奴隷落ち予定の令嬢は公爵家に飼われました

茗裡

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第二章

1 夏休み

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お待たせ致しました。第二章突入です

​───────​───────

数日後、学園は夏休みに突入した。


パトリス殿下とジェルマン様については、戦地での後方支援として借り出されたという御触れが出された。


アメリーやその他取り巻き達について学園では噂になったものの、真相は分からず仕舞いの儘学園の生徒達は実家へと帰って行った。


夏休み明けにアメリー達は、人買に誘拐されたとして行方不明であることが明かされる予定だ。


学園内で真相を知るのは、私とディオン様、それからエメ達だけである。


「ルナリアちゃん、今日から宜しくね」
「本日よりよろしくお願い致します。アネット様のお役に立てるよう、精進致します」


夏休みに入って三日目の朝。


私はグラニエ領にいた。


今日から、アネット様とクロエさんの傍で侍女として学ばせて貰えることになったのだ。


「ディオンと離れ離れになって寂しいでしょうけど、その分何時でも私に甘えて良いからね。何なら、お姉様って上目遣いに呼んでもいいのよ?」
「上目遣いって……お嬢様の方がルナリアより低いでしょうに」
「クロエ!聞こえてるわよ!」
「い、いえ。寂しいなんてそんな!わたくしはグラニエ家に仕える身。アネット様の元でお役に立てるだなんて光栄で御座います」


本来、私はアネット様の侍女となる為に育成科に通わせて貰っている身だ。


学園を卒業し、グラニエ家の満足いく結果を出すことが出来れば晴れてアネット様の侍女の一人となれるのだ。


ディオン様は今、パトリス殿下や側近達が抜けた穴を埋める為に奔走していて王都にあるグラニエ家にいる。


学園や寮生活でディオン様と共にいる事が多かったからか、忘れていた。


私は、ディオン様の侍女では無く、傍にいれる存在では無いのだと。



アネット様に救われた人生。


これから先の人生を彼女に捧げる覚悟で、伸ばされた手を握ったのに、心の奥ではディオン様の傍に居れない事が寂しいと感じている。


こんなこと……思っちゃダメなのに……


「嬉しい事言ってくれるわね。……だけど、無理して自分を偽っては駄目よ。自分の気持ちには正直でいなさい」


アネット様は私に勢い良く抱き着き、微かな声で囁いた。


驚いてアネット様を見詰めるとニコリと笑顔で返された。



アネット様は何処まで知っているのだろうか。



もしかして、私がディオン様に抱く気持ちに気付かれているのでは無いかと、冷や汗が伝う。


「ふふっ。実はね、ルナリアちゃんに紹介したい子がいるの」


何事も無かったかのように私から離れ、笑顔で手を合わせた。


「紹介したい方……ですか?」
「ええ。入ってきなさい、シロ」


アネット様は部屋の外に向かって声をかける。


背後の扉を振り返るが、


「シロちゃ~ん?しーろー?」


一向に誰かが入って来る気配はない。


「クロエ」
「はぁ……」


両手を腰に当て呆れた様子で、クロエさんの名前を呼ぶと、彼女は溜息を漏らしつつ扉へと向かった。


「ほらっ、シロ起きろ。お嬢様がお呼びだ」


扉を開け外に出ると、直ぐにクロエさんは戻って来た。


片手には仔猫よろしく首根っこを掴まれた少女がいた。


「あの方は……」
「シロよ。今日から貴女の師範となる子よ」
「え?」


少女は未だ半寝状態でクロエさんに怒られている。


見るからに、十二、三歳といった年齢だ。


「ああ見えてもルナリアちゃんと同い年なのよ。」
「え!?」


驚愕に目を見開く。


「ルナリアちゃんには、グラニエ領にいる間シロから武術と護身術を教わってもらうわ」


未だ理解が追い付かない私を他所に、アネット様は告げる。


私は、育成科の授業でも武術や護身術を苦手としていた。



だから、アネット様は私が更に上にいけるように配慮して下さったのだろうか。



「シロ、今日からお前も教える側になるんだ。しっかりしろ。」
「んーう、」
「ルナリアと申します。本日からよろしくお願い致します、シロ様」


眠そうに目を擦るシロ様の前に歩み出て挨拶をした。


「君がルナリア?」


頭を下げていると、視界に白い物体が映りこんだ。



毛先に行くにつれて薄い青が混じった白い髪に、長い睫毛も全て白く、覗く瞳はサファイアの輝きを放っていた。


「キレイ……」


思わず口をついて出た言葉だった。


シロ様は一瞬目を見開いて驚く。


「はっ、す、すみません。思わず見蕩れてしまって」
「ルナリア……。うん、シロ、ルナリア気に入った!」
「ふふっ、良かった。シロならそう言ってくれると思ったわ」
「アネット様、シロのことよく分かってる。好き」
「ありがと。私もシロちゃんのこと好きよ」
「えっと……あの?」


流れについて行けず、狼狽えているとクロエさんに肩を叩かれた。


「シロがルナリアのこと気に入ったから、弟子にしてもいいと許可が出たんだ。」
「そ、そうなんですか?」


今のやり取りでは、そんな会話には聞こえなかったが、クロエさんが言うならば間違え無いだろう。


「よろしく、ルナ!」
「よろしくお願い致します。シロ様」
「シロでいい。私もルナって呼ぶから」
「で、ではシロさんと」
「だめ。シロ」
「し、しかし、シロさんはわたくしの師匠となる方ですし」
「しーろー」
「ルナリアちゃん、シロの望む通りに呼んあげて頂戴。シロはルナリアちゃんの事気に入ったみたいだから仲良くしたいのよ」
「分かりました。では、シロと呼ばせて頂きます」
「敬語も無し!」
「畏まり……わ、分かったわ」
「よし!」


シロは満足気に頷くと私よりも小さな身体でぎゅうぎゅうと抱き着いて来た。


小さい子が姉妹に甘えているような姿に、微笑ましくなってシロの白い髪に手を滑らせ撫ぜた。


「良いわね。美人姉と美少女(妹)が戯れる姿は」
「お嬢様、公爵家のご令嬢ともあろう御方が鼻血を垂らさないで下さい。それと、ルナリアとシロは同い年です」
「シロ、良かったわね。ルナリアのこと気に入ったみたいね」
「うん、ルナの事好き」


シロは満面の笑みで答えた。


その笑みの破壊力は抜群で、私はすっかりシロの虜となってしまった。


「ああ~ん、可愛いいいいい」
「お嬢様しっかりして下さいませ」
「はっ、そうだったわ。ルナリアちゃん、シロは外見はとっっっっても可愛いけど、訓練はエグいから気を付けて」
「え、えぐ?え?」
「お嬢様、またわけの分からない言葉を。はしたない言葉はお控え下さい」


アネットはクロエさんから差し出されたハンカチで鼻血を拭いながら、親指を立てる。


エグい程の訓練とはどんなものなのかと私は頬を引き攣らせる。



「シロはクロエの一番弟子で、クロエの次に強いから頑張ってね!」
「ルナ、お外行く」


平素に戻ったシロに腕を引かれ、アネット様にウインクで見送られて部屋から連れ出された。


果たして、私は五体満足で訓練を終えることが出来るのでしょうか……
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