ストロング・シンドローム

KING

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第2話「オレとオカマとナルシスト

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「おっはよう!天我!」
「いてっ」
自転車を漕いでいる途中後ろからべしっと頭を叩かれた
別に痛くはなかったが反射的に声が出る
横では【長崎 爽平(ナガサキ ソウヘイ)】が自転車で立ち漕ぎしながらニヤニヤしていた
これが可愛いクラスメイトだったらなんて嬉しい事だろうか・・・しかし現実は非情である
「どうした...おい、あんま近寄んなよ事故るだろ」
「大丈夫!オレのチャリテクがあれば接近並列走行なんざお手の物よ!なんなら両手離してぉおっギヨワァァァァァァ!!!!」
「爽平ぃぃぃ!?」
こいつよそ見しながら自転車漕ぐから電柱にぶつかりやがったよ!!
一旦自転車をそこに停めて爽平の元へ駆け寄る
「お前大丈夫か?」
「無理!顎砕けたわ!!もうだめだ 救急車ァァァァ!!」
「そんだけ喋れるなら大丈夫か...」
この長崎 爽平という男 いつもは遅刻ギリギリで登校しているのに今日は何を考えたか俺と同じようにちょっと早めに家を出たらしい
「寝ぐせついてるぞ」
自転車に乗り込みながらそれを指摘すると爽平は速やかに立ち上がり バッグから手鏡を取り出して胸ポケットから取り出した小さなクシで髪型を整えた。
「ふ~、パ~フェクトなオレの美貌が傷ついちまったぜ...」
「バカなこと言ってんな、置いてくよ」
「あ、ちょ待てよぉ~!オレが付いてってやるってんだからもうちょっと丁重に扱ってくれたまえ!」
「往来のど真ん中でなんつー口のきき方してんだ 同類だと思われるだろ やっぱ近寄んな」
その瞬間俺は自転車が壊れない程度の力で激チャリをしてやった
その速度で自転車を走らせればすぐ学校だ
ちょっと気になって後ろを振り返り爽平の様子を確認するともう豆粒のように小さくなっていた
すごいな、この距離でもウザさを感じる
ああいうタイプもかわいい女子だと見栄っ張りで健気という風に映ってまだ抱擁できるんだが同い年の高校生でちょっと顔が整っているからといって調子に乗ってる男に対してそんな優しい感情は芽生えない
あいつに心の底から優しくできるやつがいたならば表彰してやりたいよ まったく。
やっと学校に着いたな、あいつと一緒だといつも以上に時間がかかったような気がするぜ
正門から校舎内に入る時そこには先生が立っている その先生にちゃんと挨拶するのが俺の日課だ
「おはようございます」
「ん、おはよう」
ちょっと先生は笑ってくれた
それを見届けて駐輪場に自転車を置くと
同時に猛スピードで自転車が俺の横に停まる。
(ちょっとぉ~!本当にこのわたしを置いていくなんて酷いじゃないのよ~!)
ああ、いかんいかん...あまりのウザさに脳内でこいつの事を美少女の姿と声に変換させてしまった
実際は「本当に置いていくなんて酷くね!?」と息を切らせながら言ってた やはり現実は非情だ
そして、向かい風と汗でさっき以上に髪型が乱れてることはワザと教えてあげないことにした。
「なあなあ、お前最近どうよ...こっちの方はさぁ!」
にんまりとした笑みを浮かべながら横のウザ男は小指を立てていた
仕草がおっさんくさかったので そのマッチ棒みたいな小指をデコピンでハジいてやった。
「イデェッ!」
小指を抑えて軽く悶える
大丈夫、【死ぬ事以外はかすり傷】なんて言葉があるくらいだ そのくらいでへこたれるな!頑張れ爽平!
「どうもこうもなんもねぇよ」
素っ気なく答えると爽平はちょっと涙目になっている目を細めて満足げに笑っていた
「そうかそうか~、ハッハッハ!だろうなお前フツメンだもん!」
確かに自覚はしているが改めて他人に、しかもよりにもよってこいつに言われるとムカつく 
ちょっとだけ力を入れて今度はおでこにデコピンをくらわすことにした。
「イデェッ!」
傷にならないギリギリの威力で弾いてやった そりゃ痛いだろう。
「じゃあ、お前の方はどうなんだよ 彼女できたなんて話一つも聞かねえけど?」
言いながらしまったと思った、こういうプライドが高く自己愛に溢れる奴は恋愛面での煽りを受けるとメンドくさくなるんだった...
「それはそうだぜ天我!なんたってオレは理想が高いからな、こんなとこに転がってるような芋女共には興味無し!」
「そうかぁ、その女子たちもお前に対して同じ感情を持ってると思うぞ」
「そうだなぁ、オレには高嶺の花とか1000年に一人の美人とか言われてるような女を惚れさせる系の男だからさ?」
「いつまで言ってんだ教室着いたぞ」
「だからその辺の女は大物を釣るためのオレと言う名の船にこびりつく、フジツボみたいな存在なわけよ だからなんて言うか...」
こいつ本当に人の話聞かない奴だな...
俺は呆れて素早く教室のドアを開けると中に滑り込み、高速で閉じて内側から鍵を閉めた 
これで落ち着く
きっと今の一連の動きをしっかりと認識できたやつはいないだろう
外側に取り残されたあいつは若干の戸惑いを見せる。
クラスのみんなはそれをチラッと見るだけですぐに自分たちの会話に戻っていた
もう俺の“病気”は日常の一部になってるんだな
俺も「おい!後ろの鍵も閉まってる!開けてくれ!天我!ちょ、無視しないで!おいって天我!」と言いながらドアを叩いている奴の事は日常の一部として無視し、席に着くとするか
先生が来たら開けてやればいいや
「今日も爽平に冷たいわね~てんちゃん」
「よお、おはよう圭太郎 その呼び方やめて」
このオカマのような喋り方をする男は【吉野川 圭太郎(ヨシノガワ ケイタロウ)】強い男が好きだとかいう理由で俺によく絡んでくる 迷惑ではないが爽平とは別にこいつのノリが苦手だ
圭太郎はドアの前まで歩いて行くと鍵を開けて爽平を中に入れた。
「おはようそうちゃん」
「ああ、おはよう その呼び方やめて」
そうしていると二人して俺の席 教室の真ん中にある机に向かって来た 最近はいつも俺の席の前でダベるのが日課になっている。
「本当にときめかないメンバーだよな 俺たち」
ふとそう思ったので今日の雑談の火種とするため口に出してみる
「そうかしらね?僕はてんちゃんにときめいてるわよ」
「そういうのいいから」
「オレだってイケメンで人気者だ、常に女から視線を送られているんだぜ」
「そういうのもいいから」
俺は指をさして現実を口走る
「ナルシストに...」
そう言って爽平を指差す
「オカマ」
そう言って圭太郎を指差す
「そして病人」
そう言って俺は自身を指差す
「このメンバーのどこにトキメキが隠れてるのかね」
「いつも言ってるだろ、オレはナルシストではなく 美しき自分に惚れるっていうのはごく自然のことで 自己愛的に...」
「自分が悪だと気付いていない悪ほど質の悪いものはないんだぞ」
「僕だって性別関係なく強いてんちゃんを見たところで一目惚れしちゃったのよ」
「ノーコメントで」
俺は別にこの力を...いや、病気を使ってどうこうしようという訳じゃないし 普通に生活したい
今も普通に暮らせてる不満なんてないさ
家も裕福って程じゃないが貧乏じゃない
家族も優しいし
友達だってこいつら二人の他にもいる この病気のおかげで顔だけは知れ渡ってるんだ
でも、その中で一つだけ確実に言える事がある
「俺、彼女欲しい」
その全宇宙の真理が詰まっているような言葉の響きは苦笑で流されてしまった チクショウ笑ってんじゃねえよ
「そうかそうか!ならオレがモテない哀れなお前にありがたいアドバイスを...」
「話変わるけど圭太郎 朝何食った?」
「ダイエット中だから豆腐のサラダだけね」
「女子かよ」
「おい、無視すん...」
キーン!コーン!カーン!コーン!
この学校のチャイムはやかましい100万ホーン位出てんじゃないか?
あ~あ、学校か...めんどくせえ
今日の晩飯は何かな...

第2話「俺とオカマとナルシスト」END
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