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1.父が蒸発
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ある日突然男手ひとつで育ててくれていた父が蒸発した。とは言ってもこの父は金遣いが荒く、パチンコに借金おまけに無職で来るべくしてとうとう首が回らなくなり借金だけ残して逃げたのだ。
当然、貯金なんてあるわけもなく流川桃は身一つで家を出ることとなった。
「あんのクソ親父今度会ったら一発ぶん殴ってやる~!!」
高校から自宅に帰ると「探さないでください」の紙が一枚置かれていた。借金返済の為にバイトして給与振込されている桃の通帳も一緒に消えていた。
お金も家も無くした桃はキャリーケースとパンパンに膨れ上がったトラベルバッグを持って彷徨い、夜になると公園で寝る生活が始まった。
十六歳とまだ華の高校生である桃にとってホームレスは流石に堪えた。雨風を凌ぐ場所はなく、常にお腹は空かせて惨めさに涙が出てくる。
父が蒸発してから学校にも行っていない。
「もし、そこのお嬢さんや」
公園の水道で顔を洗っていると背後から声をかけられた。振り返ると腰の曲がったお婆さんが一人立っていた。
「私、ですか?」
「お主帰る家がないのかえ?」
桃は自分を指差して問いかけるとお婆さんはニッコリと笑って頷いた。
「父が蒸発しまして…お金も帰る場所もないのです」
桃は突然現れたお婆さんの存在に何か不気味なものを感じたが、何故かお婆さんの言葉に素直に返答してしまう。
「まだ若いのに可哀想に。随分と苦労しとるのじゃのう」
お婆さんは不気味に笑った。桃はその笑顔を見ると寒気が走った。
「あ、あの。私これからバイトがあるので失礼します」
「お主に衣食住を与えてやろう」
その言葉に桃の動きが止まった。再度振り返るとお婆さんは変わらぬ笑顔で桃を見ていた。
「但し条件がある。それでも良ければこの場所に行きなされ」
そう言って四つ折りにしたメモ紙を渡した。
メモ紙を開くと手書きの地図だった。とある山奥に丸印がある、此処へ行けと言うことだろうか。
「あの…」
桃が顔を上げると目の前にお婆さんの姿はなかった。
キョロキョロと当たりを見渡してみたがやはりお婆さんの姿はなく一瞬のうちに消えたのだ。
「も、もしかして幽霊?」
ぶるりと身震いするも、朝からお化けが出るわけないかと笑い飛ばした。
桃は手元に残った紙に目を向けた。ポケットにしまってバイト先に向かった。
「お世話になりました」
桃は最後の就業を終え、バイト先の人たちに頭を下げた。店長にわけを話して今日付けでバイトを辞めることにしたのだ。
突然のことであったが、父が蒸発し遠い親戚の家にお世話になることになったと言うと快く承諾してくれた。
桃に親戚などいない。本当は今朝お婆さんに手渡されたメモの場所に行ってみることにしたのだ。
その場所は桃が住んでいた場所から歩いて五時間はかかる場所にあった。例え、騙されたとしてもお化け屋敷だったとしても長期留まれる場所や雨風が凌げる場所が欲しかった。
人の良い店長に嘘をついたことに罪悪感があるが、これ以上心配や迷惑をかけるわけにはいかない。自分のことは自分で何とかしなければいけないのだ。
「や、やっとついた」
翌日、朝早くからメモに記された場所へと向かった。
休み休み歩いたとはいえ、片道五時間の道のりは流石に堪えた。途中、休憩を挟んだり荷物を持っての登山は体力を要したため、所要時間は八時間以上かかり太陽も既に傾いていた。
四月の初旬でまだ冬の名残があり涼しいとはいえ、辿り着く頃には汗が滲んでいた。
「本当にここで合ってるよね?」
桃は思わず尻込みしてしまう。桃の眼前には和モダンな豪邸が建っていた。
邸は屋敷でも化け物屋敷は想定していたが、豪邸は予想外だった。築地塀に囲まれ立派な四脚門が出迎える。
門は開け放たれ、中を除くと奥に庭園が見えた。
「あのー、ごめんください。誰かいませんか?」
勝手に敷地内に踏み込んでもいいものかと迷い呼びかけるが人一人見当たらない。
「他人の家の前で何してんの。邪魔なんだけど」
「うわっ」
困り果てていると突然背後から声をかけられビクリと肩を上げた。
背後を振り返ると桃と同い年くらいの男の子が立っていた。一目で目を引く人間とは思えないほど整った顔立ち、見下ろす瞳はどこまでも冷たいが目を離せない。
「ねえ、聞いてんの」
男は苛立たしげに再度口を開いた。
桃は正気に戻り慌てて頭を下げて謝罪した。
「ご、ごめんなさい。昨日、お婆さんからこの場所を紹介して頂いたのですが…」
この先どう説明していいのか分からず言葉を止めた。衣食住を提供してくれると言うのでのこのこ来ましたとは流石に言えない。
もし、場所を間違えていたら家なし子として赤っ恥を晒すだけだ。
「あんたどうやってここに来た」
「え?えっと、お婆さんにここの地図がかかれたメモを頂いて歩いて来たのですが。あの、この場所ってここで合ってますか?」
ポケットからメモ紙を取り出して男に見せた。男はメモ紙を一瞥したあと溜息を零した。
「赤婆さんか。ああ、ここで合ってる。着いてきな」
男は着いてくるように言って敷地内に入って行った。桃は荷物を持って男の後に続いた。
当然、貯金なんてあるわけもなく流川桃は身一つで家を出ることとなった。
「あんのクソ親父今度会ったら一発ぶん殴ってやる~!!」
高校から自宅に帰ると「探さないでください」の紙が一枚置かれていた。借金返済の為にバイトして給与振込されている桃の通帳も一緒に消えていた。
お金も家も無くした桃はキャリーケースとパンパンに膨れ上がったトラベルバッグを持って彷徨い、夜になると公園で寝る生活が始まった。
十六歳とまだ華の高校生である桃にとってホームレスは流石に堪えた。雨風を凌ぐ場所はなく、常にお腹は空かせて惨めさに涙が出てくる。
父が蒸発してから学校にも行っていない。
「もし、そこのお嬢さんや」
公園の水道で顔を洗っていると背後から声をかけられた。振り返ると腰の曲がったお婆さんが一人立っていた。
「私、ですか?」
「お主帰る家がないのかえ?」
桃は自分を指差して問いかけるとお婆さんはニッコリと笑って頷いた。
「父が蒸発しまして…お金も帰る場所もないのです」
桃は突然現れたお婆さんの存在に何か不気味なものを感じたが、何故かお婆さんの言葉に素直に返答してしまう。
「まだ若いのに可哀想に。随分と苦労しとるのじゃのう」
お婆さんは不気味に笑った。桃はその笑顔を見ると寒気が走った。
「あ、あの。私これからバイトがあるので失礼します」
「お主に衣食住を与えてやろう」
その言葉に桃の動きが止まった。再度振り返るとお婆さんは変わらぬ笑顔で桃を見ていた。
「但し条件がある。それでも良ければこの場所に行きなされ」
そう言って四つ折りにしたメモ紙を渡した。
メモ紙を開くと手書きの地図だった。とある山奥に丸印がある、此処へ行けと言うことだろうか。
「あの…」
桃が顔を上げると目の前にお婆さんの姿はなかった。
キョロキョロと当たりを見渡してみたがやはりお婆さんの姿はなく一瞬のうちに消えたのだ。
「も、もしかして幽霊?」
ぶるりと身震いするも、朝からお化けが出るわけないかと笑い飛ばした。
桃は手元に残った紙に目を向けた。ポケットにしまってバイト先に向かった。
「お世話になりました」
桃は最後の就業を終え、バイト先の人たちに頭を下げた。店長にわけを話して今日付けでバイトを辞めることにしたのだ。
突然のことであったが、父が蒸発し遠い親戚の家にお世話になることになったと言うと快く承諾してくれた。
桃に親戚などいない。本当は今朝お婆さんに手渡されたメモの場所に行ってみることにしたのだ。
その場所は桃が住んでいた場所から歩いて五時間はかかる場所にあった。例え、騙されたとしてもお化け屋敷だったとしても長期留まれる場所や雨風が凌げる場所が欲しかった。
人の良い店長に嘘をついたことに罪悪感があるが、これ以上心配や迷惑をかけるわけにはいかない。自分のことは自分で何とかしなければいけないのだ。
「や、やっとついた」
翌日、朝早くからメモに記された場所へと向かった。
休み休み歩いたとはいえ、片道五時間の道のりは流石に堪えた。途中、休憩を挟んだり荷物を持っての登山は体力を要したため、所要時間は八時間以上かかり太陽も既に傾いていた。
四月の初旬でまだ冬の名残があり涼しいとはいえ、辿り着く頃には汗が滲んでいた。
「本当にここで合ってるよね?」
桃は思わず尻込みしてしまう。桃の眼前には和モダンな豪邸が建っていた。
邸は屋敷でも化け物屋敷は想定していたが、豪邸は予想外だった。築地塀に囲まれ立派な四脚門が出迎える。
門は開け放たれ、中を除くと奥に庭園が見えた。
「あのー、ごめんください。誰かいませんか?」
勝手に敷地内に踏み込んでもいいものかと迷い呼びかけるが人一人見当たらない。
「他人の家の前で何してんの。邪魔なんだけど」
「うわっ」
困り果てていると突然背後から声をかけられビクリと肩を上げた。
背後を振り返ると桃と同い年くらいの男の子が立っていた。一目で目を引く人間とは思えないほど整った顔立ち、見下ろす瞳はどこまでも冷たいが目を離せない。
「ねえ、聞いてんの」
男は苛立たしげに再度口を開いた。
桃は正気に戻り慌てて頭を下げて謝罪した。
「ご、ごめんなさい。昨日、お婆さんからこの場所を紹介して頂いたのですが…」
この先どう説明していいのか分からず言葉を止めた。衣食住を提供してくれると言うのでのこのこ来ましたとは流石に言えない。
もし、場所を間違えていたら家なし子として赤っ恥を晒すだけだ。
「あんたどうやってここに来た」
「え?えっと、お婆さんにここの地図がかかれたメモを頂いて歩いて来たのですが。あの、この場所ってここで合ってますか?」
ポケットからメモ紙を取り出して男に見せた。男はメモ紙を一瞥したあと溜息を零した。
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