、けど僕は今日はちょっと…」
「あれ、あの子か?ネット界の天才ってのは」
高井は運悪く、この状況でスタジオを出て来てしまった。
高井もたった今俺達を見て何事だと足を止める。
「美人だね…もうベッドシーン録った後?」
俺は呉武さんの冗談を笑って受け流す。
「高井は学生です。素人ですしやめておいた方が良いんじゃないですか?あなた方の濃いアクが浮いて騒がれたら困るでしょう?特に木樋さんのね」
木樋とは此処に居る芸能プロダクションの重役三人のうちの一人で、要領が良く顔の広さは仕事のジャンル問わず日本一なのではないかと俺が思う男だ。ただこいつが芸能関係者の誰もが知る、大西さんとは違った意味でのかなりの曲者なのだ。

この木樋が参加しなければ「呉武会」は至って普通の、有意義でクリーンな飲み会なのだが。

「笑顔で脅してるのかな?青柳君。素人一人どうとでもなる。君!おいで、カラオケに行こう」
呉武さんが高井に手を上げて手招きする。
「俺…?」
高井は困ったように俺を見る。
(運の悪い奴だな、お前も)
「青柳君、あの子連れて来て。俺は大西さんに顔見せてくるよ。どうせ今頃忙しそうにしてるんだろうけどね」
呉武さんが高井の肩を叩いてスタジオに入ると、木樋が俺に挨拶を投げて来て、適当に返した。
俺はとりあえず高井の元に歩いた。
「高井、俺の車に乗ってろ。ちょっと面倒な連中だが今ここで逃げても面倒だ」
俺が小声で言うと高井は暫く連中を眺めてから俺を見る。
「作品関係でってこと?」
「いやまあ、くだらないが、どんな業界にも極一部、幅を利かせたがる子供みたいな奴がいるもんだ。本人達は普段通りに楽しんでるつもりなんだろうがな」
「座って機嫌取れって?」
高井の目は嫌そうに俺を睨む。
「そういう事だ。大人しくしてれば問題ない。見るもの聞くものは全て忘れろ、いいな。それと、あんまり露骨に嫌そうな顔するなよ?」
高井は何故かもう一度連中を注意深く見ている。俺も何となく見遣ると木樋が高井をそれとなく観察していて、高井はため息をつき、胸の前で腕を組んでアスファルトの地面をスニーカーの先で蹴った。
「これも仕事だと思って付き合え」
暫くは気の進まない様子を見せた高井だったが、案外話しの分からない奴でもないのか鼻の頭を指で掻いてから、髪を手荒く片耳にかけて俺からキーを受け取った。
「じゃあ、あんたのその上着貸して」
「上着?」
俺は黒いガーゼ生地のジャケットを脱いで高井に渡す。
「何に使うんだ?」
「どうせわかんねーよ、あんたには」
妙に大人びた風にまたため息を吐く高井は俺の車を指差す。
「1番に停まってる白いデッカいの?」
「ああ、乗ってろ」



車で列を成して着いた先は、御用達のカラオケと呼ぶには広すぎる豪華な個室ラウンジだ。
いつもならやたらと薄い服の若い女達が横に付くが今夜は男ばかりでむさ苦しくも部外者は呼び込まないらしい。
(マズイな…)
俺が何となくそう思った時には木樋は既に高井を横に座らせていた。
「木樋さん、今日は女の子いないの?」
呉武さんがあっけらかんとして聞くが、木樋はウイスキーを片手に高井をちらりと見遣り、
「充分かと思いまして」
と笑った。
「それに仕事のお話しもあるでしょう。最近の女はすぐに喋るから」
「まあ、そうだな。君がいいなら俺は構わないよ。酒とツマミがあればね」
テーブルを囲むソファーで、それぞれが疎らに会話をしている。例え大きな声で有名俳優や女優の名前を出して、その仕事振りを褒めても貶しても外には漏れない。定期的に自分の仕事の自慢やメディアの動向などをあれこれ言いたがるのには丁度良い面子が揃った飲み会なのだろう。
高井は角に居る俺から木樋を挟んで斜め前に大人しく座っている。
「飲まないのか?飲めない?」
木樋は俺や誰かとの話が終わる度に高井に声を掛けている。
「車なんで、すみません」
「送ってあげるよ。外に運転手いるから」
「いえ。大丈夫です」
高井は意外にも愛想笑いをしてソフトドリンクを飲んでいる。
「青柳さん。いつも飲まないの?この子」
「車をスタジオに停めてるからでしょう」
俺は高井が普段はどうなのかなど知らないが、とりあえずそう言っておいた。
「なに、青柳さんも飲まないの?」
「僕は明日も仕事があるんで。木樋さんはお疲れでしょうし構わず飲んで下さいよ」
明日は休みだが、こうなった以上高井を連れて帰らなくてはならない。すると呉武さんが会話に混じって来た。
「大西さんが言っててね、素人入れて作品作るって。木樋さんその子がそうだよ。インターネットで配信者やってるんだって」
「ネットで?え、モデルか何かじゃないの?」
「違います」
「そうなのかー」
へーと言いながら木樋はあからさまな値踏みをしている。
「素人なんだ君」
「はい。だからここに居るの良くないかと…」
「構わないよ。飲めよ。ほら」
木樋は急に高井の手に自分のグラスを握らせる。高井は少し口を付けた。
「何が飲みたい?頼んであげる。アルコールのみだぞ?」
遠慮なく高井の肩を抱き寄せてメニューを見せている様子に、俺と呉武さんは苦笑いだ。
「じゃあ…ウーロンハイで」
「甘いのじゃないのか。よし頼んでやるから。フライドポテトも食べるだろ?」
「君がかい?また随分と」
手元にあった注文のリモコンを手に取る木樋に呉武さんが笑いながら煙草に火をつける。
その間の高井は白い顔を無表情にして俺が貸した上着の崩れを直す。
どうやら高井はこの手の扱いに慣れているようだ。美しい顔のせいか、こういった不幸も良くあるのかも知れない。
「どうなんだ?収録の方は」
呉武さんが煙草を消そうとするが気遣い無用と止めてから俺は答える。
「滞りなく。大西さんも相変わらずですよ」
「三条君や橋下君も居るんだろ?今日は呼べないのかい?」
「ああ、用事があると言ってましたから無理でしょうね」
「頼むところちゃんと見てたか?」
木樋は何の勢いなのか高井の腿を掴んだ。高井は軽く笑いながらも少し顔を背けている。
「そっか、二岡君も?栖本君お子さん産まれたってね。お祝い遅れちゃって」
「二岡も別の収録ありますし。栖本は女の子だったそうですよ、もう3歳ですが」
「遅すぎるよね。悪いことしたな」
「まあ、あいつはそんな細かいことは気にしてませんよ。喜んだでしょう」
「俺何か歌いますよ、良ければ」
高井がカラオケの大きなリモコンを手に取って、笑っても怒ってもいない顔で木樋に言っている。
「あ!聴きたいなあ」
呉武さんも食いついた。
しかし、
「歌もいいけど、キスしたいな俺は」
木樋の声が通って、一瞬全員が静まった。だが木樋が目配せしてまたざわざわと会話を再開する。
一度は無表情になった高井は、
「だーめ」
わざとそう言って、呉武さんにリクエストを聞いて自分が分かるナツメロを適当に数曲入れる。
「声優してるだけあるね。今のきたよ」
木樋の手が高井の腕を掴んでいるのを見て、俺は漸く高井が上着を貸してくれと言ってきた理由が分かった。
「俺声優じゃないんで、素人です。青柳さんいるし、俺が声優だなんて怒られる」
高井は笑いながら木樋の手を払う。
「俺が守ってやるよ」
木樋はお構いなしで、歌い出した高井の耳に囁きかけている。
呉武さんはそんな木樋の様子に、俺に向かって笑う。
「早々、木樋君の悪い癖が出てきたね。男の子でも構いやしないってさ」
「みたいですね」
「ま、男なら問題にもならないから、こっちはヒヤヒヤしなくて済む」
いつもなら女達が居たのでまさか木樋が高井に対してこうなるとは思っていなかった俺は、知っていて連れて来たと高井が思っていそうで居心地が悪い。
(一発ブン殴れば面白いのにな)
だが今のところ俺を一度も見ずにいる高井は、媚びもしないが荒い態度を取るでもなく、上手くあしらっている。
(まあ…そこらのホステスよりは確かにな)
女を飽きるほど知っている木樋がアンニュイな高井に興味を抱くのも分からなくはない。高井とは、そういう空気を持った奴なのだ。どこか他とは違う、危うさがある。
前から思っていた。最近の若い男と変わらないガサツな動きをするにしてもその仕種一つに妙に目を取られる。

呉武さんもその周りも、自分の時代の歌を上手く歌う若い高井に喜んでいる。
その選曲にも、何処か慣れを感じさせる。この世代にウケる歌を知っているのだろう。
ただ問題なのは木樋の手癖の悪さだ。いつまでもにこにこして拒まれてはいない男だ。機嫌を損ねるといやらしさは増す。女がそれで泣き出すのを何度見た事か。芸能界を夢見てここに座った若い女が、木樋の誘惑や権力に負けて体を取られるのは全く珍しくもない。男の高井相手にどこまで本気で牙を剥くかは知らないが、この気に入り様だと気に留めておかなければならないだろう。自ら進んでこんな場所に来て裏切られたと騒ぐ女達とはわけが違うのだ。

二時間程が経ち、皆の酒が進んだ頃に高井が便所に出た。俺もそれに遅れて部屋を出る。
ホテルのそれの様な鏡の前で、高井も酔っているのか手洗い場に手を着いて顔を伏していた。
「おい」
声を掛けると高井は気怠く顔を上げて、平気な素振りで鏡を見ながら髪を搔き上げる。
「良く耐えられるもんだな」
俺がそう言うと無言で手を何度も何度も洗い始めた高井は、漸く紙で手を拭ってゴミ箱に投げ入れた。
「商売女みたい?」
今俺を見る高井の目は、あの違和感のある目だ。俺は思う、これがたぶん高井の本来元々の目なのだろうと。感情を全く読まさない目だ。
「慣れてるから、ご心配なく」
また鏡に向かってガサツに髪をかき混ぜただけの本人は何も気にしていないのだろうが、左から右に大きく流れた横髪は白い耳を剥き出しにして、木樋に見せるには少々具合が悪い気がする。また高井の手が前髪を上に上げて顔まで良く見えるようになる。
「慣れてる…とは?」
「どこでもこんなもんだろ。女がいなきゃ対象は、お・れ」
前髪がないと高井の目は思っていたよりもう少し目尻が上がっていて、左目の下には小さな黒子があった。スタジオでもこれに気付いた者はいないだろう。
その泣き黒子を意図的に隠していたように思えるのは、高井が今、意図的に見えるようにしたからなのだろう。
酔いのせいなのかどうか、妖しく光を反射するそのつり目が男を誘うのは、たった今、納得がいく。
「嫌ならそう言え」
高井悠二というこの男は、男のくせに綺麗だとかその程度のものでは済まない。
年齢に見合わない陰や色気があり、無表情で突っ立って居るだけなら、生身の人間には見えなくなるような良く出来たこの顔も、何を考えているのだろうかと相手の探究心を煽るものだ。
「別にどうでもいい。あの木樋って人、一番ややこしいんだ?みんな気を使ってる。あんただって好きじゃないんだろ?機嫌取っててやるよ。呉武さんって人も大西監督のご友人ってやつだし俺も大西監督には恩くらい感じてるし」
そう言いながらも高井は上着を正す。まるでそれが唯一の防御のように。
「高井」
戻ろうとする高井を引き止めるが、
「その代わり、あんたが帰るとき、ちゃんと俺も連れて帰って」
高井は黒子のある左目で、それだけ言って出て行った。

席に戻ると木樋は思った通りに高井を抱き寄せる勢いで強い興味を示していた。
「どこか在籍してるの?」
「はい、一応」
「どんな事務所?俺の知り合いかな。君の所って君みたいな綺麗な男の子多いの?」
「どうでしょうか。顔より演技重視らしいし、性別も男にこだわってないですよ」
「そんなことよりさ、君めちゃくちゃ色っぽいよねー。ハーフ?あれ…?これキスマーク?」
「え?」
やはり高井自身、それに気付いていなかったようだ。木樋に頸を覗かれて若干の焦りが見える。
「若いもんなー。彼女とエッチなこといっぱいしてるんだ?彼女も学生?」
「ははは」
木樋はますます高井の体を触るようになった。
「それとも男、かな?頸って女の子はあんまりしないよね、キス」
「どうでしょう…」
そのキスマークが付いたのは、あの時だろう。
「昨日もいっぱいしたの?もしかして今夜も?」
「なにが…?」
木樋は高井の隙を見て上着の下から手を入れ腹や腰周りを撫でている。
高井はその手がそれ以上、上にも下にも行かないように肘で軽く押さえる。
「エッチだよ。お尻におちんちん入れてもらったのかってきいてるんだ。この顔やらしくして射精したのかってさ」
ダイヤのピアノが付いた耳を指で引っ張る木樋。
「いや、俺、男はちょっと…」
高井は木樋の手を払いはしないが露骨になった言葉に流石に気分が悪いようで目つきがきつい。
「なあ、仕事欲しくない?」
「はい?」
「みんなの前で奥まで掘らせてくれたらテレビに出られるお仕事あげるよ?大手のタレント事務所にも紹介するし」
皆が男相手にでもいつもの癖をやり始めた木樋に注目している。迫られる高井への好奇心もあるのだろう。
「エロい人なんだ?でも俺タレント志望じゃないから」
「ふん、黒子、見せてくれて嬉しいよ想像以上にいやらしくてそそる。だから隠してたんだろ?なあ、いつまでもネットの中じゃつまらなくないか?君がテレビに出てるのが見たいな綺麗だろうからな。歌手なんかどう?」
「興味ないんで」
「一つ教えてやるけど、高いプライドなんてのは何よりも無意味だ。俺女より全然イケそうだ悠二なら。ほら、ちんことケツ穴見せて。めちゃくちゃ可愛いがってやるから」
木樋がどこまで本気か分からない。だから誰もまだ何も言わずに傍観している。
「てか、女にこんなこと言ってたら犯罪でしょ」
高井は笑う。
「君ならいいのか?男の子だってこわいもんはこわいだろう」
「冗談くらい分かってますよ」
「冗談?なあ…このケツ処女か?可愛い形してるな、ヤらせろよ」
木樋が尻を撫でて高井がその手首を押さえた。目は威嚇しているが、口調はまだ常識的だった。
「こう見えてビッチじゃないから、あんたの好みじゃないと思いますよ?」
「そんないい匂いさせてるくせにか?気に入ったって言ってんだろ、さっさとお股開けよ」
「お股?…それ面白い」
「何が面白い?どうせ頸とおんなじエロい匂いさせてんだろ。顔でバレてんだ。女でたまにいるんだ、全身いい匂いの子が。君もそれだよ、君さ、自分で分かってるんだろ?男にこうやって言い寄られるの、初めてじゃないんだろうが」
高井の目が細められた。痛いところを突かれたと言わんばかりに。
「全部、バレてんだぞ?」
そう言われた高井は一瞬ピタリと止まったが、
「こわいよ木樋さん。俺こわい人無理だから」
高井が凍てついた目で木樋の耳に言って、俺は声で割って入った。
「相変わらず悪趣味ですね。冗談ってはっきり言わないと素人は騒ぎますよ木樋さん。高井は今日僕のを入れられた後なんでその辺で勘弁してやって下さいよ」
すると木樋は高井の肩を強く抱き寄せて笑った。
「あははは!珍しいね!青柳さんがその手の冗談言うのって」
「ホントだよ。そういうの一番嫌うのに」
呉武さんも珍しそうに俺を見る。
「まあ今回の収録終わるまでは高井は僕の相手なので。変な恐怖心植え付けられると困りますよ大人の皆様。それに高井はネットという強大な味方つけてますから、この場に居たってだけで僕まで巻き込まれるような事は避けたい。お互い楽しく飲みましょう木樋さん」
ネットの効果は絶大だ。俺の軽い脅しはこの場の全員に効いたようだ。
「隙が無いな青柳さんは。悪かった悠二。怒らないでくれよ」
高井は木樋の手をさり気なく押し返しながら、頷きもせず笑顔だ。俺はこれが何より怖いんじゃないかと思った。
「高井、僕にも少しは愛想良くしてくれるか?現場じゃあまり話せる時間も取れないし」
俺は自分の隣を開ける。
「悠二、もう行っていいよ青柳さんが怖いからな。彼に嫌われると大変だ」
木樋は俺に笑いかけてどうやら「手打ちにしよう」と言っているらしい。
「俺別にここでいいんで」
高井は何故か従わない。
「こっちに来い高井」
強く言うと高井は太々しく立ち上がってやって来ると俺の横にドスンと座った。
「…仲悪いのかな?」
呉武さんが「見ちゃいけなかったな」と言う。
「いいえ。仲良いですよ。こいつの機嫌が悪いだけで。なあ、高井」
俺は別に返事は要らないと、木樋から回ってきた高井の飲み物を見て言う。
「もしかして悠二のキスマーク、青柳さんか?」
木樋は笑う。
「かも、知れませんね」
俺が言うと高井が俺からグラスを受け取り損ねた。
「どうした、大丈夫か?」
「…バカじゃないの!?」
高井は小声で言った。
「おやおや。てっきり女性ばかりはべらせていらっしゃるんだと」
遠くで作曲家の徳井さんが言った。
「離婚後は女の噂が絶えない男だから高井君には手は出さないだろう。私と一緒にやる次のアニメでは女の声優が多いからスキャンダルを楽しみにしてるんだけどな」
監督の倉持さんと呉武さんが笑った。
「同業者に手を出したことがないってのが、僕が自分で自分を褒めているところなんですがね」
和やかに笑わなかったのは木樋だけだ。きっとまだ高井を惜しんでいるのだろう。
(本当に面倒臭い男だな)
木樋の視線を疎ましく思いながら愛想笑いしていた俺だったが、
「上着、ありがと。晃介さん」
高井がこのタイミングで上着を脱いで返して来た。
(はあ!?)
俺は受け取るしかない。
「やっぱりちょっと、大きかった…」
高井は親密ぶった上目遣いで甘える様に俺に言った。
「ぐふ…!」
「大丈夫かい!青柳君!」
「大丈夫です。失礼…」
わざと巻き込んで来た高井は、もう真っ白な腕を出してしれっとした顔で、木樋が高井の為にボトルを下ろした厳つい高級な酒を飲んでいる。
俺の上着の本当の使い道は、もしかすると逃げ切れなくなった時に今よりも本気で俺を使ってこの場を爆破する事だったのかもしれない。

それからまた二時間。

「どういうこと?」
高井は呉武さんにプロとは何か、自分達の在り方をどう思っているのか、という哲学的な質問を投げて、真剣な顔で聞いている。だが目はかなり酔っているようだ。
「んー。完成された良い物を見て、一般的にはそれをそれごと受け止めて善し悪しを見るだろう?だが、俺達のように一般じゃない者はそれが完成となるプロセスで、他にも候補になったものがあるのかどうかを聞きたがる、そして何故そっちにしなかったのかという点から、選ばれた方の価値を暫定している。何をマイナスに思って最終的にどうプラスとするかという考えだ」
いつの間にか、全員が耳を傾け、首を捻ったり頷いたりして熱心な高井と呉武さんを見ている。
「ああ…何となく」
高井は一度すっと目を閉じて呉武さんの言葉を咀嚼している。
「もしくは、完成したそれよりも上があったかも知れないと、ニーズを捉えるべく張った網の目をより細かくする参考にする為だ。何にせよ、ただ素直に「良い」とだけ言えなくなった捻くれ者が我々のような立場になる、自ずとな」
俺はそれを聞いていて、成る程大西さんとウマが合うわけだと納得する。大西さんものらりくらりだが、どちらかというと自分が変わった人間だと自覚している節がある。呉武さんもそうなのだろう。
「言ってしまえば、一般の意見の方がはっきりと着地点は見えている。こういうのが欲しいからこうした、成功した。Aが欲しいからAを選んだ、満足だ、という風に。
しかし我々は最終地点をしっかりとは決めずに、あるもの中でより良い最終形態を作っている。だって一般はこちらがどうぞと差し出したAだけを見て評価すれば良いだけだから。でもこちらは答えが無い状態で導き出さなければならないんだ。一般が欲しがっているAよりも良いモノを探してBやCやDという候補を立てて、残酷だろうが何だろうがその中で篩にかけて一番良いものを選ぶんだ。一般が思いもよらなかったものを提供しなければ意味も無いし。そうしないとプロと呼んでもらえないからね。ライバルがCを選んだなら何故BやDじゃなかったのかを知りたくて仕方がない。そしてそれより良いGを今度は自分達が探さないといけないんだ」
高井は頷いた。
「…じゃあ、配役についても同じことですね?」
「はっきり言えば、そうだろうね」
呉武さんは高井を気に入っている。
「ただ団体に入ってしまった今は個人的にはこっちが良いのに!って思っても言えないもどかしさはあるけどな」
まさかの倉持さんがテレビの前の視聴者気取りで言う。それに対して呉武さんは笑いながら答える。
「団体とはそういうものだよ。実に窮屈で、色んな圧力によって間違う事もあるさ。良い面も大いにあるがね。まあ時にはAを求められたら素直にAを出しておく必要もあるのだけれど」
「そこのセンスは大西さんはばっちりでしょう。僕はあの人に選ばれればやるし、違うと言われれば納得しますよ」
俺は言う。大きく頷いた呉武さん。そして答えたのは木樋だった。
「ああ。あの人は何でも上手い。だけど俺は知ってるよ、凄く評価が高いけど、あの人って実はただの我儘野郎だろう?いつも狡いぞって言ってやるんだ。俺もあの人のことは好きな方だけど」
それは言えていると全員が笑う。
「悠二、君は大西さんをどう思う?やりやすいか?それとも?」
高井は木樋からの質問に少し悩んでから、
「意見出来るほど良く知らないので…。でも頷かせたくなる何かを持ってる人だな、とは思います。俺なんかが想像もしないビジョンを持ってるんだろうなって。そこに俺を使ってくれるなら、出来るだけやりたい…と思う…」
俺はそう言った高井を眺める。
高井は気付いて俺を見る。
「あ…ちょっとだけ、生意気、言ってみた」
俺は急にしおらしくなった高井を笑った。
「悠二、君はこの仕事に向いてるよ。また改めて口説かせてもらうから、考えていてくれ。俺が男の子を真剣に育てたいと思ったのは初めてなんだ。エッチなことはもう言わないよ」
木樋にも勿論、優秀な面がある。常に次の流行をスポットする能力がある。
「でも俺は…」
「元々俺はバカしか抱かないんだ。そうじゃないと使えなくなった時に捨てられないだろう?君はどうやらバカじゃない」
「今のが忘れるべき部分だ」
俺は呉武さんと苦笑いしながら、高井に他言無用の釘を刺しておいた。
「君は物事の本質を見ているよ。そういう能力はどんな窮地にでも活きるものだ。木樋さんが言ってるのはそういう事だよ」
呉武さんが言う。
(本当か?こいつそう言ったか?)
「そうだ、ありがとう呉武さん。君は伸びしろがありそうだ。君がもしセックスも出来て一緒に仕事も出来るならそれが一番良いんだぞ?ずっと連れて歩きたい」
木樋は誰よりも高井にどっぷりはまったようだ。口説く目も今までとは違う。
「でもやっぱり俺はテレビに出る事にはあまり興味がないんで。今回は声の仕事だったので。それでもいざプロに混じると場違いだったと思います」
「それは隣にいるこの人との仕事だからだ。他にも三条さんとかもいるんだろ?大西さんは意地悪だ。いきなり負担だろうどう考えても。可哀想だ」
木樋が俺を指差して言い、俺は頷く。
「大西さんが意地悪だとは僕も思いましたよ」
「意地悪だからねー!大西さんは!」
俺の後に呉武さんがすかさず言うと一層リアリティがあるので皆が笑った。
だが、あの人がただの「意地悪な人」でもない事も皆が知っている。
「考えててくれ悠二。俺に頼れば仕事の幅はあるってことだ」
木樋の言葉に高井はあからさまにやっつけで頷いたが、そんな反応でも誰も文句を言わないのは、やはり高井の持って生まれた美貌と甘い気怠さのせいだろう。

高井は帰り間際には全員から名刺を渡されていたし、呉武さんに「オヤジキラー」と呼ばれていた。
作曲家の徳井さんは今回の作品に綾斗と神城専用のBGMを作るとまで言っていた。

午前の三時前にスタジオに向けて車を走らせている。
高井は助手席でぐったりと崩れて、薄く目を開けて前を見ている。
「スタジオでいいのか?」
「うん…はい。すみません」
店を出て連中と別れるまではしっかりと受け答えしていた高井は、二人になるなりいきなり嘘みたいに駄目になった。
「あそこはホテルじゃないぞ?」
「うん…でも好きなんだ」
「夜間に気持ち悪くないのか?」
「全然…へーき」
高井はふふっと笑う。
「まだ着かないから寝てろ。吐くなよ?」
「起きてる」
それから30分程走る間に高井は何も話さなかったが、時々様子を見ると目は開いて街灯が後ろへ後ろへ流れて行くのをぼんやりと眺めていた。

「降りられるか?」
「ヘーき…っと」
嫌な音がして俺は助手席側へ急ぐ。
「落ちたのか?」
「そう、バッグ。俺じゃない」
しっかりと立っているようでも急にふらつく高井に、俺は面倒だからさっさと手を貸した。
「いいって…もう十分なんで。送ってもらってすみませんでした」
「いいから歩けよ。ちゃんとつかまれ」
「なんか慣れてる…?」
「つい昨日も酔っ払いを運んだからな」
「誰?」
「あ?」
「彼女?」
「司だ、三条 司」
視線を感じて隣を見ると、高井の黒子のある左目が至近距離で突き刺さる。
「…なんだ?」
すっと伏せて逸らされた。そうやって入り口に到着する。
「シャッターだけ…手伝って」
「仮眠室だろ?ついでだ、運んでやる」
「シャワー」
「シャワーだ?やめておけ。結構飲んだろ」
玄関ドアを開けて入り、シャッターを下ろす。
「今日は入らないと気持ち悪いから…」
「絶対また倒れるぞ。朝にしろ」
「俺の勝手だし」
「お前が今晩ここで変死したら俺が事情聴取受けるんだぞ?…ったく待っててやるからとっとと入れ」
「ホント…?」
「着替えあるのか?」
一応玄関ドアの鍵もかけ、カーテンも閉める。
「昨日泊まったから寝間着がある…」
「寝間着だと?」
そういえば確かに昨日の夜見た服と今着てる服が違う気がする。
「仕事場で寝間着って、自由すぎるぞ…」
「…ごめんなさい」

二階に連れて上がるのに階段で少々ゴタついた。
「あまり長く浴びるなよ?気分悪くなったら湯は止めろ」
「はい…」
ふっと後ろへ行きそうな高井はそれでもシャワーはしたいらしく俺はシャワー室のドアを少し開けたままにして廊下で待った。
「…青柳晃介にシャワー待ってもらうって、俺怒られる?」
「それ本人に言ってるが?」
「違う。世間から、怒られる?」
「世間にはバレないだろ?俺とお前しか知らないのに」
「あ…そっか。でも、もしバレたら?」
高井が言っている意味がよく分からない。
だが不思議と重要な質問のような気がしてくるのは、ここが真っ暗な廊下だからなのだろうか。
「好きに言わせておけばいい」
「そっか…。あんたって、そうなんだろうな」
バッグから色々取り出す音の後、浴室へ入って行った音がした。
俺は向かいの仮眠室のドアを開け放って、ベッドに座る。


高井は20分程で脱衣場に出てきた。
(生きてたか)
俺はベッドに横向きに肘を立てて高井がシャワー室のドアを開けるのを待った。
だが、妙に静かだ。俺はドアの前に立つ。
「起きてるか?」
返事は無い。
「開けるぞ」
ドアを開けると高井は腰にバスタオルを巻いた姿で、鏡を見て、胸の前で腕を組んで立っていた。
「高井」
ぼんやりしているようで、しっかりしているような横顔。
「おい、高井」
大きめの声で高井は弾かれたように俺を見た。その目はちかちかと、光っては消える冬のイルミネーションのように感じた。感情を表していたのは目ではなく、きつく噛まれた唇だった。

高井は、悔しそうにしていた。
腕は、組んでいるのではなく。

「悪かった、連れて行って」
俺はすぐに言った。
「別に…」
濡れた髪を触ろうとしてやめた高井は、眉を寄せてこっちを見る。
道端に捨てられた、何かのような目で。
高井はあの時、木樋をやり過ごしながら俺を恨んでいたのだろうか。
「ああいうのっていつも…あの人に限らず、嫌がったら酷くなるから…」
俺は踏み込んでしまったのだろう。
「執着されたり、揉め事みたいに大事になったり。だから慣れたフリするのが一番で、周りにもダメージが少ないんだ」
「ああ。悪かった」
「俺も今だけは、世話になってる会社通して来てるし…」
俺が一歩脱衣場に入っても、高井は動じない。
「俺が扱い知ってる仕事相手じゃないしって思って…あんたも居る席だし、我慢したけど。相手は冗談でも…いちいち悔しいと思うのもホントに嫌で、腹も立ってるんだ。他でだって良くあることで…気にしてるのも疲れるし、開き直ろうと思ってる。でも本当はあんな言葉、あんな風に触られるのだって、笑って許してなんてない」
「ああ」
「こんな愚痴、くだらないし誰にも言ったことない、でも…もしまた俺がああなってるのを見ても、あんたにだけは分かってて欲しい…」
「便所でそう言えば、すぐに連れて帰ったのに」
俺がそう言うと、高井の視線は床に落ちた。
「そう、だよな…。あんたならそうしてくれたのに」
高井は俺を信じていなかったのだろう。
きっと誰の事も信じてなどいない。
「俺も、あんたくらいの歳になったらああいうの、なくなるかな…?」
若いからというのはあるのかも知れないが、それだけで男があそこまで言うものだろうか。
「…悪いが、俺は何とも言えない。…だが、結局あの場の奴らはみんなお前を見る目を変えてた、中身を知ればああはならない。言ってしまえば我慢しただけの見返りはある。お前は見た目がそう…だから余計な苦労もあるが、取り柄の無い奴よりは良いチャンスだってあるだろう?」
高井は欲しい答えではなかった為か、複雑な目で顔を上げる。
「そこらのホステスより、俺ならお前を選ぶ。だから、木樋の事をあまり非難も出来ないし、お前が若いからかと訊かれればそうとも言い切れない。悪いな、適当な返事をしてやれなくて」
高井は落ち着いた顔で俺の目を見ている。
「男だから嫌だろうが、お前は賢いんだから上手く付き合えよその綺麗な顔とも。武器だと思え。男も女も誰も勝てねえよお前には」
「…うん」
「でもお前の我慢にも限度はある、本当に嫌なときは何も考えずキレていい。利益がないことには何も使うな、顔も体も触らせるな」
「うん。ありがとう青柳さん…ありがとう」
甘えるような目をする高井を見れば、少なくとも木樋よりは信用があるらしいが。俺としては木樋と俺がどう違うのかは自分でも差が分からない。
「そろそろ服着ろ、ピアスもなくすなよ」
「うん」

廊下で待っている間、どうしてもっと早く木樋を止めてやらなかったのかを悔いていた。平気だと高井に言われたとしてもだ。良くある風景を良くある事だと眺めていただけだった。
(こうやって、知らぬ間にズレて行ってるんだろうな)
妻がいた頃も、きっと知らないうちに自分は妻を守る夫ではなくなっていたのかも知れない。
日々の積み重ねの中でそう感じさせていたから、裏切りもせず愛していたのに思い描いていた夫婦にはなれなかったのだろう。
ずっと何かがすれ違っていたあの頃の妻も、一人っきりの家で悔しい思いをしていたのだろうか。
人一倍傷付きやすいと知っていたのに、そんな妻の不安な時に「忙しい」などと言い、あの細い背中を抱いてやれるような夫ではなかった。
未熟だった苦い思い出にため息が出る。
(いい女だったから、今頃再婚でもしてるだろう)
幸せになっていて欲しいなんて、今更当時を思い出した所で、虫がよすぎるだろうが。

高井はシャワー室を出るなり俺の顔を見て少し驚いたような、気遣うような目をしていたが、俺は高井の手首を取って廊下を歩いた。
「気は済んだか?」
俺は相手の信用を得る為に触れる事を優先した事は今までに一度も無かった。
だが高井にはこうしないと伝わらない気がしていた。
高井が振り解かないのをその証拠だとも思えた。
「なにか…飲みたい」
俺に引かれて歩く高井が後ろの薄暗闇で小さく言ったから、俺は自販機前まで連れて行き二人分の缶コーヒーを買ってベンチに座った。
「まだ、いいの?帰らなくて」
「ああ、これ飲んでからでいい」
「うん…」

スタジオは静かだった。

横を見ると、高井は眠いのかまだ酔っているのか背もたれに斜めになっている。
「落ちるぞ、こっちにもたれてろ」
手を引くとするりと素直に俺の右腕に収まった高井。
「眠いなら寝てろ」
「ううん。眠くは、ない…」

大西さんは高井を「化け狐」と言っていた。
それはある日突然、男の前に現れると。

俺は仕事以外で官能小説の類いは読まないが、成る程よく言ったものだと思った。
人を見る目を持っているあの人が「不気味だ」と言ったこの高井は、確かに複雑で、その目と同じように雰囲気までころころと変わる。
さっきまであれだけ男に触られる事を嫌って落ち込んでいたのに、頸には赤い痕を付けられていて、今はこうして心地良さそうにさえ見える。
前髪を避けて顔を見ていると目が合う。
「黒子、あったんだな」
「まあ…」
「隠してるのか?」
「そう。ワックスでセットして出来るだけ隠れるようにしてる。木樋さんには先に見られて、ちゃんと見せろって言うし見せただけ。見えても別にいいけど、あんまり好きじゃないから、これ」
「どうしてだ?」
「泣き黒子っていうだろ、こういうの。女みたいだし。小さいしそのうちレーザー治療か何かで消そうと思ってる」
親指で黒子を擦っても嫌な顔をしないのは何故なのか。俺の手に小さな顎を預けてこっちを見ている。
「消すな」
「なんで…?」
「これが、お前だろ?傷でもないんだ、残しておけよ」
「うん…。まあ、どっちでもいいやもう」
高井は恥ずかしそうに目を伏せて少し笑う。
「あ?」
「別に」
慣れきってはいないペットか、女か、それとも子供か、または見えてはいけない幻の何かのように、高井は今、腕の中に居る。

「…訊いてもいい?」
「内容によるが?」
「青柳さんはどうして声優になった?」
俺は自販機の明かりを見る。
「多分お前が思ってるほど声優歴は長くない。俺は高校からモデルをやってた。大学を出て就職したら辞めるつもりでいたが。大学卒業間際に撮影所であった人に声が良いと言われて、紹介させてくれと今の事務所の社長に会った」
「へー」
「それでまだ時間もあったから二つ程作品に参加して、演技ってものを面白いと思ったからそのまま職にした」
大西さんに実際に会ったのも最初の頃だ。
「何が面白いと思ったの?」
「何が、か。何だろうな、元々自分が持ってるものでどこまで何が出来るのか、か?途中からは周りが言う程に本当に通用してるのかどうかを自分で確認したかったのもあるか。俺の場合は声専門の教えを受けたわけでもないし、元モデルだという肩書きで持ち上げられているだけだと思っていた。有名なブランドのコレクションに出たりしていたからな。俳優の道も用意されていた。だから反抗的に必死で声の演技の基礎を研究した。見せかけだけじゃないと周りに示すのと、自分で自分に納得したかったからだ」
大西さんは初めて俺の声を聞いた時に「垢抜けた声」と言った。

『声というのは人が生まれ持ったものだ。君の意識一つでもっと育てられる。君が本気でそれで勝負したいと思うならね』

あの言葉の影響は多大にあったと思う。

高井は体を起こして間近で覗き込んで来る。
そのきらきらした目が、昨日の夜に会った綾斗のようで、気になった。
「もっと早くから、声優をやっていれば良かったとも思う」
「俳優にはならなかった?」
「ああ、そこに深い理由があるわけじゃないが。俺は声優になった。今でも一言一言が難しくて、一緒にやる役者によっても違うし、この世で一番面白い仕事だと思ってる」
高井は俺の目を見ながらゆっくりと目瞬きし、頷きを見せた。
「ねえ…演技してて、自分とそのキャラが一つになってしまうこと、あった?」
良く見れば、神城を求めていたあの目ではないようだ。じっと見つめて来る視線が、ふと下に下がる。つられて俺が見たのは、丁度高井の白い唇だった。また目が合って、高井からの質問の内容が頭から飛んでいた。
「近くないか?」
俺が言うと、高井ははっとしたように慌てて身を引いた。
「俺、すみません…」
人一人分開いてしまった距離に、逃げられて軽くなった肩に、少しだけの後悔がなかったわけではない。


「で、お前は?」
「え?」
高井は自分の腹に置いた缶コーヒーを見ている。
「何でここに居る?」
高井は暫くそのまま黙り込んでいたが、視線を宙に漂わせている。
「アニメが好きとかか?」
「ううん。漫画ばっかり読んでた。だからアニメってあまりよく分からないんだ。声優についても…ホント、青柳さんとか林さんくらいしか現役の人の名前知らなかったし…」
「何でネットで?」
俺が尋ねても、高井はまた暫く黙り込んでいた。そして髪を触り、前髪で表情が隠れてしまった。

「俺…昔ちょっと、変わった家に居たんだ」
「変わった家?」
「うん。大人が沢山いて、子供も沢山いた」

高井ははっきりとは言わなかった。
だが、あの噂は嘘ではないのだろう。

「大人も子供も沢山いたけど、俺はちょっと違うんだろうなっていうのは最初から分かってたんだ」
缶の口まわりを指で弄りながら静かな声で話す高井。
「違う、とは?」
「なんだろう…なんか違ったんだ。だから小学校に行くと周りと仲良くしなきゃって思って、でもその方法が、よく分からなくて、それで俺、いつも漫画読むようになったんだ」
「どうしてだ?」
「キャラクターを参考にしてたんだよ」
高井はふっと鼻で笑った。
「…キャラクター?」
「小学校で、先生が俺のこと可愛い男の子ってみんなの前で言ったんだ。そしたらみんな喜んでた。だから俺はそれになろうと思ってそういうキャラクターの漫画を読んでそいつになった。漫画って白と黒と活字の世界で、細々と説明もある。それに声が無いから無理なく自分に当てはめてイメージ出来たんだ」
俺は見えない高井の横顔を、ずっと見ていた。
「俺はキャラクターに自分で色を付けて、明確に掴むようにしてた。肝心な時に、キャラを見失わないように」
「色?」
「一番最初は…そう、ピンク色の兎だった。それから高学年になると女子からカッコいいって言われて、俺は足が速かったからスポーツが出来るカッコいいキャラクターになった。水色の馬みたいな」
「水色…」
「ああ…気にしないで聞いて。中学に行くと賢い方が求められた。俺の家は家庭教師が何人もいたから、勉強は俺のほうが周りより進んでて、簡単に秀才キャラになった。若葉色の鹿」
高井のチョンと上唇が尖った白い唇は白い顔の下半分。重力も感じさせないアニメの画のように嘘みたいに開いたり閉じたりしている。
「卒業して高校に入る頃には、家を出てほぼ一人暮らしだった。そしたら女子からの視線が大きくなって来て…俺はキャラクターを混ぜることが必要になった。スポーツが出来て、頭が良くて、見た目もちゃんとして、友達も多くて。セックスもその頃で、俺は七色の幻のペガサスみたいになってた」
高井はまた俯いたまま笑う。
「大学に上がると、もう意識して変わる必要もあまり感じなかった。話してる相手が自分に何を求めてるのか、直ぐに理解して、許せる範囲でそれになった…。キャラになりきれる自分を…そんな生き方の自分に何か意味が欲しくて、それを特技にして活かす為に始めたmimikoneっていう配信サービスでナンバーワンになって、金も稼げて、もう相手によって自在に変われたしコワイものも無くて…。でもそういうのが…配信外での普段の生活でのそういう作業が段々と面倒になって来てたんだ…。それまでの人生までもが嫌に…」
高井はゆっくりコーヒーを飲んだ。
「だから、キャラクターを作らなくて済むように誰とも親しくしないようになって。付き合う人も最低限。それでも自分のそれまでを全部は捨てられなくて…。その後も結局変われずに、特技として生きることにしたんだ。その頃かな、周りももう馬鹿ばっかりじゃ無いから気付き始めたんだよ、俺が自分達と違ってることに」
「それが天才の正体…か?」
「うん。何色の何者にもなれるけど、何色の何者でもない。それがYUJI」
俺は高井のあの違和感のある目を思い出す。
「俺たぶん、運は良い方で。ぼーっと無意味に生きてるのに、悪い人には合わなくて。そしてここに流れ着いて…」
高井の人生は現在までたどり着いた。
「そしたら…急に何も出来なくなった」
「ん?」
「自分のキャラクターも不安定になって、一番必要な綾斗も降りて来なくて…。苛々して…」
高井は最初、確かに苦労していた。だがそんなのは養成所を出たばかりの新人でもある事だった。
しかし高井の生き方を知った今なら、それが高井にとっては突然起きた大きなハプニングだった事が少しは分かった気がした。
「でも今ちょっとだけ分かるんだ、ここでは嘘は通用しないからだって。何のキャラも着てない本当の俺は、空っぽなんだ」
空っぽという言葉が耳に残るのは、高井を見て人形のように完璧だと思ったからかも知れない。感情の無い目のせいもあるだろう。
「だから無いもので切り盛りして誤魔化してる。今まで誰とも向き合えなくて…架空の誰かになることで楽して逃げてたツケなんだ。中身が無くて、色も無い。それが今の俺、高井悠二だよ、青柳さん」
高井はちらりと俺を見て「ごめんなさい」と言い、また俯いた。
「全部自分のせいなんだ。それも昔からずっと分かってた。そうなりたかったんじゃないなんて…誰かのせいみたいに、言い訳だけはしっかりしてたけど」
高井は腕を摩る。見ると震えているようだった。さっきのシャワー室の前でも、高井は今と同じ格好をしていた。
「寒い、のか?」
「え?…何?ああ、これ?何でもない。昔はよくこうなってた。でも何でもない。気にしないでホントに」
意味の分からないところで高井は笑う。
俺が手を伸ばして高井の腕を引っ張ると、高井は服のせいでベンチの上を滑って俺の腕に戻って来た。
今度は両腕の中に。
「なに!?」
びくりと跳ねた背中に手を回す。
「青柳さん…?」
「驚いて震えも止まったか?」
「…あ」
そのまま暴れる事もなくゆっくり俺の肩に向こうをむいて頬を乗せた高井はまた黙っていたが、少しずつ口を開いた。

「目の色が違うって言われても、何も言えなかった。お父さん似?お母さん似?ってきかれても分からないとしか言えなくて…。そうやって誤魔化してるうちに、気付いたら、すごく離れてしまって…」
白い頸の髪を退けると高井はまたびくりとしたがおとなしいままだ。
「名字だって、俺の少し後にあの家に来た俺と同じような奴は高野になったし。親の顔も知らない。外国人なの?ってきかれても、本当に知らないとしか言えなかった。自分が誰なのか分からないんだ俺…」
髪を元に戻すと、高井は顔の向きを内側に変えた。
「何考えてるのってきかれても、答えられる内容が無くて。でもね…それが俺」
「ああ」
「なんでこんなくだらない話なんかあんたに聞かせてるんだろ…。俺、酔ってるから…許してくれる?」
高井は顔を上げて窺ってくる。
「全部、忘れてくれる?」
至近距離で見る目は、悲しそうだったり甘えたり、また読めなくなったりと落ち着かない。
どの感情もこちらが見ようとすると逃げていく。どれか一つでも捕まえたいと思った。
ただ、捕まえた所でまた直ぐにでも高井は逃げて行く気がする。
高井の髪に手を置いて肩に戻るように促した。すんなり肩で目を閉じる高井はたぶん、いつからか夢との狭間に入っていたのだろう。自分でも気付かずにぽろぽろと言葉を零しているようだ。
「でもこの仕事で、プロの青柳さん達に会って、今日だって色んなプロがいて、みんなを見ててカッコいいと本気で思ってる。当たり前に自分を持って生きてるのが凄く羨ましいって思えたから。俺、この仕事が全部終わったら、ちゃんと自分と向き合うことにする…。全部スッキリさせて、もうあの頃に戻りたくない」
全部終わったら、という言葉に少し感情が動かされるようだった。
「お前、もっと聞いて欲しい事があったんじゃないのか?今言ったことの根底に」
「何もない…」
高井の話には、欠落している事がある。
高井自身の感情だ。幼い頃の喜怒哀楽がまるで伝わって来ない。
周りの求める者になりすまし続ける中、高井は何を感じていたのか。

「高井」
「なに…?」
「お前はいつも、何かあるとすぐにその場から退散するが、戻って来ると落ち着いていて何も無かったような顔をしている。だから何かしら、頭を冷やすなどのお前なりの努力はあるんだろう、とは思う」
高井は少し身動ぎした。
「けどな、お前のその努力している姿ってのがお前のせいで他の誰にも見えてない。それは少し勿体ない気がする」
「…影の努力って…いうだろ?」
そう少し笑って言ったのは高井の冗談で、事実は自分の本当の姿や感情を隠したいからなのだろう。
「お前の場合、それは損だ。隠された側からすれば、お前が何も感じていないように見えておもしろくない。お前は目立つ。そんなお前に相手にされないと拗ねるって他人の道理は木樋の事でも理解はしてるんだろ?」
高井は俺を見上げる。
「お前が余計な誤解を受けるのは、そういうところだ」
高井はきっと、誰よりも空気を読んで生きている。こうすればこうなると、先を理解している。

だが、その結果となって出来た「場所」に、高井はいつも「居ない」のだ。

自分を引き算する事で、自分が求める「答え」を出しているのだろう。

「どの場所でも、お前が本当はどう思って過ごしてたのかをちゃんと言えば、それで良かったんじゃないのか?お前が自分から一人でいるから周りは何も出来なかったんだ。違うか?」
たどたどしいとは言え、高井なりに俺に自分を聞かせてくれた。
だが、出てもいいはずの「あの言葉」が一度もない。
「俺は別に…言いたいことなんてない」
「あるだろ?」
緑の目に問うと、それは少し揺れた。
「言えない…」
言えない、とは、何か感じていたという事だ。
「言えよ」
「…言わない。それだけは絶対言わないって決めてたし、言う時は俺が消えてなくなる時なんだ」
誰にも言わずに来た深層心理。
「俺には言え。誰も聞いてないぞ?」
「そんなことしたら、全部…。今更もう、嫌なんだあんな気持ちは…」

確かに何をどう憶測しても、俺や周りが高井のこれまでを完全に理解するのは不可能なのだろう。

「ねえ、可哀想だとか思った?でも俺は平気なんだ。そう思われるのが嫌で、誰にもこんなこと話さなかった。シャワー室での話もそう」
そういう性格なのだろう。
誰にも捕まりたくないのだ。
だがうっかりここで俺に話してしまい、高井は今焦っているのだろう。
「青柳さん、ちゃんと忘れてくれる?」
忘れて欲しいというのは、まだ信用が薄いということだ。俺に秘密を握られたくないと恐れている。
「忘れるも何も、重要な事をお前は何も言ってないぞ」
「そっか、良かった…」
ほっと安堵する目。
「いつもより子供っぽいな」
「…そんなことない!」
急に耳が赤くなった。
それを見て頬に触りそうになるのを理性が止めた。
「わかった。もう寝ろ」
「え、ここで?」
「あとで仮眠室に投げておいてやる」
「ホント…?」
今度はうっかり男の腕で眠くなっている。

こんな危うさで、どうして今までキスをせずに生きて来れたのだろうかと、不思議だ。

(いや、誰も出来なかったのか…)

ついさっき、
高井の為に手を止めた俺の様に。

「お前いつか」
「…ん?」
「言うのか?誰かに」
「言わないんだってば…。でも…」
「何だ?」
「それが言えたら、少しは変われる気がする…」



午前五時前。
俺は眠った高井を昨日と同じく一階の仮眠室に運んだ。
荷物を置いてやりタオルケットをかけた時、起こしてしまったのか高井の手が俺の手をそっと掴んだ。
「もう少し…居て」
たぶん殆ど夢の中だ。
丸椅子を横に置いて手を握ってやると、高井は自分の手の平に俺の手の平を軽く乗せるだけでいいと言った。
「あんたが帰るとき…起きたくないから」
俺は言う通りにしてやった。

「おやすみなさい」

眠りに落ちていく高井は、その後小さく言った。

「さようなら」






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