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3.鬼の住む邸
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生きることに精一杯だった桃にとって恋愛などしている暇はなかった。
そりゃ、友達との会話で愛だの恋だの話題が出なかったわけではない。高校生にもなれば周りも恋人が出来る人は多かったし彼氏の話題になると桃はついていけなかった。
だけど、生活第一の桃にとって彼氏を作ろうなんて考えは一切なかったのだ。
最近の小学生ですら好きな人がいたり付き合ったりは当たり前だ。その為、恋愛偏差値に関しては小学生以下かもしれない。
「なんだ、金恵こんなとこにいたのか」
桃はいたたまれず顔を上げれずにいると、廊下の方から男性の声がして広間の襖が開かれた。
褐色の肌をした二十半ばの男が姿を表した。
「夏樹!」
「起きたら姿が見えねーし腹減ったんだけど」
夏樹は寝起きの様子らしく一つ欠伸をして金恵の腰に腕を回し、首元へと顔を寄せた。
「時と場所を考えろ!馬鹿野郎!」
金恵は迫り来る夏樹の脳天に肘鉄をかました。
「ていうか、今まで寝てただぁ!?あんた、今日私とライブ前にショッピング行く約束はどうした!!えぇ!?」
金恵は人が変わったように夏樹の胸ぐらを掴前後に揺さぶり強い口調で問い詰めた。
金恵の変わりように唖然とする桃。
「こほん」
上座から咳払いがひとつ。晴稀と法子が夏樹と金恵に笑顔を向けていた。
笑顔ではあるのだが、どこか圧迫感があり背筋が凍りそうな笑顔である。
「あれ。晴稀兄さんに法子姉さん、それにガキ共も集まってどうしたんだ?」
夏樹は今、金恵以外の人の存在に気付いたとばかりに問う。
「次の花嫁候補が見つかったのよ。ほら、この子が花嫁候補の流川桃ちゃん」
掌で桃を示して金恵が言う。夏樹は振り返って桃を見てようやく認知した。
「へぇ。この子がガキ共の花嫁候補か」
夏樹はまじまじと桃を眺めた。桃も正面から夏樹を見たことで先程まで気付かなかったあるものに気がついた。
それは、本来人間には無いもの。額の辺りから突起物が二つあった。
「つ…の?」
またも混乱する脳内は情報処理に難儀した。まるで漫画や創作物でみる鬼のような角が生えているのだ。
「混乱を避けるため順を追って説明するつもりでしたが、仕方ありませんね」
晴稀は困ったように顔を抑え一つ息を吐いた。
その様子をみていた金恵は元凶である夏樹の脇腹に晴稀の代わりに肘鉄を食らわしたのだった。
「我々は鬼です」
「おに?」
「鬼と言っても昔話のように人を食らったりはしません。ですが、人の精気を少しわけてもらって生きているのです」
晴稀の言っていることを理解しようとするほど現実離れした話に理解が追いつかない。
「精気を分けてもらうことを我々は吸魂と呼んでいます。吸魂は誰でもいいというわけではなく、人の性格や性質によって合う合わないがあるのです」
「でも、花嫁候補は別格だな」
晴稀の言葉に夏樹が続いた。
「そう、花嫁候補は我々鬼にとっては特別な存在です。他とは別格、極上の精気なだけでなく鬼の力も強めてくれる」
「それって……」
まるで生贄だ。花嫁候補とは鬼の力を強めるため吸魂されるためだけの存在ではないか。桃はそう思った。
「まるで生贄…だよね。私もここに来た当初はそう思ってた」
桃の思考を呼んだかのように金恵が言った。思考を読まれたことにも驚いたが、何より金恵も現在の桃と同じ立場であったことに驚いた。
「私と法子姉さんは元々花嫁候補としてここに来たの」
「そしてわたくしは晴稀さんを。金恵さんは夏樹さんをそれぞれ夫に選んだのですわ。ですが、わたくし達は彼等に出会えたことにひとつも後悔はしておりませんわ」
法子は淑やかに言った。二人とも元は花嫁候補であったことに十分に驚いたが、気になることがあった。
「あの、花嫁候補というのはこの屋敷にいる全員の吸魂対象ということですか?」
今、この屋敷に何人の鬼がいるのか分からない。しかし、極上とまで言われる花嫁が二人だけでは全員に吸魂されると流石に精魂尽きてしまうのではないかと思ったのだ。
「花嫁には世代があるのです。法子の世代の鬼は私含め五人。金恵さんの世代の鬼は四人。そして貴女の世代は七人です。他の世代の花嫁や花嫁候補に対して吸魂衝動はおきませんし、他の人間と同じ程度でしかありません。各世代の花嫁だけが別格なのです」
彼等の言い分はわかった。だが、たからといってはいそうですかとすぐに納得出来る訳では無い。
──どうして私がこんな目に……それもこれもクソ親父のせいだ!!
つい最近までごくごく普通の高校生だった。それが突然家をなくし鬼の花嫁候補に選ばれ、桃の意思など関係なく七人の中から花婿を選ばなければならない。
公園での寝泊まりや長時間かけてここまで来たことが身体に負担をかけ、追い討ちのように心労が祟ったのか桃は目眩を起こした。
はぁはぁ、と荒い息遣いへと変わる。
──頭が回る。身体が熱い。
桃の身体が崩れるのを察して誰かが桃の身体を支えた。
目の前がぼんやりとして視界がはっきりとしない。
「桃ちゃん大丈夫!?」
倒れた方の反対側から金恵の焦った表情が見え、声が聞こえた。
支える人物を見上げるとだんだんと目の前が真っ白になり視界が狭まる。男性であることはわかったが顔までは確認が出来ずに桃の意識はショートした。
そりゃ、友達との会話で愛だの恋だの話題が出なかったわけではない。高校生にもなれば周りも恋人が出来る人は多かったし彼氏の話題になると桃はついていけなかった。
だけど、生活第一の桃にとって彼氏を作ろうなんて考えは一切なかったのだ。
最近の小学生ですら好きな人がいたり付き合ったりは当たり前だ。その為、恋愛偏差値に関しては小学生以下かもしれない。
「なんだ、金恵こんなとこにいたのか」
桃はいたたまれず顔を上げれずにいると、廊下の方から男性の声がして広間の襖が開かれた。
褐色の肌をした二十半ばの男が姿を表した。
「夏樹!」
「起きたら姿が見えねーし腹減ったんだけど」
夏樹は寝起きの様子らしく一つ欠伸をして金恵の腰に腕を回し、首元へと顔を寄せた。
「時と場所を考えろ!馬鹿野郎!」
金恵は迫り来る夏樹の脳天に肘鉄をかました。
「ていうか、今まで寝てただぁ!?あんた、今日私とライブ前にショッピング行く約束はどうした!!えぇ!?」
金恵は人が変わったように夏樹の胸ぐらを掴前後に揺さぶり強い口調で問い詰めた。
金恵の変わりように唖然とする桃。
「こほん」
上座から咳払いがひとつ。晴稀と法子が夏樹と金恵に笑顔を向けていた。
笑顔ではあるのだが、どこか圧迫感があり背筋が凍りそうな笑顔である。
「あれ。晴稀兄さんに法子姉さん、それにガキ共も集まってどうしたんだ?」
夏樹は今、金恵以外の人の存在に気付いたとばかりに問う。
「次の花嫁候補が見つかったのよ。ほら、この子が花嫁候補の流川桃ちゃん」
掌で桃を示して金恵が言う。夏樹は振り返って桃を見てようやく認知した。
「へぇ。この子がガキ共の花嫁候補か」
夏樹はまじまじと桃を眺めた。桃も正面から夏樹を見たことで先程まで気付かなかったあるものに気がついた。
それは、本来人間には無いもの。額の辺りから突起物が二つあった。
「つ…の?」
またも混乱する脳内は情報処理に難儀した。まるで漫画や創作物でみる鬼のような角が生えているのだ。
「混乱を避けるため順を追って説明するつもりでしたが、仕方ありませんね」
晴稀は困ったように顔を抑え一つ息を吐いた。
その様子をみていた金恵は元凶である夏樹の脇腹に晴稀の代わりに肘鉄を食らわしたのだった。
「我々は鬼です」
「おに?」
「鬼と言っても昔話のように人を食らったりはしません。ですが、人の精気を少しわけてもらって生きているのです」
晴稀の言っていることを理解しようとするほど現実離れした話に理解が追いつかない。
「精気を分けてもらうことを我々は吸魂と呼んでいます。吸魂は誰でもいいというわけではなく、人の性格や性質によって合う合わないがあるのです」
「でも、花嫁候補は別格だな」
晴稀の言葉に夏樹が続いた。
「そう、花嫁候補は我々鬼にとっては特別な存在です。他とは別格、極上の精気なだけでなく鬼の力も強めてくれる」
「それって……」
まるで生贄だ。花嫁候補とは鬼の力を強めるため吸魂されるためだけの存在ではないか。桃はそう思った。
「まるで生贄…だよね。私もここに来た当初はそう思ってた」
桃の思考を呼んだかのように金恵が言った。思考を読まれたことにも驚いたが、何より金恵も現在の桃と同じ立場であったことに驚いた。
「私と法子姉さんは元々花嫁候補としてここに来たの」
「そしてわたくしは晴稀さんを。金恵さんは夏樹さんをそれぞれ夫に選んだのですわ。ですが、わたくし達は彼等に出会えたことにひとつも後悔はしておりませんわ」
法子は淑やかに言った。二人とも元は花嫁候補であったことに十分に驚いたが、気になることがあった。
「あの、花嫁候補というのはこの屋敷にいる全員の吸魂対象ということですか?」
今、この屋敷に何人の鬼がいるのか分からない。しかし、極上とまで言われる花嫁が二人だけでは全員に吸魂されると流石に精魂尽きてしまうのではないかと思ったのだ。
「花嫁には世代があるのです。法子の世代の鬼は私含め五人。金恵さんの世代の鬼は四人。そして貴女の世代は七人です。他の世代の花嫁や花嫁候補に対して吸魂衝動はおきませんし、他の人間と同じ程度でしかありません。各世代の花嫁だけが別格なのです」
彼等の言い分はわかった。だが、たからといってはいそうですかとすぐに納得出来る訳では無い。
──どうして私がこんな目に……それもこれもクソ親父のせいだ!!
つい最近までごくごく普通の高校生だった。それが突然家をなくし鬼の花嫁候補に選ばれ、桃の意思など関係なく七人の中から花婿を選ばなければならない。
公園での寝泊まりや長時間かけてここまで来たことが身体に負担をかけ、追い討ちのように心労が祟ったのか桃は目眩を起こした。
はぁはぁ、と荒い息遣いへと変わる。
──頭が回る。身体が熱い。
桃の身体が崩れるのを察して誰かが桃の身体を支えた。
目の前がぼんやりとして視界がはっきりとしない。
「桃ちゃん大丈夫!?」
倒れた方の反対側から金恵の焦った表情が見え、声が聞こえた。
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