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第二章
7 奪われた唇
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説明を終えた彼等は、応接室を出て教室へと向かう。
育成科の私達の仕事は此処で終わりだ。
「ルナリア」
生徒会メンバーと留学生達を見送っていると、ディオン様が声をかけてきた。
「放課後は恐らく、構内案内をすることになるだろう。今日は生徒会室ではなく、教室まで来てくれ」
「承知致しました」
「エメ。君も今日の迎えは教室に頼むよ」
「リシャール様、畏まりました」
ディオン様に続いて、リシャール様もエメにそう命じて教室へと向かおうとした時だった。
「へえ。キミ、ディオン兄さん専属の侍女なの?」
見送るため、頭を下げていると、下から顔を覗かせる人物がいた。
一瞬、あまりにも瓜二つな顔にディオン様かと思ったが、違う。
人懐っこい、笑みを浮かべる少年は、ディオン様の従兄妹であるラッセル様だった。
「おーい、聞いてる?」
「あっ、はい。わたくしは、グラニエ家の侍女でして、学園ではディオン様に仕えさせて頂いております」
可愛らしく首を傾げるラッセル様に慌てて答える。
ラッセル様の本性を知っているからだろうか、いつもより声が引き攣る。
「ふーん」
「おい、ラッセル何して──」
チュッ
人好きのする可愛らしい笑顔が視界いっぱいに映し出されたかと思えば、リップ音と共に柔らかい何かが唇に当たった。
双眸が見開かれる。
視界に映るのは、ディオン様と同じ顔。
だけど、彼はディオン様じゃない。
「やっ」
ラッセル様の肩を押して顔を逸らす。
時が止まったように、周囲の者たちは動きを止めて視線が私達に集中する。
「おいっ、ラッセル!」
怒声と共にラッセル様の肩を引いて更に私から、距離を離すディオン様。
シロが制服の袖で私の唇を擦る。
「いやぁー、ごめんごめん。綺麗な人だなって思ったらつい」
ラッセル様は下心などないかのように無邪気な笑顔を浮かべる。
私はというと、こんな公衆の面前で接吻されたことに驚きと、衆目に晒され頬に熱が集まる。
「ごめんね、ルナリア嬢」
ラッセル様は、申し訳なさそうに眉尻を下げ、此方に手を伸ばし歩み寄る。
「い、いえ」
「あれ?顔赤い?」
ビクリと肩を上げて一歩後退る。
本当なら、ビンタの一発でも食らわしてやりたい。
だけど、彼は同盟国の留学生だ。
私の頬に手が触れるかと思われた時、
シロが私とラッセル様の間に入って、ラッセル様を睨み上げる。
伸ばされた手は、ディオン様が彼の腕を掴み制す。
「ラッセル、私の侍女をからかうのはやめろ」
無言で視線を交えるディオン様とラッセル様。
しかし、ラッセル様はすぐにへらりと笑みを浮かべた。
「そう怒らないでよ、ディオン兄さん。僕もディオン兄さんの侍女と仲良くなりたかっただけなのにぃ」
頬に空気を含み、唇を突き出す。
「HAHAHA。ラッセルよ、仲良くなりたいからといきなり接吻は流石にレディが驚くのも無理はない。俺様が手本を見せてやろう」
「お兄様、留学初日から王族の恥を晒すのは辞めてくださいませ」
マイルズ殿下が参入しようとするが、すぐにエリン殿下に止められる。
「そこの侍女さん」
もう、どうして良いのか分からず呆然と成り行きを見守っていると、一人の少女が近寄って来た。
彼女は、ラッセル様の双子の妹のクリスティーナ様だ。
「兄がご無礼を致しました」
そう言って、頭を下げる。
「い、いえ」
「ですが、お兄様は挨拶としか思っておりませんので勘違いはくれぐれもなさいませんよう。それにしても、こんな愚鈍な方がディオン兄様の侍女だなんて信じられませんわ」
クリスティーナ様は僅かに眉間に皺を寄せて、嫌悪の目を私に向ける。
「フーッ」
「ひっ、なんですの貴女。こんな方まで学園にいるなんて。わたくしは、失礼致しますわ」
威嚇するシロを見たクリスティーナ様は、化け物でも見たかのような青い顔でそそくさと私達から離れて行った。
留学初日だというのに、既に前途多難な予感に、不安が胸に広がるのを感じた。
育成科の私達の仕事は此処で終わりだ。
「ルナリア」
生徒会メンバーと留学生達を見送っていると、ディオン様が声をかけてきた。
「放課後は恐らく、構内案内をすることになるだろう。今日は生徒会室ではなく、教室まで来てくれ」
「承知致しました」
「エメ。君も今日の迎えは教室に頼むよ」
「リシャール様、畏まりました」
ディオン様に続いて、リシャール様もエメにそう命じて教室へと向かおうとした時だった。
「へえ。キミ、ディオン兄さん専属の侍女なの?」
見送るため、頭を下げていると、下から顔を覗かせる人物がいた。
一瞬、あまりにも瓜二つな顔にディオン様かと思ったが、違う。
人懐っこい、笑みを浮かべる少年は、ディオン様の従兄妹であるラッセル様だった。
「おーい、聞いてる?」
「あっ、はい。わたくしは、グラニエ家の侍女でして、学園ではディオン様に仕えさせて頂いております」
可愛らしく首を傾げるラッセル様に慌てて答える。
ラッセル様の本性を知っているからだろうか、いつもより声が引き攣る。
「ふーん」
「おい、ラッセル何して──」
チュッ
人好きのする可愛らしい笑顔が視界いっぱいに映し出されたかと思えば、リップ音と共に柔らかい何かが唇に当たった。
双眸が見開かれる。
視界に映るのは、ディオン様と同じ顔。
だけど、彼はディオン様じゃない。
「やっ」
ラッセル様の肩を押して顔を逸らす。
時が止まったように、周囲の者たちは動きを止めて視線が私達に集中する。
「おいっ、ラッセル!」
怒声と共にラッセル様の肩を引いて更に私から、距離を離すディオン様。
シロが制服の袖で私の唇を擦る。
「いやぁー、ごめんごめん。綺麗な人だなって思ったらつい」
ラッセル様は下心などないかのように無邪気な笑顔を浮かべる。
私はというと、こんな公衆の面前で接吻されたことに驚きと、衆目に晒され頬に熱が集まる。
「ごめんね、ルナリア嬢」
ラッセル様は、申し訳なさそうに眉尻を下げ、此方に手を伸ばし歩み寄る。
「い、いえ」
「あれ?顔赤い?」
ビクリと肩を上げて一歩後退る。
本当なら、ビンタの一発でも食らわしてやりたい。
だけど、彼は同盟国の留学生だ。
私の頬に手が触れるかと思われた時、
シロが私とラッセル様の間に入って、ラッセル様を睨み上げる。
伸ばされた手は、ディオン様が彼の腕を掴み制す。
「ラッセル、私の侍女をからかうのはやめろ」
無言で視線を交えるディオン様とラッセル様。
しかし、ラッセル様はすぐにへらりと笑みを浮かべた。
「そう怒らないでよ、ディオン兄さん。僕もディオン兄さんの侍女と仲良くなりたかっただけなのにぃ」
頬に空気を含み、唇を突き出す。
「HAHAHA。ラッセルよ、仲良くなりたいからといきなり接吻は流石にレディが驚くのも無理はない。俺様が手本を見せてやろう」
「お兄様、留学初日から王族の恥を晒すのは辞めてくださいませ」
マイルズ殿下が参入しようとするが、すぐにエリン殿下に止められる。
「そこの侍女さん」
もう、どうして良いのか分からず呆然と成り行きを見守っていると、一人の少女が近寄って来た。
彼女は、ラッセル様の双子の妹のクリスティーナ様だ。
「兄がご無礼を致しました」
そう言って、頭を下げる。
「い、いえ」
「ですが、お兄様は挨拶としか思っておりませんので勘違いはくれぐれもなさいませんよう。それにしても、こんな愚鈍な方がディオン兄様の侍女だなんて信じられませんわ」
クリスティーナ様は僅かに眉間に皺を寄せて、嫌悪の目を私に向ける。
「フーッ」
「ひっ、なんですの貴女。こんな方まで学園にいるなんて。わたくしは、失礼致しますわ」
威嚇するシロを見たクリスティーナ様は、化け物でも見たかのような青い顔でそそくさと私達から離れて行った。
留学初日だというのに、既に前途多難な予感に、不安が胸に広がるのを感じた。
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